第2話 木乃香姉さんとのバカップルランチタイム
「おはよー」
「あ、おはよう」
翌朝、今日は休みだからか木乃香姉さんはいつもより少し遅く起きてきた。
「今日は休みだけど、ハル君は何か用事ある?」
「午前中はバイト」
九時から十三時までだから、もう家を出ないといけない。
自転車で十分もかからない場所だったので、通うには便利だったが、潰れてしまうのは地味に痛いんだよなあ。
「そっか。じゃあ、午後から暇なんだ。なら、一緒にお昼でも食べに行かない?」
「良いよ」
「やったあ。じゃあ、終わったら迎えに行くから。一時までだっけ?」
「わかった。やべ、もう行かないと」
一緒に昼を食べる約束をした後、家を出て、バイト先のコンビニへと向かう。
ちょっとのんびりし過ぎちゃったので、時間ギリギリになりそうだが、まあアバウトな店長だし、まあ大丈夫だろう。
「ありがとうございました」
店に行き、いつものようにバイトを淡々とこなしていく。
土曜日の昼なので、客足は悪くないが、それでも潰れちゃうんだから、経営は良くなかったのだろう。
(そろそろ終わりか……)
時計を見ると、ようやく終業十五分前。
早い所、終わらせて木乃香姉さんとデートしたいなーなんて思いながら、棚にある商品の整理を行っていた。
「いらっしゃいませ。あっ」
雑誌コーナーの前にある生活用品の棚の整理をしていた所で客が来たので、見てみると、何と木乃香姉さんがやってきて、俺を見た瞬間、軽く手を振ってきた。
迎えに来てくれたのか……バイト中は店には来たことなかったんだけど、何か緊張しちゃう。
微妙に木乃香姉さんの視線を感じちゃうし、集中出来ん。
早く終わらないかな……。
つか、何か買いに来たのかなと木乃香姉さんを見てみると、しばらく店内を徘徊した後、ペットボトルのジュースを二本レジに持っていった。
「ありがとうございました」
手早くセルフレジで会計を済ませ、また俺に軽く視線を送りながら、店を出る。
うう、やっぱり可愛いなあ、木乃香姉さん。
早くバイト終えて、デートに行きたい。
「よし、時間だ。お疲れ様でした」
時計の針が一時になり、交代のバイトが来たのと同時に上がる。
木乃香姉さんが外で待ってるんだから、急がないと。
「ごめん、待った?」
「うわっ! は、早いね。もう上がり?」
着替えてタイムカードを打ち、ダッシュで店の前で待っていた木乃香姉さんに声をかけると、まさかこんなに早く来るとは思わなかったのか、ビックリした顔をしていた。
「待たせちゃいけないと思って」
「そんな気にしないで良いのに。あ、はいこれ。バイトお疲れ様」
「ありがとう。じゃあ、行こうか」
さっき木乃香姉さんが買ったペットボトルのジュースをありがたく受け取り、二人でランチに行く。
もちろん、二人で外食に行くのは何度となくあるのだが、今日は妙にドキドキしてしまった。
「えーっと、私はオムライスとサラダとクリームソーダにしようかなー。ハル君は?」
「チキンカレーと、コーラフロートが良い」
「OK。すみませーん。あ、最近は注文はタブレットでやるんだっけ」
近くにあるファミレスに行き、注文を済ませる。
ここのファミレスに来るのは久しぶりなので、注文の方法も変わったみたいだ。
「あのさ。木乃香姉さん、この後、暇?」
「え? 別に用事はないけど」
「だ、だったら、その……一緒にどっか遊びに行ったりとか、買い物とかどうかなって……」
デートと言うのは流石に恥ずかしかったので、そう誘うと、木乃香姉さんも面食らった顔をする。
「くす、デートのお誘い?」
「そ、そういうんじゃねえけど。どうせ、暇だし、休みで天気が良いからと思ってさ」
デートのお誘いって、完全に見透かされているじゃんか……この小悪魔っぽい笑みも、凄く色っぽくて可愛らしいなあ。
「別にそんな顔をしなくても。ハル君とのデートなら、いつでもOK。じゃあ、何処に行こうか?」
「本当? えっと、じゃあ……か、カラオケとか」
二人きりになれる場所というと、咄嗟に思いついたのがそこだったので、そう言うと、
「カラオケね。あれ、ハル君と一緒に行くの初めてじゃないかな」
「そうかも。嫌なら良いけど」
「嫌な訳ないじゃない。あー、楽しみだな」
快くデートの誘いをオーケーしてくれたので、一先ずホッとする。
こんなに緊張する事もなかったんだな。
というか、これからはもっとガンガン誘ってしまっても良いのかもしれない。
もしかしたら、木乃香姉さんの彼氏に間違われる事はあるかも……なんて期待もしてみたり。
「お待たせしました」
「あ、来たね。いただきます」
注文した料理が来たので、早速食べてみる。
コーラフロートとクリームソーダも同時に来たのか。
「あのさ、木乃香姉さん」
「何?」
「その……それ、美味しい?」
「え? オムライス? 美味しいよ。食べる?」
「う、うん……」
ダメもとで、あーんしてもらおうと思ったが、木乃香姉さんは俺にオムライスが乗っている皿を差し出す。
ちっ、姉さんが使っているスプーンであーんしてもらおうと思ったが、やっぱりそこまでは……いや、ここは思い切って。
「あーんして食べさせてくれない?」
「は? 何で?」
「彼女にそうやって食べさせて貰うの夢なんだ。でも、彼女とか出来そうにないし、代わりに木乃香姉さんにやってもらいたいなーなんて」
と、相当無理がある理由であったが、木乃香姉さんに甘えるような口調で頼んでみる。
だ、駄目かな?
「くす、何それ……じゃあ、はい。あーん」
「え? 良いの?」
「その位なら、させてあげるよ。んもう、しょうがない弟くんだなあ♡」
と何と木乃香姉さんは自分が使っているスプーンでオムライスを一口すくい、俺にあーんさせようとしてきた。
こ、これは間接キスに……いや、気にしたら負けだ。
「ゴメン、我侭言って。あーん」
お言葉に甘えて、パクっと差し出されたオムライスを食べる。
おお、夢にまで見たシチュエーションがこんなあっさりと。
「美味しい?」
「うん、めっちゃ美味しい」
「じゃあ、そのチキンカレーも食べたいな。一口、ちょうだい」
「え? あ、ああ。はい、あーん」
「あーん♪ パク。きゃー、結構辛いね」
何と俺のチキンカレーも一口ちょうだいと言ってきたので、俺が使っているスプーンでカレーを一口分盛り、木乃香姉さんの口に運ぶ。
か、完全なる間接キス……これ、完全にカップルみたいな甘々シチュエーションじゃないか。
甘酸っぱすぎて、悶絶しそうだよ。
「くす、何か良いね、こういうの」
「そ、そう。恥ずかしくなかった?」
「ハル君が言い出したんじゃない。まあ、恥ずかしいけど、カップルのまねごとをやったと思えば、悪くないんじゃない?」
真似事か……それで終わるのは嫌なんだが、今はそれも悪くないか。
「ねえ、クリームソーダも一緒に飲もうか。ほら、ストローここに差して」
「え、ええ? そこまでやる?」
「いいじゃん。嫌?」
「あ、ああ。じゃあ……」
何とカップスジュースまで一緒にやろうと言い出し、遠慮なく木乃香姉さんのクリームソーダにストローを差す。
「ん……」
ちょっと窮屈かも……でも、良い。
どこからどう見ても、こんな事をするのはカップルだもんな。
「ん……じゃあ、今度はハル君のコーラーフロートも飲もうっと。えい♪」
「あ、俺も」
何口か飲んだ後、今度は俺のコーラフロートを木乃香姉さんが手に取り、ストローを差すと、俺も一緒に差して顔を寄せて飲む。
正にバカップルも良い所だが、俺が想像していた以上の甘々な彼女のランチタイムを思い切って堪能していったのであった。
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