第38話 霞の視点(2):彩香ちゃんの優しさの裏に
あの日、私は体調を崩してしまった。疲れが溜まっていたのか、熱が出て、動けなくなってしまった。そのことをサークルメンバーには伝えておらず、一人で家で休んでいたのだけれど、彩香ちゃんはどうやってか私の体調が悪いことに気づいて、突然訪れてきた。
夕方頃、インターホンが鳴った。私はまだベッドの中で動けずにいたので、誰が来たのかも確認できないまま応じた。
「霞、大丈夫?入ってもいい?」
その声が彩香ちゃんだとわかって、驚きと共に少し安心した。
その時は彼女が来てくれたことが嬉しかった。
「うん…入って…」
声を出すのも少ししんどかったけれど、彩香ちゃんは部屋に入ってきて、すぐに私の様子を見て心配そうに眉を寄せた。
「大丈夫、ひどい顔してるよ。何か手伝うことある?」
彩香ちゃんはすぐに台所に向かい、水を持ってきてくれた。それから、冷たいタオルを用意して、私のおでこにそっと置いてくれた。彼女が私のためにこんなに気を使ってくれているのを見て、私は少し心が温かくなった。
「ありがとう、彩香ちゃん。来てくれて本当に助かったよ…」
私がそう言うと、彩香ちゃんは微笑んで「そんなの当然だよ」と言った。その表情は優しく、私がいつも感じていた違和感や不自然さが、少し消えたように見えた。
でも、やっぱりどこかぎこちなさも残っていて、彩香ちゃんは何かを隠していることを感じ取っていた。
彩香ちゃんが私の額に手を当てて、熱を確認してくれたとき、私は彼女の手の感触に何か違和感を覚えた。それは、男の子の手のような感覚だったのだ。もちろん、彩香ちゃんは女の子だからそんなことはないと思うけれど、どうしてもその感覚が拭い去れなかった。
「彩香ちゃんって、こんな手をしてたっけ…?」
心の中でそんな疑問がわき上がったものの、彩香ちゃんの優しさがそれを覆い隠していった。彼女が自分を犠牲にしてまで私を看病してくれるその姿勢に、私はただ感謝するしかなかった。
その日の夜、私は彩香ちゃんに看病されながら、ふと考えた。彼女が何かを隠していると感じるのは、もしかしたらこうした優しさや思いやりが、本当の彼女を隠しているからなのかもしれない。私はそれを知る術を持たないけれど、いつか彼女が自分から話してくれるのを待つべきだと思った。
彩香ちゃんは部屋を片付けた後、私に「無理せずに休んでね」と言って帰っていった。その背中を見送ったとき、私は彼女の秘密に触れる日が来るかもしれないという予感を強く感じていた。
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