第26話 彼方への選択
赤い非常灯が消えると、地下最深部は冷えるような静寂に包まれる。PhaseThreeの進行が停止し、終焉モジュールは完全に解除された。しかし、その安堵も束の間、玲奈・美咲・翔太の三人は新たな岐路に立たされていた。
1. 血のにじむ代償
装置の前に立つ玲奈と美咲の目には、緑から赤へと変わったスイッチパネルが映っていた。
スクリーンには淡々とした文字が表示されている。
Phase Three: TERMINATED
Subject Alpha13: ACTIVE
Next Stage: PHASE FOUR – STANDBY
「Phase Four……“待機”に入っただけということよね」
美咲が淡々と呟く。
だが、その声は震えていた。
「でも、もう後戻りはできない。Phase Threeを停止したことで、Protocolの次段階に進む“トリガー”を引いたことになるかもしれない」
玲奈は静かに頷きながら、周囲を警戒している。
「Phase Four……“彼方”への道につながる……かもしれない段階。命の選別を越え、記憶の書き換えを超えた――人格を“結合”する、新たなフェーズ……」
壁にはその可能性の痕跡を示すログ行があった。**“人格融合”**という単語が、二人の視線を掴んではなさなかった。
2. 翔太の決断
かつて装置に「生体ログ」として残されていた記録に、三人は再びアクセスしていた。
モニターには、翔太自身が操作したログファイルが映っていた。
「……俺は“選ばれた存在”として生まれたわけじゃない。ここにいるのは――俺の意志。
でも……もし“Phase Four”が俺を“越え”させるんなら、俺は……俺でありたい。
感覚が、私が、消えるなら……俺は……俺だと知りたい」
その声に、美咲は震えながら画面を見つめていた。
「彼、自分で選んでる……覚悟してるんだ」
玲奈の声には、信じられないほどの慈しみが含まれていた。
「でも……それって、“融合”された存在を認めることなの?」
彼らにはまだ答えが見つからない。
3. 脱出の選択
部屋の外では、スーツ姿の部隊が突入準備を進めている。
銃声が遠くから響き、閉鎖された地下施設は戦場の前触れのようだった。
「早く、脱出しなきゃ」
美咲の言葉に、玲奈は深く頷いた。
「でも……彼を置いてはいけない」
その時、モニターが再び光り、装置からメッセージが映し出された。
“Phase Four: INITIATE?”
“Confirm intent: Alpha13”
選択を促されていた。
“Phase Four”へ彼の意志を委ねるのか。
それとも――今すぐ脱出し、すべてを止めるのか。
「どうする、美咲……?」
玲奈が問いかける。
二人は揺れる視線を交わし、互いに相手の目を見つめた。
4. 絆を抱いて
外から銃声が近づいてくる。
開始が迫る“終焉モジュール”を止めた彼女たちには、一時の時間しか残されていない。
「私たち、二人で燃やした線は……ここまで?」
美咲の問いに、玲奈は微笑を返す。
「いや……これは、“彼方への選択”への第一歩よ」
その瞬間、静かに、翔太が声を上げた。
「もう……行く。俺は、“俺”として、そこに行く……」
スクリーン上の文字が、ゆっくりと赤から緑に変わった。
“Phase Four: ACTIVATED by Alpha13”
モニターが光り、装置は小さく振動した。
5. 決死の脱出
装置の動作により、非常口ドアがわずかに開放され、緊急脱出用の階段が露出する。
「行くわよ!」玲奈の声に、美咲はただうなずいた。
三人は装置を背に、緊急階段を駆け上っていく。
通路の先でも銃声と振動が激しくなり、鉄扉が揺れ動くのを感じながら。
やがて、一筋の光が見えた。出口はもうすぐ。
外に続く長い階段を一気に駆け上がると、崩れかけた非常口扉が開き、冷たい夜風が二人と一人を迎えた。
終焉の夜へ
後ろでは装置の動作音が徐々に収束し、緊張感の張り詰めた地下室が封鎖されていった。
三人は無言のまま広いコンクリートの通路を進む。
夜の闇に包まれた都市の灯りが頭上に輝く。
「ここから……私たちの人生は、“彼方”へ進むのね」
美咲が呟く。
玲奈は翔太の腕に軽く触れ、深く息を吸った。
「そう。選ばれし者が端から見ていた“終焉”ではなく、私たちが自ら選んだ“彼方”へ行く」
静かな決意と、これまでの痛みを背負った三人の姿が、夜の街に溶け込んでいった。
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