第4話 木乃香姉さんに甘々看病されまくる
翌日――
「うーん……ちょっと、風邪を引いたかも」
朝起きたら、喉が痛くて体が何か全体的にだるい。
今日はバイトが休みなので助かったが、折角の日曜だってのに、まいったなあ。
「本当に大丈夫?」
「ただの風邪だから平気だよ。木乃香姉さん、モデルのバイトあるんだろ。行ってきなよ」
「うん……無理しないでね」
もう子供じゃないのだから、風邪を引いたくらいで、木乃香姉さんの手を煩わせることはない。
でも、ちょっと体がだるいなあ……風邪薬飲んだら、寝ようと。
「…………」
暇だ。
昼過ぎまで寝たら、少し楽になったが、家の中があまりにも静かすぎて落ち着かない。
多分、木乃香姉さんが帰ってくるのは、夕方近くになってしまうので、まだまだ一人で寝るしかない。
腹が減ったが、あんまり食べる気も起きない。
「あーあ、やっぱり木乃香姉さんに看病してもらいたかったな」
モデルの仕事があるので、休ませる訳にはいかなかったが、出来れば付きっ切りで看病してもらいたかったかも。
いつ帰ってくるんだっけか……いつもは、そんなに遅くはならないけど、現場が遠いとかなり遅くまでやっている事はあるので、今日もそうなったら、ヤバイかも。
「はあ……ちょっと、寝ようっと」
寝るしかないのでしばらく寝る事にする。
起きたら、木乃香姉さんが帰って来てくれると良いなあ……。
「…………」
「ただいま。あ、まだ寝ているんだ」
それからどのくらい時間が経ったか、ウトウトしている間に、木乃香姉さんが帰ってきたような声が聞こえて来た。
何か妙に早い気がするけど、夢でも構わないや。
木乃香姉さんの声が……、
「ふふ、可愛い寝顔。えい♪」
「う……うわっ! こ、木乃香姉さん?」
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
急に頬を指で突かれたので、何事かと飛び起きると、木乃香姉さんが俺の枕元に座って、見下ろしていた。
「あれ、もう帰ってきたんだ」
「うん。今日は現場が近かったし、撮影も早く終わったから」
「そっか……よかった」
一人では心細かったので、早く帰って来てくれたのはありがたかった。
「お粥作ったよ。食べる?」
「うん、ありがとう」
「へへ。はい、あーん」
「う……自分で食べれるって」
「何よ。昨日、散々やったでしょう」
昨日のデートで何度もあーんして食べさせ合っていたのを思い出し、恥ずかしさのあまり、顔が真っ赤になってしまう。
「ほら、いらないの?」
「あーん……」
「うん。美味しい?」
「木乃香姉さんが作ったものなら、何だって美味しい」
「んもう、上手なんだから。お粥なんて、誰が作っても同じでしょう。はい、もう一回。あーん」
何て言いながら、お粥を何度もあーんして食べさせてくれる。
すごく嬉しいんだけど、あんまり密着していると、木乃香姉さんに風邪をうつしちゃわないか心配だ。
まあ、その時は俺が看病してやればいいさ。
「ごちそうさま。木乃香姉さん、もう良いよ。あんまり、俺の傍に居ると風邪がうつっちゃうよ」
「平気よ。うつったら、ハル君が看病してくれるんでしょう」
「それはもちろん。でも、学校休んでまで看病して欲しくないんじゃないの」
「当たり前じゃない。学校には行きなさい。でも、家に居る間は、看病してくれれば良いから」
木乃香姉さんが風邪で寝込んだら、当然のごとく、学校もバイトも全部休んで、付きっ切りで看病してやりたいが、彼女はそんな事を望んでないのはわかり切った事なので、やっぱり無理なんだろう。
でも、もう何年も風邪を引いてないんだよな、木乃香姉さん。
手洗いうがいを徹底的にやっているせいか知らないけど、体も丈夫みたいだから、本当に隙が無い。
「薬は飲んだ? ゆっくり休んで、明日熱が下がらないようだったら、無理しないで、学校休みなさいよ」
「わかってる。ちょっと寝るね」
「うん。おやすみ」
お粥を食べて、少しだけ楽になってきたので、寝る事にする。
何か寝てばかりだが、病気だからしょうがないか。
「…………」
「くす、よく寝ているなあ」
それから、また何時間か寝た後、うっすらと意識が覚醒し、木乃香姉さんの心地よい声が聞こえる。
ああ、やっぱり付きっ切りで看てくれていたんだ。
夢でも現実でもそれが嬉しい。
「早く良くなってね」
と、俺の頭を撫でていく。
木乃香姉さんの繊細な手で頭を撫でられると、とても心地よくて、赤ちゃんに戻ったみたいな気分だ。
「…………好きよ……ちゅっ」
「――っ!」
うとうと眠ってしまいそうになった所で、不意に俺の頬に柔らかい唇が触れる。
「い、今の……」
「ふえっ! お、起きていた?」
思わず目を開けてしまうと、木乃香姉さんもまさか起きているとは思わなかったのか、動揺する。
「い、いや……今、起きた所だけど。まさか、ずっと居たの?」
「え、えーっと……ううん、私も今、ここに来たの。ハル君の様子どうかなって」
「そっか……うん、だいぶ楽になったよ」
何てお互い動揺しながらも、誤魔化しているのを見て、何だか物凄くこそばゆい気分になる。
俺達は何をやっているんだろうな……いっそ、起きちゃえばよかったのかな。
「ハル君、顔赤いけど、大丈夫?」
「へ、平気だって。その木乃香姉さん……今のもう一回……」
「え?」
「う。何でもない。おやすみ」
今のキスをもう一回やってくれと、おねだりしようとしたが、流石にこんな事は言えず、布団にくるまって休む。
風邪を引いているってのに、こんな事をされたら熱が冷めないっての。
でも、もう一回やってくれると嬉しいなーなんて。
「くす……もう一回か……じゃあ……」
「ん……」
と俺が寝静まったと思ったのか、木乃香姉さんが俺の頭を撫でながら、また頬にキスをする。
こんな事をされたら、元気にならないわけはなかった
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