42 俺の魂
「お、おい、二人とも人間にしか見えないぞ」
「いきなり魔族扱いはないんじゃないか?」
他のメンバーが戸惑ったように言った。
「魔族の中には人間そっくりの種族も少なくないそうです。見分けるには魔族特有の邪悪な波動――魂や、あるいは魔力の質を分析するしかありません」
マリエルが言った。
「後者をするためには一流の解析魔術技師化、ある程度の規模の魔導設備が必要です。ですが、前者なら――まがりなりにも【聖女】のクラスにある私の能力で判別できますから」
「……それでいいよ。やってくれ」
俺は彼女を促した。
「失礼します」
マリエルが俺に向かって手をかざす。
「俺はどうすればいいんだ?」
「特に何も。私があなたの体に触れますから。しばらくの間、魂の属性を確認させてください」
と、マリエル。
「こういったことをするのは、本来は大変失礼だと承知しています。ですが、万が一あなたがたが闇の眷属だった場合、私や仲間たちに危害が及ぶ可能性が高いです。なので――」
「分かってる。それで疑いが張れるなら、存分にやってほしい」
俺は素直にうなずいた。
「では――」
マリエルが俺の肩の辺りにそっと手を触れる。
どくんっ……!
瞬間、嫌な悪寒が背筋を通り抜けた。
自分以外の何かが自分の中に入り込み、神経をまさぐられるような不快感だった。
「ぐっ……!」
思わずうめく俺。
――お前は、誰だ?
体の内側に声が響いた。
「お、俺は……」
――聖か、邪か?
――人か、魔か?
問いかけが続く。
俺は――。
心は、人間だ。
けれど、この体は魔族のものだった。
前世の俺はもちろん人間だけれど、今の俺はなんなんだろう?
魔族という『入れ物』に入っているだけの人間?
それとも魔族そのもの……?
が、その答えを出す前に、
「はい、終わりました」
幸い、マリエルは数秒で俺から手を離してくれた。
「……なるほど、確かにあなたは人間ですね」
マリエルが言った。
「疑ってしまい、申し訳ありませんでした」
「いや、いいんだ」
「ですが、そちらの方は――」
マリエルがレキに視線を向ける。
「俺の疑いが晴れたんなら、それ以上はもういいだろう」
俺はマリエルをにらむ。
少し怒ったような雰囲気を出しておいた。
「人間である俺が、魔族とコンビを組んでいるって言いたいのか? それは俺に対する侮辱だろう」
「――確かに。すでに疑いが張れている以上、追加で調べるのはあまりにも無礼ですね」
言って、マリエルはその場に平伏した。
「まことに申し訳ありませんでした」
「い、いや、そこまでしなくてもいいだろう」
俺は慌てて彼女を助け起こす。
「君たちからすれば警戒するのは当然だ。でも、その疑いは晴れた。これで話は終わりだ」
と、にっこり微笑む。
「寛大なお言葉、恐れ入ります」
そのとき――不意に気づいた。
マリエルがレキの方をじっと見つめていることを。
その目に浮かぶ冷たい光を。
たぶん、彼女はまだ疑っている――。
と、そのときだった。
「――モンスターの気配があります」
ふいにマリエルが言った。
「えっ」
【メタルゴーレム】以外にも、まだモンスターがいるのか?
「いえ、あなたたちが倒した【メタルゴーレム】がすべてではなかったようですね」
と、マリエル。
「まだ全滅していません」
****
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