第44話 智也の視点-事前の準備が功を奏す
お泊まり会の後、みんなで帰る途中、俺は緊張感を隠しきれなかった。彩香として過ごすことは、これまで何度もあったけれど、今回ばかりは違っていた。玲奈が何かに気づいている――その鋭い視線は、言葉にしなくても俺の正体に疑念を抱いているのがわかった。
彼女がどこまで知っているのか、あるいはただの勘違いなのかはわからない。でも、今は気を抜くことができない。
「彩香、少し話せる?」
帰る際、玲奈が俺に静かに声をかけてきた。声のトーンは穏やかだったが、その目には鋭い光が宿っていた。俺は心の中で焦りつつも、表情に出さないように微笑んで振り返った。
「うん、どうしたの?」
表面上は冷静を保ちながら、内心では「やばい、何か感づかれてるか?」と不安が駆け巡る。玲奈の視線が、俺の体をまるで観察するようにじっと見つめているのがわかる。
玲奈は一瞬の間を置いてから、低い声で続けた。
「彩香、本当に…女の子なの?」
その言葉を聞いた瞬間、俺の心臓が大きく跳ね上がった。まさか、こんなに直接的に来るとは思わなかった。だが、すぐに言葉を整え、女性的なトーンで返答をしなければならない。
「えっ?な、何言ってるの?私が女の子じゃないって、どういうこと?」
言葉に女性らしさを持たせつつも、内心では「マズい、ここでどう切り抜けるか…」と焦っていた。
玲奈の目はじっと俺を見つめたままだ。その視線が、まるで俺のすべてを見透かそうとしているように感じられた。
「彩香、ちょっと確認させて。」
玲奈はさらに一歩踏み込み、俺の身体に手を伸ばしてきた。俺は内心「くそ、マジかよ…!」と叫びたくなったが、何とか平静を装う。
玲奈の手が俺の胸に触れる。その瞬間、彼女の手の感触が直接伝わってきて、俺は体が一瞬こわばった。
「どうしよう…こいつ、本気で確かめに来てる…」
心の中で冷や汗が流れるが、俺は何とか言葉を紡いだ。
「ちょ、ちょっと玲奈、何するの…」
しかし、玲奈はさらに大胆に、手を下腹部に伸ばしてきた。
「待って…そこはダメだろ…!」
心の中でそう叫びながらも、外では動揺を表に出さないよう必死だった。よく考えれば女性同士であっても異常な行動なのだが、そこまで頭が回らない。
玲奈の手が下腹部を弄り始め、俺の心拍数は一気に跳ね上がった。
「彩香、本当に…」
玲奈の手の感触が伝わってきて、その圧迫感が俺の体にじわじわと緊張をもたらしていた。この状況で冷静でいるのは至難の業だ。
「も、もうやめてよ…恥ずかしいじゃない…」
必死に女性的な言葉を保ちながらも、内心では「くそ、早く終わってくれ…!」と叫んでいた。玲奈の鋭い視線と、彼女の手が撫で回す行為がどれだけ俺を追い詰めているか、彼女は気づいていないだろう。
俺はどうにか言葉を発しようとしたが、喉が詰まったようで声が出なかった。玲奈の手がスーツの表面を確認するように動くたびに、俺は冷や汗が流れるのを感じた。
「…大丈夫、わかった。」
玲奈が突然手を止め、そう言った。その瞬間、俺は内心で安堵のため息をついた。
玲奈が申し訳なさそうな表情で見つめてくる。
「もう、玲奈ってばやめてよね。」
――実は、玲奈の視線を気にしていた俺は、妹の彩香に相談して事前対策を取っていた。
彩香の留学とも実は関係あるのだが、彼女が開発したリアルなボディスーツで身体部を覆っておいたのだ。人工皮膚を使っており、見た目、感触ともに人のものと見分けがつかない。
桜の家を出る前にトイレでそれを服の下に装着しておいたのだ。
もちろん、かなり賭けとなる行動だった。
本来なら特殊メイクと組み合わせるので、本物の肌との繋ぎ目は不自然に見えるし、観察眼に優れた玲奈だと見破ってしまう可能性がある。
今回はなんとか乗り切ることができた。
とはいえスーツ越しに下腹部を触られた際は肝が冷える思いだった。玲奈、さすがに躊躇なさすぎるだろう。
「よかった…でも、次は…」
俺は玲奈に疑念を持たれたままでいることが危険だと感じつつも、今は何とかやり過ごしたことに感謝した。
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