第46話 妹に正直に相談する夜

ある夜、智也はどうしても耐えられなくなり、妹の彩香に正直に相談することに決めた。これまで彼女には頼りたくないという気持ちが強かったけれど、今はもう限界だった。更衣室やトイレ、周囲の女子たちとの距離感に苦しみ、男としての欲求を抑えることも難しくなってきた。


何とか乗り切ろうとしたが、どうしても一人では解決できない。


智也はスマホを手に取り、妹の彩香に通話をかけた。普段はあまり相談しないし、特にこんなことを打ち明けるのは気が引けたけれど、今は彼女しか頼れる人がいなかった。


「…彩香、ちょっと相談があるんだけど。」


少し緊張しながら、電話越しにそう言うと、彩香の明るい声が返ってきた。


「どうしたの?何か困ってる?」


彼女の声はいつも通りで、特に心配している様子もなかった。だからこそ、智也はどう話を切り出すべきか迷ってしまった。


正直な気持ちを打ち明ける


「…いや、なんかさ、最近さ、彩香として過ごすのはだいぶ慣れてきたんだけど、色々とキツいこともあってさ…」


言葉を選びながら、智也は少しずつ本題に入った。更衣室での出来事や、トイレでの緊張感、そして周りの女子たちとの距離感が、精神的にも肉体的にも負担になっていることを打ち明けた。


「特に、更衣室でさ…女子の匂いとか、そういうのに耐えるのが本当に辛くなってきたんだ。お前だって知らない男が更衣室とかにいると思ったら嫌だろう? 正直、男としての本能を抑えるのがしんどい…」


電話の向こうで一瞬静かになった。きっと彩香も、何と返せばいいのか戸惑っているのだろう。


数秒後、彩香が笑いながら答えた。


「そりゃあ、仕方ないよね。男の子が女子の中に混ざってるんだから。でもそれくらいはがんばってもらわなきゃ。むしろ役得役得!楽しんじゃいなよ!」


彼女の軽い返答に、智也は一瞬困惑した。


「いや、マジでヤバいんだって。何とかならないかな?」


智也は真剣な声で訴えたが、彩香はまだどこか楽しそうだった。


「そっか、まあ確かに大変そうだね。でも、私も戻れないし、もう少しがんばってよ。それに、ボディスーツの効果は絶大でしょ?それでなんとか乗り切れるんじゃない?」


彼女の言葉は楽観的だったが、智也はその明るさに少し救われた部分もあった。


対策を考えるも…


「ボディスーツで何とかしてるけど、それでも限界があるよ。」


そう言いながら、智也も少しだけ冷静になれた。妹はおそらく、こんなことを気楽に話してくれることで、智也の気持ちを軽くしようとしてくれているのかもしれない。


「うん、確かにね。じゃあ、次の対策としては…そうだな、もっと徹底的に女性らしい振る舞いを身に着けるとか?そうすれば、気持ちも少し変わるかもよ?」


彼女は笑いながら提案してくれたが、その内容はあまり現実的ではなかった。それでも、こうして相談できること自体が、少しだけ智也の気持ちを楽にしてくれた。


「まあ、ありがとう。何とかもう少しがんばってみるよ。」


結局、具体的な解決策は見つからなかったけれど、妹と話したことで少しだけ気持ちが軽くなった。彼女が自分なりに支えてくれていることが伝わってきたし、もう少しだけこの生活を頑張ってみようと思えた。


「彩香、また困ったら相談するわ。おやすみ。」


そう言って通話を終えた。結局、自分で何とかするしかない。だが、少なくとも今は、もう少し「彩香」としての生活を続けていける気がした。

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