第23話 魔法省職員は腹黒い
「結婚式は近隣諸国の貴族も呼んで盛大にするらしいね」
「番探しで迷惑をかけたから仕方がないらしいよ」
「なんで、そこにまた魔法省の予算が使われるんでしょうね」
今年度の予算案を見ながらラムダの手は震えていた。せっかく金髪イケメン王子ガリアスの運命の番の願いを叶えるための追熟装置を完成させたと言うのに、盛大な結婚式の費用のために何故か魔法省の予算が流用されることが決まってしまった。
「大丈夫ですよ。ラムダ様。盛大な披露宴では追熟装置を使って美味しくなった果物が沢山振る舞われますから。そうしたら売り込みができるでしょ?売れたら売れただけ俺たち魔法省の懐はウハウハになるんですよ」
そう言ってゲラゲラと笑うのはアントンだった。
「番様が利権を放棄してくださったんだったな」
「だって、王子の番になったんですよ。追熟装置の利益なんていらないでしょ」
アントンはそう言いながら装置から桃を取り出してかぶりついた。
「んー、甘い」
滴る汁を行儀悪く舐めとると、あっという間に桃を食べてしまった。
「しかしなぁ、番様はちょろすぎる」
あの日、ケイタが帰還の魔法陣を発動させた時、その強大な魔法の力にラムダは震え上がった。かつて経験したことがないほどの魔法の波動が城を包み込んだからだ。何事が起きたのかと、研究室を慌てて飛び出してみれば、ガリアス王子の番が寝室からガリアス王子の膝の上へと転移しただけだったという。
「だいたいねぇ、オメガは発情する時に体に貯め込んだ魔力を全部放出してしまうんだよね。だからアルファに囲われないと生きていけないっていうのはこの世界の常識なんだよね」
「それをあえて番様に教えなかったのか?アントン」
「だァって、聞かれなかったから」
しれっと答える。確かに、あの時聞かれたことにはちゃんと答えた。ただ、聞かれなかったことは何一つ教えなかっただけだ。
「発情した後に帰還の魔法陣を発動させれば、その魔力が帰る場所は持ち主のところに決まってるでしょ?」
「そうだな」
答えながらラムダは内心冷や汗をかいていた。
「番様は魔力が貯まって発情して、溜まった魔力を放出したわけで、その空いた場所にはガリアス王子がタァップリと魔力を注いだわけなんだから、そりゃ答えはひとつでしょ」
キシシシ、と人の悪い笑いを浮かべるアントンを、ラムダはどこが遠い目で見つめるのであった。
「アントン、言い方。言い方ってものがあるだろ」
ほんとに、アントンはこんなやつだから、ケイタと話をしている時にやたらと言い淀んだのは、いつもの調子で話してしまったら大惨事を引き起こす恐れがあったからだ。そのおかげでケイタは違う方向に勘違いをしてくれたわけだから、結果オーライと言えるだろう。
「キシシシ、王子がたっぷり注いだ魔力なんだから、帰るのは王子の股間って、素晴らしすぎておもわず拍手しそうでしたよ。俺は」
本当にあくびれることなく話すアントンを見て、ラムダは深いため息をついた。
「それに、この世界に勇者や聖女として召喚された人物は、その時点でアルファなわけだから、発情期のことなんか分かるわけないんですよねぇ」
そういったアントンの手には、ケイタに渡した薄い本からあえて引き抜いたページがあった。そこには
アントンはそのページを意図的に抜いてケイタに渡したのだった。さらに、金髪イケメン王子ガリアスも、日本語が読めないと嘘をついた。その結果、何も知らないケイタはガリアスの魔力を使って帰還の魔法陣を発動させたのであった。
「ほんと、日本に帰られたりなんかしたら、またいちから番探しが始まって、我が魔法省の予算が削られるところだった」
「でしょ?俺に感謝してくださいよね」
アントンは、ケイタに貸した魔法陣の本を手に取った。その本の最初のページには、勇者の字でこうかかれていた。
――――魔法陣は必ず自分だけで貯めた魔力で発動させること。そうじゃないと、取り返しのつかない事になるぞ。
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