第14話 タネ明かしとネタバレと秘密の共有
そんなわけで、俺は再び魔法省のトップ、自称天才魔法使いラムダと共にいた。ご飯もたっぷり食べて、ついでにデザートまで頂いた。予想はしていたけれど、デザートは聖女が好きだと言って作り方を伝授したというプリンだった。なんでもいちごの乗ったケーキを食べたかったらしいが、この世界のイチゴがあまり美味しくなくて挫折したんだそうな。イチゴが美味しくないって、どんなもんなんだろう。と言う純粋な好奇心から、俺は今お城の調理場に連れてきてもらっているという訳だ。
「番様、こちらがイチゴにございます。そのほかの果物もご用意致しました」
料理人が恐る恐るって感じで俺の前にイチゴを出てきた。他の果物はなんとなく見たことがあるオレンジみたいなのと、プルーン?いやブルーベリーだろうか?青紫色をした果物だ。
「果物は甘みが少ないので、大抵このように砂糖と煮込んで食ます。もしくはジャムなどに加工しております」
とてもいい色をしているのに、なんの匂いもしない。日本で見てきた果物は、食べ頃になるとなんとも言えない甘い匂いがしたもんなんだけどなぁ、
「この果物、熟してるの?」
俺が素朴な疑問を口にすると、料理人は不思議そうな顔をした。
「熟す。とはなんでしょうか番様」
あー、これダメなやつ。あれだ、運送が雑だから、熟した果物は傷がついて傷んで商品にならないから熟す前に刈り取ってんだ。そりゃ甘くないよな。いやでも、たしかバナナなんかは青いうちに刈り取って、運送している間に追熟させてるんじゃなかったけ?
「えーっと、熟すっていのは、食べ頃になっている。ってことなんだけど……もしかして、運送に時間がかかったりするのかな?」
俺がそう言うと、料理人は理解した。って顔をした。
「はい、そうなんです。番様。果物が取れる地域はこの王都より離れておりまして、運搬するのに時間がかかるのです。荷馬車は揺れるので、食べ頃まで木に付けておいた果物は運搬中に傷がついて腐ってしまうのです」
ああ、やっぱりな。そりゃそうだ。王様のいるお城の近くで果物なんかのんきに栽培できるはずないもんな。せいぜい麦とか芋とかの食料関係だよな。果物なんか、贅沢品だから、王様のためとか言って育てるのも無理があるよな、やっぱり。その辺は聖女も理解してたんだろう。いくら好きだからって、お城の庭でイチゴは栽培できないよなぁ。
「それなぁ、解決策を、伝えてもいいかな?」
俺は一呼吸置いて口を開いた。これって、チートじゃないよな?散々聖女の伝承とか言われてきてんだから、この程度、大したことは無い。と思う。
「運搬中に追熟させればいいんだよ。あと、痛みやすい果物は運搬する時に回りにおがくずを敷けばいいんだよ」
俺の言ったことが理解できなかったのか、料理人が何度も目をパチパチとさせた。そうか、この人料理人だもんな。おがくずとか、知るわけないや。
「えーっとさ、おがくずっては木を切ったり削ったりすると出てくる木くずのこと、ないなら藁とかそんなんでもいいと思う。それを、敷きつめたところに果物を入れれば温められていい感じに輸送中に追熟すると思うんだ。おがくずとか藁がクッション代わりになるから果物が傷ついて痛むことも無くなると思う」
俺がそう説明すると、料理人は今度は目をかっぴらいて、次に満面の笑みを浮かべた。
「素晴らしい。素晴らしい考えです。さすがは異世界から来た番様だ。その運搬方法を急いで各地に伝えなければ」
そう言うと、料理人は俺とラムダを残していなくなってしまった。俺の目の前には色はいいが全く匂いのしないイチゴを始めとする果物たちが残された。
「えーっと……」
ラムダが、困ったような、声を出した。そりゃそうだ。俺がイチゴを見たいと言ったから、調理場に来たと言うのに、肝心の料理人がいなくなったしまったのだから。半分俺のせいかもだけど。
「なぁ、ラムダ」
「なんでしょう、番様」
「この果物、追熟出来ないのかな?」
「えーっと、追熟とは何をするのでしょう?」
ああ、そうだよな。さっきの説明だと、運搬方法の話しで、それだけだと追熟にまで話が進まないよな。
「えーっと、俺のあやふやな知識だと、そこそこ温かい温度に置いておくと、追熟するって話なんだよな」
「そこそこ温かい、ですか?」
ラムダが困った顔をした。
あー、そこそこ温かいって、伝わらないか。うーん、春の日差しみたいな温かさって、ことなんだけど、これそのままで伝わんのかな?
「春先みたいな温度にしたところに置いておくといいんだ、と思う」
「春先……ですか」
あれ?春先って伝わらない?
「聖女様の伝承にたしかそのような記述がありましたね。暑くなく、そして寒すぎもせず、シャツ1枚で丁度いい気温が春の陽気、だと」
おお、聖女のなんて的確な表現。そう、サラッとした空気感が重要で、シャツ1枚で過ごせるってところが重要で、気温は20度未満が俺的には丁度いいな。
「それで、その温度をこちらの果物に与えれば?」
「そう、そうしたら追熟すると思うんだ」
「魔法で育てるとどうしても味が薄くなるのが欠点でしたが、追熟ということをおこなえば美味しくなるのですね?」
「うん。多分そう。だと、思う。俺も専門じゃないから、詳しくは知らないけど、俺のいた世界では、バナナとか遠くの国から船で運搬している間に追熟させてるらしいんだよね。確か……1ヶ月ぐらい?」
「1ヶ月?」
俺があやふやな記憶を頼りに説明をすると、ラムダがめちゃくちゃ驚いた。そりゃそうだ。1ヶ月って結構長い。
「それを魔法で短縮させられないかな?」
俺がそう言うと、ラムダはちょっと考え込んだ。
「うーん。今まで魔法でしてきたことに温度調整を加える。と……言うこと……うぅん。温度……温度を調整?春の陽気の……」
ブツブツと独り言なのか、なんなのか分からないつぶやきをしつつ、ラムダは紙に何かを書いている。手元を覗き込んでいると、そこには多分魔法陣のような物が書き込まれていた。俺には読めない文字がグルグルと螺旋を描くように書いていかれ、それが模様に見えている。まったく知識のない俺としては、魔法陣に見えるんだが。
「こ、これで……きっと」
ラムダはようやく何かを描き終えると、それを木箱の底に敷いた。それから俺の前にある果物をその中に並べた。
「これで追熟できるはずです。魔力をながしますね」
ラムダはそう言うと手のひらを木箱にかざし、魔力を流し込んだようだ。よく分からないけれど、モヤのような、カゲロウがユラユラと揺れるようなエフェクトが見えた。
「ん?」
鼻に何やら甘い香りが漂ってきた。
「どうでしょう?」
ドヤって、顔をしてラムダが木箱を俺に見せてきた。そんな顔をされても、 俺にはよく分からないのだけれど、確実に果物の美味しそうな匂いが漂ってきている。
「こ、コレは確実に美味しいやつだ」
俺は木箱からイチゴを取り出し、口に放り込んだ。
「うまぁい」
イチゴが甘くなっていた。鼻から抜ける爽やかな香り、そして舌先に広がる甘さ。まさに春の爽やかな甘みが口の中いっぱいに広がった。
「ラムダも食べてみてよ」
俺はイチゴを一つラムダの口に放り込んだ。
「んんっ、コレは」
ラムダは、目をかっぴらいて驚きの顔をした。そしてゆっくりと味わう様な顔をして、目を閉じた。
「素晴らしいです。……さすがは俺の魔法」
おいおい、自画自賛かよ。
「番様。この追熟機能は素晴らしいです。早速今夜の食事から採用できるよう料理長に進言してきます」
言うやいなやラムダまでもが俺の前から居なくなった。
いや、俺の探検は?
取り残された俺はたまたま手にしていたリンゴの皮を剥き、一人でおやつの時間に突入したのだった。
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