伝説の剣、折っちゃった(・ω<)⭐︎
雨降って地固まる
第1話 勇者の伝説
【かつて12の聖遺物を扱い、魔王を討ち滅ぼした伝説の勇者⬛︎⬛︎⬛︎。魔王との戦いで傷を負った勇者⬛︎⬛︎⬛︎は常人には辿り着くことの出来ない楽土にて傷を癒している。この地に再び魔王が現れる時、勇者⬛︎⬛︎⬛︎もまた魔王を討ち滅ぼさんと現れるだろう。】
勇者⬛︎⬛︎⬛︎伝説より
◆◆◆
「いよいよ…今日か。」
冷たい風が頬を撫でる。
村外れにある丘の上で、俺は岩に突き刺さっている一本の剣と向かい合っていた。
「思えば、お前とも長い付き合いだよな。」
傍目から見れば俺は剣に話しかける痛い奴だろう。
事実、その通りなのだが今までの長きに渡る俺とこの剣の関係を思えば声に出さずにはいられなかった。
出会いは、13年前。
当時5歳だった俺は
「いいか、レイン。この剣は勇者様にしか抜けない伝説の剣なんだ。ヘントラー家は再び勇者様が現れるその日まで、この剣を守る役割を与えられている。お前もその時が来たらしっかり守り抜くんだぞ。」
親父は一族の誇りやら自分の守っている剣の凄さを伝えたかったみたいだが、申し訳ないことに俺の関心は別のところにあった。
……勇者しか抜けないって本当だろうか?
5歳の俺がこう考えてしまうのも無理はないことだと思う。
だって今も目の前にあるこの伝説の剣は、ただ岩に突き刺さっているだけだから。
そりゃ疑うだろ?
引っ張れば抜けると思ってしまうのも当然の反応だ。
「親父、抜いてもいい?」
「………うーん、そうか。そうだよな。いいぞ、抜いてみろ。」
いたずらっ子だった俺は、親父の目の前で引っこ抜いてやる。
そう意気込んで揚々と柄を握り締め、思いっきり引っ張ったんだ。
結果、剣はびくともしなかった。
「これで分かっただろう。さあ、明日から修行だ。勇者様が現れるその日まで、剣を守れるようにならないとな。」
ガハハと豪快に笑いながら親父は俺の手を引いて帰路に着いた。
これが俺と伝説の剣の出会い。
親父はこの一回で俺が剣を抜くのを諦めたと思っているが、実際は違う。
この時俺は、新しいおもちゃを見つけたみたいに胸が踊っていたんだ。
それからは親父の目を盗んで剣を抜くために色んな挑戦をした。
岩を砕いて土台を崩してみたり、牛に縄を括って引っ張らせてみたり、刃の部分を松明の炎で溶かそうとしたり、シンプルにハンマーでぶん殴ってみたり、それはもう剣を抜くために思いつく限りの挑戦を続けた。
そうして13年間、結局剣はびくともせず今もこの丘に突き刺さっている。
「俺さ、明日から親父の役目を引き継ぐんだ。笑っちまうだろ。13年もお前を抜こうとしてた俺が、お前を守るだなんて。」
親父ももう歳だ。
体も思うように動かなくなっているらしく、若い俺が18の誕生日を皮切りに役目を受け継ぐことになった。
だからもう、剣を抜く挑戦は辞めなければいけない。
守るべき役目の俺が剣を抜こうとするだなんて、あってはならない事だから。
だから今日、俺は今日という日を最後に剣を抜くのを辞めにする。
「最後にお前には俺の全力をぶつける。小細工なしの真っ向勝負だ。」
腰に添えた愛用の剣を抜き、大きく振り上げる。
なんてことない、そのまま剣を振り下ろすだけ。
その動作に俺は全てをかけ、体重とスピードを載せた全力の一撃を伝説の剣に向けて放った。
“キィィィン”
と金属同士がぶつかる特有の音が村中に響き渡る。
結果、伝説の剣は折れてしまった。
「…………え?マジで?」
いやいやいやいや。
………え?マジで折れたの?
なんで?今日?このタイミングで?
確かに全力で振り降ろしたけども、13年もびくともしなかった剣がこの程度で折れるだなんて想像もしていない。
これって俺が悪いのか?
……うん、まあどう考えても俺が悪いか。
「なんだなんだ。何の音だ?」
「丘の方から音が聞こえたぞ。」
「あそこは確か……伝説の剣が眠っているところじゃなかったか?」
「ふむ……様子を見に行ってみよう。」
音を聞きつけた村人たちが続々と集まって来る。
マズい、この現場を見られる訳には…
だが逃げようにも折れたままで放置する訳にもいかないし…
そんなことを考えている間に、村人たちはもう丘に辿り着いてしまった。
「レインや。ここで何があったんじゃ?伝説の剣は無事なのか?」
ふぅ……ここで誤魔化す手段は幾らでもある。
適当に嘘をついて逃げればいいだけだが、それだと後でバレた時が大変だ。
だったら素直に謝ればいいじゃないか。
大丈夫、子どものやったことだ。
みんなきっと許してくれるさ。
素直に謝れば、どんなことでも最後は許して貰えるものだ。
俺は村のみんなの方を振り返り、笑顔で答えた。
「………伝説の剣、折っちゃった(・ω<)⭐︎」
「「「「何やってんだお前ーーー!!!!!!!!」」」」
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