SF落語の存在しないまくら

閂 向谷

 この前、孫が「クラスのいけ好かないやつが、足の速さを自慢してくるんだ」とへそを曲げるもんですからね。

 「そういうのはな、井の中のかわず、大海を知らずっていうんだ」とたしなめてやったんですな。中学にでも上がれば彼よりも足の速いやつなんていくらでもいるでしょうし。

 すると孫はきょとんとした顔で、「かわずってなに」と聞いてくるもんですから。

 ああ、このお年頃じゃ、かわずのことをカエルだなんて知る由もないよなと。

「かわずってのは、カエルのことだよ」と教えました。

 すると今度は「カエルってなに」と聞いてくる。

 大人をからかうもんじゃないよと注意してやろうかと口先まで出かかったんですがね。

 そこで気がつきました。

 この町はもうカエルも住めない場所になっちまったんだ。

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