第4話 え…私、そんなこと聞いてないんだけど…
放課後。
二人でケーキやパンケーキなどの食事を済ませたのち、恋人の
「美蘭はどこに行くつもり?」
二人で夕暮れ時の街中を歩きながら、真幸から問う。
「それは決まってるじゃん。カラオケじゃんね! 高校生の放課後ならね」
「カラオケか」
高校生らしい放課後の楽しみの一つだが、人前で歌う事に抵抗のある真幸からしたら、ちょっとした拒否反応を見せてしまう。
「真幸は好き?」
美蘭は首を可愛らしく首を傾げて問いかけてくる。
「そこまで好きとかではないけど……あんまり、カラオケに行ったことがないんだよね。それに、人前で歌うのとか、そんなに得意じゃないし」
「そうなの? それ勿体なくない? 人生損してるよ。というか、人前で歌うことくらい、問題ないっしょ。ちょっとした度胸を見せればいいだけだし」
「そうなのかな?」
「そうだって。学校生活でストレスとか感じない?」
「それは感じる時もあるけど」
「だったら、発散しないと! ねッ!」
美蘭は、真幸に笑顔を向けてくれる。
そんな彼女の自然な表情に、胸元が熱くなってきたのだ。
「そうだ、一緒に手を繋がない?」
美蘭から手を差し伸べられ、真幸もそれに応じるように手を繋ぐ。
実際に恋人として手を繋ぐとなると、緊張してくるものだ。
さらに胸元が熱くなり、心臓の鼓動が高まって行くのだった。
ボーカルハウスと書かれた看板が設置された場所こそが、カラオケ専門である。
二人はそのカラオケ店へと入店するのだ。
受付には笑顔で対応してくれる、若めの女性がスタッフ用の制服を着て佇んでいる。
そこで二人は受付をするのだ。
「真幸はこのプランでもいい? この一時間ので」
「そうだね。それでいいよ」
二人はスタッフから見せられたプラン表を前に、相談するように会話していた。
一時間プランだと、終了時刻は七時くらいだろう。
平日という事もあって、明日も普通に学校があるのだ。
長居は出来ず、真幸は美蘭の提案通りのプランを理解して、了承するように頷いた。
「じゃあ、このプランでお願いします」
「わかりました一時間プランですね。では、こちらの部屋のご案内になります」
場所は一階の八番部屋だった。
美蘭は、女性スタッフから部屋の鍵と利用明細書が挟まれた伝票バインダーを受け取っていた。
「ドリンクは一時間プランに含まれておりますので、あちらの突き当りの場所にございますから、ご自由にご利用くださいね」
二人は部屋へと向かうが、その途中にあるドリンクコーナーへ立ち寄って行く。
すると、遠くの方の部屋の扉が開き、そこからとある子が姿を現し、二人がいるドリンクコーナーまでやってくる。
「え、真幸⁉ どうしてここに⁉」
二人の前に現れたのは、同じ学校に通っている
彩芽は驚きの目で二人の事を交互に見やっていたのだ。
「彩芽こそどうして?」
「わ、私はクラスの友達から誘われて、それで来てたんだけど……そちらの方は?」
「この子は美蘭っていうんだけど、同じクラスの子で」
真幸が話し始めた瞬間に――
「よろしくね。真幸と付き合っているんだけど。あなたは、真幸とはどういう関係なの?」
「え、付き合ってる⁉ 真幸って付き合っている人とかいなかったよね?」
突拍子のない美蘭のセリフに、彩芽は目を見開いて動揺していたのだ。
「そうなんだけど。色々あって、今日から付き合う事になって」
「え? 今日から? 私、全然聞いてなかったんだけど……」
彩芽は開いた口を閉じることが出来ず、真幸の言葉を耳にするなり、目を点にしたままであった。
「そういう事なんだ。じゃあ、またね、彩芽」
「え、う、うん……」
真幸は美蘭と一緒に部屋へと向かう事にしたのだが、その場に佇んでいる彩芽は現実として受け入れることができないようで硬直したままだった。
彼女は、二人が立ち去って行く瞬間を見届ける事しか出来ていなかったのである。
「ねえ、真幸とあの子ってどういう関係なの?」
二人で部屋に入った瞬間、彼女の方から話しかけてきた。
「あの子とは幼馴染みたいな関係だよ」
「へえ、そうなんだ。あの子とは付き合ってはいないんだよね?」
「付き合ってないさ」
「そう。だったらいいんだけど。あの子、ちょっとさ」
「え、何かあった?」
「んん、全然なんでもないわ。気にしないで」
美蘭は何かを言いたげそうな顔つきをしていたが、首を横に振っていた。
「じゃあ、今からパアッと歌いましょ! 私から歌いたい曲を選んでもいい」
積極的な美蘭は通学用のリュックをソファに置いて座る。
それから曲を入力する電子端末を手に取り、テンション高めな表情で操作していたのだ。
「ね、真幸はどんなジャンルが好きなの?」
「この頃はアニソンしか聴いていないかな」
「そうなの? じゃ、アニソンってことで。というか、アニソンって週刊系雑誌の漫画のやつ?」
「それとは少し違うかも」
「えー、じゃあ、どんなの?」
真幸もソファに座ると、美蘭が体を近づけてくる。
二人きりの密室な空間で、彼女の体と接触し、さらに肌の熱が高まって行く。
誰からも見られていない環境だが、初めてできた彼女を前に、冷や汗をかき始めていたのだ。
少しでも動くだけで、彼女の柔らかい肌が真幸の腕に接触してしまうほどの距離感である。
真幸の心臓の鼓動は高まっており、その感覚を感じながら美蘭とだけの時間を過ごす事となるのだった。
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