第27話 展示会後の新たな日常(2)

コンペティションが徐々に近づき、サークル内の熱気はますます高まっていた。智也は、妹・彩香として引き続きサークルでの活動に没頭し、次の作品作りに取り組んでいた。これまでの経験から少しずつ自信をつけてきた智也だったが、玲奈との微妙な距離感や、作品に対するプレッシャーが彼を悩ませ続けていた。


ある日、玲奈が再び智也に近づいてきた。彼女は常に冷静な表情を保ちながらも、智也の行動をどこか注意深く見つめているようだった。


「彩香、今回はどんなテーマで作品を作っているの?」


玲奈が問いかけた。智也は少し緊張しながらも、できるだけ自然に答えようとした。


「今回は、感情をテーマにしてるんだ。自分の中で感じたことを、できるだけシンプルに表現したくて。」


智也の言葉に、玲奈は少し考え込むようにうなずいた。


「そう…。彩香は、いつも考え込むことが多いけど、今回の作品は少し違う印象を受けるかもね。楽しみにしてる。」


玲奈の言葉は、一見すると応援のように聞こえたが、その裏には何か探りを入れているような気配が感じられた。智也は心の中で不安が再び膨らんでいくのを感じたが、玲奈が深く追及してこないことにほっとした。


玲奈とのやり取りで少し緊張しつつも、智也は作品作りに集中することに決めた。コンペティションの作品テーマを「感情」に絞り込み、これまでの経験や感じたことを作品に反映させようとしていた。妹・彩香としての生活を通して、自分が感じた不安や葛藤、それでも続ける強さ――そういったものを作品の中で表現しようとした。


「自分にしか描けないものを描く。それが今回の目標だ。」


智也はそう決意し、スケッチブックにペンを走らせた。サークルメンバーたちがそれぞれの作品に集中する中、智也もまた自分の道を模索し続けた。


智也が作品に取り組んでいる最中、桜と霞も智也をサポートしてくれた。特に桜は、作品に対してポジティブなフィードバックをくれる存在であり、智也にとって彼女の明るさが励みになっていた。


「彩香、すごくいい感じだね!私も、もっと頑張らなきゃって思えるよ。」


桜が元気に言うと、霞も優しくうなずきながら智也の作品を見つめていた。


「彩香ちゃんの作品は、あなたらしさが出ているわ。焦らずに、少しずつ進めていけば、きっと素敵なものになるよ。」


二人の言葉に励まされ、智也は少しずつ自分のペースで作品を仕上げていった。サークルの仲間たちと共に、次のステップに向かって進むことができるということが、智也にとって大きな支えになっていた。


コンペティションの準備が進む中、玲奈とのやり取りはさらに続いた。彼女は智也に対して特に突っ込んだ質問をしてくることはなかったが、時折、彼をじっと見つめるその視線に緊張を感じた。


「玲奈は、やっぱり何か気づいているんじゃないか…?」


智也は、玲奈が彼の正体に気づいているのか、それともただ気にかけているだけなのかをずっと考え続けていた。だが、玲奈が直接何かを問いただしてこない以上、彼はとにかく自分の役割を果たすしかなかった。


展示会の成功を経て、サークル内では次のコンペティションに対する期待が高まっていた。智也も自分の作品を無事に仕上げ、他のメンバーたちと共に発表の準備を進めていた。


「今回もみんなで頑張ろう。」


智也はそう自分に言い聞かせ、再びサークルメンバーたちとの絆を感じながら次の挑戦に向けて意気込んだ。サークル内では、誰もが互いに支え合い、励まし合いながら作品を仕上げていった。


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