第14話 得るもの。失うもの。
自分の名付けの由来を聞かされて、深い意味合いが込められていたことに深い感慨を受けていた。
デヲシヒコは俺のそんな様子に、満足気に何度も頷いている様であった。
「そこで
俺はこの話だけで十分にも感じていたが、先日の会議についても今の内に訊いて於いたほうが良いと思い、率直に訊いてみた。
デヲシヒコは会議の経緯を説明してくれた。
「ヲシリも此度の陰謀が、どういう経緯で起こったかは聞いておるの?」
下座に控える、侍従長のカラスを見遣りながら尋ねてきた。
(やっぱり、ウズメさんとの別れの遣り取りは、筒抜けだったんだな。まぁウズメさんも知ってて、話してたんだろうからな……)
公人のプライバシーが無いことに、残念さを滲ませながらも、質問には肯定して頷いた。
「基本的には
デヲシヒコは、俺を頼もしげに見詰めていた。
「しかし
デヲシヒコは憎々しげに語った。
「しかし今回の一件で“日の神”信仰が、
俺は率直に、
デヲシヒコは大きく頷くと、話を続けた。
「所詮は
珍しく苦々しげに吐き捨てるように言って、一息付くと更に先を続けた。
「
デヲシヒコはいつもの八束髭を撫でつけながら、悔し気に一旦言葉を区切った。
俺はデヲシヒコの思案気な表情を見詰めながら、タイミングを見計らって言葉を掛けた。
「そこで
デヲシヒコは暫し沈思黙考していたが、やがて結論を出すように口を開いた。
「やはり
「今年にはミノタロも15歳となり、元服の儀を執り行う。その後に
苦渋に満ちた内心を示すかのように、その固く握られた手をブルブルと震わせていた。
俺はその震える手を見詰めながら、深い思考の闇に沈んでいった。
(
「
下座に座る侍従長のカラスからの声に我に返って見回すと、二人の視線を集めていることに気が付いた。
デヲシヒコは俺に対して静かに訊いてきた。
「
俺はデヲシヒコに改まって、向き直ると平伏して奏上した。
「
「
デヲシヒコは不機嫌そうな表情を隠さずに答えた。
俺はデヲシヒコに対して、決意を込めた口調で願い出た。
「
デヲシヒコは瞠目したかと思うと、大きく首を振って答えた。
「もちろん、私室に関しては雑作もないことじゃ。しかしヲシリよ、お主は人質の運命を知らんから気軽に申せるのじゃ。それに跡継ぎに関しては、前々から“ヲシリ”とすることに決まっておる。お主は唯一の正嫡子じゃ。元服後は、正式に世継ぎとして“
デヲシヒコは硬い意志を示す様に、俺を見詰めていた。
俺は静かに答えた。
「先程、献策についてお尋ねになられました。それに関しては正直に最善策が浮かびません。しかしながら……より最良の策であるならば申し上げられます」
一旦、言葉を区切って続けて奏上した。
「
俺は一通り献策について述べた後、間を取って改めて説明を続けた。
「今の正室は、『
直ぐに意外な反論が返ってきた。
「ヲシリが嫡子ゆえ、マリアを
デヲシヒコも俺の反応を見て、意外そうな表情で訊いてきた。
「ひょっとして、マリアから何も聞かされていないのか?」
(えっ?い・
「婚約の儀ってどういうことでしょうか?相手は妹のマリアですよね?」
驚きの余り、途中から心の声が大きな声で飛び出していた。
デヲシヒコも頷きながら答えた。
「その通り
(いや初耳だって、そんな重要なことを今まで誰も教えてくれなかったじゃないか!)
そこで初めて今まで得てきた知識のほとんどが、マリアから聞いたことばかりだったことに気付かされた。
これまで献身的に尽くしてくれたこと全てが、
(だけど……俺の心根は三十路のオッサンだ。マリアのことがいくら可愛くても、どうしても娘のように見えてしまう。きっと本来のヲシリだって、愛らしい
そして俺の脳内では、常識的に判断すべきだという考えに満たされていく。
(そもそも現代の倫理観では、10歳の女児相手も
一方で頭の片隅では、まさに悪魔の囁きってやつが細やかな抵抗をしている。
(しかし古代日本に於いては、結婚は適齢期は10代迄で、王家の近親婚だって、そこそこ在ったのもまた事実……)
それでも俺の倫理観から、そんな因習を是とする訳にはいかない。
俺は動揺を抑えようと、大きく深呼吸してから父王に進言した。
「今後、ミナミ義母様が男子をお産みになられたら、その子は嫡子となりますよね。実の兄を差し置いて、年の離れた弟が後継者となるのでしょうか?それは王家の跡目争いの、火種にもなりかねません。義母様が正室になられた以上、ミノタロ
併せて、俺は本心からの願いを付け加えた。
「それにマリアだって、狭い王家の世界しか知らずに育ち、余りにも幼過ぎます。マリアには、もっと色々な知識と経験を積ませてから、人生の選択肢を与えてあげたいのです」
デヲシヒコは深く溜息をつくと、問い掛けてきた。
「まずはミノタロの“
俺は深く頷き、肯定の意を示した。
デヲシヒコは親として、言葉を続けた。
「再度問うが、ミノタロが“
俺もマリアの本心と言われると、単に頷く訳にはいかないと思った。
しっかりとした考え、誠意を語るべきだ。
「
俺は存念を申し上げた。
デヲシヒコはいつからか、その太い腕を組みつつ、深く思考を巡らしているように見えた。
暫らくの静寂が“王の間”を包み込んでいた。
やがて重々しい口調で話し出した。
「ヲシリよ、其方の存念は
一息入れて続けて、付け加えるように命じた。
「但しミノタロの元服の儀までなら、翻意を認めることとする」
デヲシヒコの表情は普段、
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