闇の聖剣に選ばれてしまった俺氏、孤立無援は避けたい所。

武士部者灯油

聖剣認定試験

───かつて、世界を破滅の危機から救った5人の英雄がいた。

 その英雄達はこの美しき世界を脅かす魔王を倒し、その5人の英雄は伝説の"聖剣使い"と呼ばれる様になった。


 やがて、その5人の聖剣使いは死を迎え、魔王が死の直前に放った来るべき脅威に備え後の世代に聖剣を託す様、国王へと語り継いで欲しいと頼み込んだ。


 国王は聖剣使い達の頼みに、首を縦に振り了承し、四本の聖剣の所有者は。

 50年の周期にわたって使用者が移り変わる様になって行った。


 紅蓮の火炎を司る、正義の者しか手にする事はできない聖なるの炎を纏った聖剣「イフリート」。

 

 そして、蒼き水流を司る、正義の者しか手にする事はできない誇り高き海の聖剣「オーシャン」。


 そして、深緑の風を司る、正義の者しか手にする事はできない自由の如き嵐の聖剣「エアリアル」。

 

 そして、怒気の地面を司る、正義の者しか手にする事はできない荒々しい大地の聖剣「ランド」。



 そして、誰にも靡く事がなく、この剣を手にしたのはたった一人の極悪人。

邪悪の王しか手にする事はできない

暗き深淵を司る、邪悪で極悪な闇の聖剣「邪王剣暗黒」。


 

 ──今宵も、聖剣を手にする為、500人の参加者が集められるのだった。






─────






───

─ ── ─ ───

─ ────

───……





とある王都のはずれにある辺境の村、村の名は"スレイ町"。

村の人数は多く無いし、何処か誇れる様なこれといった特徴など無いが、自然に育った豊かで麗しい自然と採れたてで新鮮な作物が美味しいと、僕は評価している。

 

俺の名前は"クローズ"。

今年で年齢16歳になり、実家の農作業と売り捌く手伝いをしている。

何処にでもいる様な普通の農家の息子であり、村と同じ様に誇れる所なんて欠片も無い。

強いてあげるならば。この前、山の山菜を取りに言った時、お腹が空いて困っていた女の子に野菜を無償であげた事だろうか。


商売道具として、いつも野菜を警備しているから誰かに分け与えてあげる事が出来る、それは誇れる所なのかもしれない。


それともう一つ、実はこの度俺は聖剣認定試験に抽選する事が出来たのだ。


先月。今年、20回目となる聖剣認定試験が王都で開催される事が決まったらしい。

今代の聖剣所持者が二人死亡し、残りの二人も老衰によって戦いから退いた為、10年ほど早めて早期に聖剣使いを生み出す必要があるとかなんとか。


大抵の人は、聖剣に選ばれる前にその試験会場へ参加する資格を得れず、抽選に落ちてしまう事が殆どであると伝承されている。

もし、見事聖剣に選ばれたら国王やこの国の権力者をも凌駕する程の地位と名誉その他諸々を得れるのが定石である。


「50年ぶりらしいからな……俺、聖剣に選ばれると良いなぁ!」



そんな期待を抱きながら、来るべき試験に向けて俺は畑を耕すのだった。






─────




迎えた試験会場、会場には49人ほどの人物がぞんざいしており、各々が聖剣に期待を込めて賑わっている者ばかりだ。

試験会場に行くには、抽選が確定した紙を受付に見せなければならない為、それを忘れてしまった物は入らないのである。


クローズは忘れてしまった為全速力で自宅まで走っているとか。


皆々が賑わう中、試験会場の中央に台座となるものと"5つ"の聖剣が現れて来た。



「すげぇな……あれが聖剣か!」



赤メッシュが刻まれたロングの青年は、漸く登場した聖剣に興奮した様子であった。



「あのレイピア……好ましいわね」



水色の髪の少女は、自身が聖剣に選ばれるのではなく自分が選ぶ気満々である。



「ん……凄いねパパ」



黄緑色の頭髪をした10歳程度の少女は、

自身の父親に抱えられながら目を輝かせている。



「はっはっはっ!!!此度は貴様に選んでもらうぞ!」



オレンジ色の髪をしたガタイの良い男性は、前回聖剣に選ばれなかった様な事を言っている為、中年以上である事が窺える。


そして、各々の賑わいが最高潮に達した時、司会者の様な人物が現れ中央に佇んだ。

少ししてから、その司会者は告知を開始する。



「お待たせ致しました、それでは、今年より聖剣認定試験が20回目を迎えましたので、今代は十代目と同じく記念すべき世代です」



長ったらしい話が始まったが、多くの参加者はそんなの良いから早く試験を始めろ!と言わんばかりに視線を送る。

参加者は"四つ"の聖剣を早く手に取ってみたい、と言う意志が強く司会者の言葉をちゃんと聞いている人数は少ない。



「えぇ……皆さんのお気持ちは理解していますので、詳しい事は後にして聖剣認定試験を開始いたします。」



司会者はそれを理解している為、手短みに話を終わらせ試験を始める準備に取り掛かった。そして、司会者の男は複数人の騎士達を呼び、台座に置かれてあった聖剣を1つずつ手に取って行った。

各聖剣を手に取り終えた騎士達を見届けて、司会者は参加者に向かって口を開く。



「それでは皆様!これより、"4人"の騎士の元へ行き、聖剣を手に取りください!」



司会者の言葉と共に、4人の騎士達は参加者の元へと近付いて行く。

そして、最初に参加者の内の1人……茶髪の少年が声をあげた。

この少年はレイピア型の聖剣を手にし、天に掲げるが………



「何も起こっていないわ。早く退きなさい」


茶髪の青年は水色髪の少女に押しのけられ、尻もちをついてしまう。

少女はそのまま、聖剣を両手で握り祈る様に目を瞑り、言葉を口にする。

すると、少女の手に握られていたレイピアは光を発して……



「早いですが、水の聖剣「オーシャン」は彼女、"ナガレ"様の手に渡りました。」



司会者はそう言うと、水色髪の少女はレイピア型の聖剣を手にその場から立ち去った。

まるで自分が選ばれるのを最初から分かっていた様な態度に、他の参加者と司会者は少し憤りを感じつつも、次々と聖剣を手に取る。


「いよっしゃぁぁぁ!!!!」



赤メッシュの男、"バーニ"は日本刀を模様した火の聖剣「イフリート」を手に取った瞬間、眩い輝きを放ちながら歓喜の声を上げた。

次々と聖剣を手にするものが現れ、残る聖剣は風の聖剣「エアリアル」、大地の聖剣「ランド」のみとなってしまった。

未だクローズは現れないが………

そして…



「ん……パパ、剣ゲット」



先週11歳になったばかりの少女、レーツェルはマチェット型の風を司る聖剣「エアリアル」に選ばれた。

こんな子供に相応しくないだろうと思う者もいたが、所詮負け犬の遠吠えでしか無いのだった。


そして最後も……



「ガッハッハっ!!!ようやっと儂を選んでくれたか!」



ガタイのいい男"グラディア"は大剣型の大地を司るか聖剣「ランド」に選ばれた。

豪快に笑いながら、涙を流し喜んでいる様は、まるで子供の様にも見える。

そして、"全ての聖剣"が誰かの手に渡ってしまった為、残った参加者はぐちぐち言いながら帰って行こうとしていた。


「聖剣に選ばれた皆様は、この後城までお越し下さいませ」


聖剣に選ばれた者は、司会者の案内の元城へと向かうよう諭された。

晴れて聖剣使いとなる事の出来る四人は、聖剣を携えて歩みを進める……












「あぁぁ!!もう無い!?」



50人目の参加者である男は、他の者達に遅れをとってしまい聖剣を手に入れられず嘆いていた。

既に聖剣を携えている四人を見て、絶望の表情を浮かべるが……



「遅れたか……ぬぅ……」


「クローズ様、もう既に四つの聖剣は他の型に渡ってしまったのですが」


「次があるだろ!誰だか知らないけど次頑張れよ!」


「次は50年後でしょうが……」



絶望して打ちひしがれているクローズを見かねて、司会者とバーニが言葉を掛ける。

バーニに掛けられた言葉は、今のクローズには慰めではなくもう煽りにしか聞こえないのだが、そんなクローズとは裏腹にバーニは笑顔を浮かべていた。

そして、バーニをそっと押しのけて司会者はある棺の様なものを取り出す。



「クローズ様、これを手に取ってみては。如何でしょうか?」


「あれって……邪王剣じゃない、なんでそんな危険物処理してないのよ」


「まだ聖剣あるんですか!?ならそれ下さい!」


「欲しいからと言って手に入る物じゃ無い……」



ナガレが呟く言葉やレーツェルの指摘も気にせずクローズは棺に飛びつく様に起き上がった。

帰宅しようとしていた参加者達が、変な男がいるぞと興味を示し野次馬となっている。



「少々危険ですが、選ばれたなら……」


「ものは試しですよ!」



クローズは司会者からその棺を受け取った。

そして、クローズが棺に触れた瞬間……





───邪王剣暗黒が、闇を放ちながら姿を現した。







邪悪なるもの、暗煙の竜を従いし世界を滅さん


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