第32話 光を求めて
**弘治2年(1556年)の悲劇と希望**
甲斐の国、信玄(演:阿部寛)の城下町は、戦乱の影を背負いながらも日々の生活を営んでいた。だが、信玄の心中には深い悲しみがあった。彼の次男である信親(演:三浦翔平)が、疱瘡の影響で失明してしまったのだ。家族の一員として、また未来の武士として期待されていた信親の失明は、信玄にとって大きな痛手であった。
### 不安と希望の狭間
信親はまだ若く、将来を嘱望される存在であった。その明るい笑顔が、もはや見ることができない。信玄は、何とかして息子を救おうと必死であった。家臣や医者たちが集まり、治療法を探すが、疱瘡による失明は回復が難しいとされていた。彼の妻、三条殿(演:吉田羊)もまた、信親の病に心を痛めていた。
信玄は、その状況を打開するため、祈りを捧げることに決めた。城内の神社に赴き、神仏に信親の目の治癒を願った。彼は願文を記し、その内容は痛切な父親の愛情と希望に満ちていた。「我が息子、信親が再びその目を開き、光を取り戻すことを願う」と。
### 祈りの時
ある静かな夜、信玄は再び神社を訪れ、ひざまずいて祈った。月明かりが照らす神社の境内で、彼は一心に信親の回復を願った。周囲には、家臣たちが静かに見守り、信玄の思いを共有していた。
その祈りが届くことを願って、信玄はこれまでの戦の勝利や、国を治めることの責任感と重みを感じていた。戦に明け暮れる日々の中で、家族の絆を再認識する瞬間でもあった。
### 回復への道
時が過ぎ、信親の容体は依然として芳しくない。信玄は何とかして治療に役立つ草や薬を求め、山中の賢者に助けを求めた。その賢者は、古い文献に記されている珍しい薬草の存在を教えてくれた。しかし、それを見つけるには険しい山を越えなければならなかった。
信玄は、信親のためにその草を手に入れる決意を固め、数人の家臣を連れて山へ向かうことにした。道中、彼は数々の試練に遭遇し、厳しい自然と向き合いながらも、信親のためにとひたすらに前進した。
### 運命の草
やがて、信玄は険しい崖を登り、目的の薬草を見つけた。目の前に広がる美しい花々の中で、唯一光を放つように見える草があった。信玄はその草を慎重に摘み取り、信親の元へと急いだ。
帰路に着くと、信玄の心には新たな希望が芽生えていた。信親の目が開く日を信じて、彼は草を用いて治療を施す準備を進めた。
### 希望の光
信親に薬草を用いた治療を行った結果、彼の目に少しずつ光が戻り始めた。最初はわずかに感じるだけだったが、信親は徐々に視力を取り戻し、家族の顔を認識できるようになった。その瞬間、信玄と三条殿は涙を流しながら喜びを分かち合った。
「お父上、私はまた見ることができる」と信親は微笑みながら言った。その言葉は信玄の心に希望の光を灯し、彼にとっての新たな戦いの力となった。
### 終わりに
弘治2年の春、信親は完全に視力を取り戻すことができた。信玄は、息子の復活を祝い、家族の絆の強さを再確認した。戦の中での悲劇や苦難も、こうした愛情と信頼によって乗り越えられるものだと彼は実感した。
これからも信玄は、信親と共に甲斐を守るために戦い続けるだろう。家族の絆を大切にし、共に歩んでいく未来に向けて、彼の心には新たな決意が宿っていた。
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