第7.5話 幕間 小学生の時の話~ノノと学校で~
「おい、いろじろ! おまえなつなのにながそできて……きもちわりいぞ!」
夏休み明けの学校、簡単なホームルームだけの時程が終わり、放課後となった。
帰り支度をしているノノに、体格の大きい男児が意地悪な笑いを浮かべながら話しかける。
「……ノノちゃん、いっしょにかえろー!」
「……うん」
そこに割って入ったのはレイジ少年。
ノノの手を取り、ぐいぐいと進んでいく。
「あっ! おいっ!」
「……」
最後に振り向き、体格のいい男児を睨みつけ、レイジとノノは足早に駆けて行った。
「……」
「……」
校門を出て、無言で歩く2人。
しばらくしてようやくレイジが口を開く。
「……おこらないの? あいつ、ひどいこといってた!」
「……だって……ほんとうのことだもん」
「でも、ながそでじゃないとあかくなっちゃうんでしょ?」
「でも……」
本当は悔しい、だけど言い返せない。
薄い青の瞳が涙で揺れる。
「だって……こわいんだもん……」
「……」
涙するノノにそれ以上は何も言えず、ただ手を強く握ったのだった。
◇
――翌日
「おいいろじろ! きのうはよくもにげやがって! ぶんなぐってやるぞ!」
握り拳を振り回し、ノノの元へと歩み寄る体格のいい男児。
「おいおまえ! ノノちゃんにひどいことするなよ!」
「あ? なんだよてんにゅうせい! おまえきのうもじゃましやがって!」
昨日と同様、そこに割って入るレイジ。
「おまえがひどいことをいうからじゃないか!」
「うるせぇ! おまえにはかんけいないだろ!」
「ノノちゃんがいろじろだとか、おまえこそかんけいないじゃないか!」
「ぐぅ……」
たじろぐいじめっ子。
そんな彼にレイジは尚も畳みかける。
「おまえ、ノノちゃんがすきだからそんなこというんだろ!」
「なっ!? そそそ――」
「かわいくてはかなげでてんしみたいだからって! すきだからっていじわるしちゃだめなんだぞ!」
昨日、レイジ少年は母親に相談したのだ。
ノノに意地悪するやつがいる。どうすればいいのか、と。
『きっと、その子はノノちゃんが可愛くて儚げで天使みたいで守ってあげたくなるようなところが好きなのね。好きだから意地悪しちゃうのよ、きっと。ノノちゃんが困ってたら、レイジはちゃんと守ってあげるのよ』
概ね理解できなかったが、思わずその勢いに圧倒されてしまったレイジは、そのまま母の言葉を言うことにしたのだった。
「おまえっ! なんなんだよ! おまえこそ――!」
「まもってあげるんだよ!」
尚も言い合いを続ける2人を眺めながら――。
「レイジくん……」
ノノにはもう、他の言葉は入らなかった。
引っ込み思案な性格もあり、仲のいい友達ができなかった彼女。
優しい言葉を掛けられることもあまりなく……。
「(レイジくん……!)」
レイジの言葉は強烈に、真っすぐに彼女の心を突き抜けた。
「――ちゃん、ノノちゃん!」
「はっ!? ……な、なぁに?」
クラスメイトの声に、ようやく我に帰るノノ。
「すごいね、レイジくん! もしかして、ノノちゃんのことすきなんじゃないの!?」
「……そうかも」
「やっぱりぃっ! ノノちゃんは? ノノちゃんは!?」
「……わからない……」
好きと言う気持ちはわからない。わからないが、1つだけ確信していることがあった。
「けど、けっこんはするとおもう」
「――へ? けっこん!?」
「きゃーっ! けっこん!」
ずっと傍にいたい、きっといてくれる、それなら結婚することになる。
そういう事だった。
「ちゅーは!? ちゅーはしたの!?」
「まだ……」
「えー!? ちゅーしてあげなよー! まもってくれてるかれに、ごほうびのちゅーだよ!」
この年頃の女の子は、非常にませている。
そういう事だった。
「……しかたがない」
ご褒美なら、仕方がない。
そう思いながら、掴み合いの喧嘩をしているレイジに近づく。
「レージ……」
「ノノちゃん!? あぶないからあっちいってて!」
「けっこん、しようね」
ちゅっ。
この日、1人の素直になれない男児の初恋は終わったのだった。
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