第75話

「あと、少しだから。」






それから彼はそんな意味不明な言葉を残して、部屋から出て行った。










あと、少しだから───?




それは、この船旅の終わりが近いってこと──?




わたしが売られる日が近いっていうこと──?








彼の優しさは、偽りなのだろうか。


わたしの家族が長年わたしを騙していたように──。


知り合って間もない彼の優しさなんて、やっぱり薄っぺらなものなのか──。







彼が出て行った後、わたしは裸のまま、がっくりと床に膝を付いた。


絶望で心は打ちひしがれそうなのに、彼の唇ががさっき触れた額は───。






───まだ、ジンジンと温かかった。

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