細長い月の夜に 第4話

 僕と茉由さんはメールを始めて一年後くらいに初めて会った。気持ちよく晴れた日の昼下がりに。

 茉由さんは白いブラウスに青色のロングスカート、スカートには大きめの花がプリントされている。決して派手な顔立ちではないが薄化粧が白い肌によく似合っていてとても美しい。ふんわりとした雰囲気に透明感と清潔感が加わってまるで花の妖精みたいな人だった。


「彰さん、そのジャケット素敵ね。白のシャツによく合ってる」

茉由さんは僕が頑張って出来る限りのお洒落をした姿をほめてくれる。


「茉由さんもおしゃれでびっくりしました。清楚な感じがよく似合ってます」

僕は言いなれない言葉をどこかぎこちなく話す。


「ふふ 無理しなくてもいいよ」

茉由さんは笑って話す。


「ばれました?無理してますよ。女性をほめるという行為に慣れなくて。

でも、本当によく似合ってます!」

茉由さんは大声で笑う。


 「彰さんらしい言い方ね。生真面目でどこかずれてて」


「ふざけてるつもりはないんだけどな」


「わかってる。その素朴なところが彰さんの魅力ね」


茉由さんはしれっと僕がドキッとするようなことを言う。僕は今までに経験のしたことがない気持ちになり、嬉しいような困ったような不思議な感覚になる。


僕らはこんな会話をしながらカフェまでの道のりを歩く。




「素敵なカフェね。普段はドトールばかりだから嬉しい」

カフェに到着すると茉由さんが嬉しそうにしていた。

頑張って調べた甲斐があった。僕は茉由さんが喜んでくれることが嬉しい。


「素敵なカフェだよね。フルーツタルトが美味しいみたいだよ?」


「以前にも来たことがあるの?」


「ううん、ネットの評判でタルトがおいしいってあって」


「じゃ、それにしようかな」


「僕もそうする」


僕らは注文をすると緊張の糸がほぐれたためか、メールで話しているように普段の調子で話しはじめた。昔見ていたテレビのこと、好きな音楽、最近のドラマなど

 茉由さんはゴーストという海外ドラマの主人公とパートナーの関係がいかに素晴らしいかを語りつくし、僕はインターステラーの魅力を相手が嫌になるまで語った。


フルーツタルトには紅茶がよくあった。


なにもかもが非日常であり、その非日常がとてもいい時間だった。

まわりの人達が風景に溶け込み、僕ら2人だけの特別な時間、僕たち2人だけの世界。僕らはその世界を十分に堪能する。



「ねぇ、彰さん、少し歩かない?海が見たいわ」


「いいね、少し歩こうか」


 茉由さんに促され、僕らはカフェを出て海沿いの公園をのんびりと歩いた。

潮風と波音がここちいい。カモメたちは雲ひとつない空を我が物顔で飛び回っている。僕らは適当なベンチに腰を下ろし海を見続ける。


「ねぇ、彰さん、1年間ありがとう。彰さんとのやり取りにすごく支えられたの」


「僕も茉由さんとのやり取りがあったから腐らずに頑張れたんだ。こちらこそありがとう」


僕らは少し照れくさそうにする。


しばしの沈黙。

しかし、ここちいい沈黙だった。僕たちは海を眺める。波はどこまでも規則正しかった。茉由さんは今までの規則正しい僕らの関係を発展させたいのだろうか?そんなことが頭をよぎり不安になる。僕は茉由さんとの関係を今の関係から発展させたいという思いもあるが、それ以上に今の関係性が壊れてしまうことが怖かった。また、モノクロームの世界に戻ってしまうことが怖かった。


不安と期待_不安のほうが大きい。

それくらい、以前の_まるで穴を掘っては埋めるだけの日々に戻ることが怖かった。




「彰さん、そろそろ帰ろ」


「ああ、うん」


「また会おうよ」


「うん、今度はディナーがいいな」


「そうしようか」


駅までの短い時間、そんな言葉が並んでいた。

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