おっさんの私がエロゲ世界に悪役おっさん転生した場合、モテるためにはどうすればいい!? ~そんな時こそイマジンクラフトの出番だ!~

ヒコマキ

01 情けない最後の記憶を思い出した!

 怒鳴り散らす声が室内に響いている。


「貴様は与えられた仕事も満足に出来んのか!」


 目の前にいる太った男が歪な笑みを浮かべて、私にこう言った。


「おぉ、やっと見付けたぞ──きひ」


 私……に、言った?

 私──は、なおも怒鳴り声を上げている?


「納期も守れんような奴はクビだ! 見苦しく肥え太った姿を私に見せるな! さっさと出て行けクズめが!!」


「デブはお互い様だろ? まあ分かったよ……イマジさん……ひ、ひ」


 私の部屋から出て行ったその男は……その男には……見覚えがあった。

 ま、待て?


「これはいったいどういうことなのだ?」


 彼は私の持っていたエロゲの、クズ主人公じゃあないか!


 そして彼に呼ばれた、私の名前にも──覚えがあった。

 クズ主人公であるプレイヤーキャラに、ユニークスキルを奪われるためだけに存在しているカス男じゃあないか!


 イマジ。


 イマジンクラフトというユニークスキルを所持しており、そのスキルを奪われたあとは出番のない、雑な名付けをされているキャラ。

 設定上では気に入らない人物を、次々とクビにしていくようなカス男なのだ。


 なぜこんなカスのイマジが高い地位にいるのか。次々とクビにし、新規雇用をすることで新しい発想を雇用している、ということになっているらしい。

 もちろん、ユニークスキルが優秀ということもある。


 そしてその結果、傲慢な男の完成というシナリオだったと記憶している。

 そんな男が現在の私、ということなのだ。


「これは相当マズイぞ」


 シナリオに沿ったままでは、10日後にプレイヤーキャラである主人公によって私のスキルを奪われてしまうのだ。

 もしそうなれば私の存在がどうなってしまうのか。


 私がこの身体から抜けて、元の生活に戻ることができる。

 これならば問題はない。


 スキルを失ってこの世界に取り残される。

 これが……非常にマズイ。モンスターのいる剣と魔法のゲーム世界で、スキルがなければまともな暮らしはできないだろう。


 エロゲとはいえ、RPGの部分も良くできているゲームだったからなあ。


 とにかく奴から離れなければならない。あいつはスキルをサーチするスキルも持っているからだ。半径100m圏内に入れば、スキルの情報も盗られてしまう。

 それは強奪スキルの成功率を上げることにも繋がるのだ。


「5日程度で支度を済ませて、遠くの街に逃げるべきか」


 ギリギリまでこの街にいるのは危険だろう。

 それに私の外見も変えたほうが、奴を撒く確率も上がるはず。あのクズ主人公は頻繁に姿を変えて女性を襲うのだ。まあ……プレイしていたのは私なんだが。


 要するに、私が雲隠れするのにも使えるのさ。


 と、とにかく外見変更ポーションは製作可能のはず。

 今の私と全く別の姿になっておくべきだ。

 ど、どうせならモテるほうがいい。


 そ、そもそもモテていれば、このエロゲを使わなかったはず。

 そうなればエロゲのキャラになることもなかったはずで。

 つ、つまりモテていれば問題ないはずなのだ!


 従業員を気分でクビにするような、カスでクズな悪役に転生してしまったのでね。

 まずは悪役人生をリセットしなくては。

 せっかく転生したのだし、おっさんも辞めようと思う。


 おっさんからおっさんに転生しても嬉しくはないのだよ!

 「お察しください」そう言って良いような人生だったしなあ。

 だとすれば──小汚いおっさんから最も遠い存在。


「つまり綺麗なお姉さんがベストと私は判断する」


 それに綺麗なお姉さんなら女性とのチャンスもあるかもしれない。

 男として近付くより可能性がある気がしてならないのだ。

 少々小ズルい手段のような気もするのだがね。


 一旦自宅に戻り、と考えたところで気付いた。


「家がない。金も持っていない。衣類は今着ているものだけのようだ……」


 参ったな、さすが主人公用のエサキャラだけはある。スキルを奪われるためにいる存在だからといって、キャラ設定が雑すぎではないだろうか?

 まさか最低限の衣食住すら持っていないとは。


 ここにいれば命の危険さえあるのだ。

 座して死を待つ、などということはしたくない。

 この街から離れるのだし金策も必要か。


「それに設定通りなら、主人公も相当なクズのはず」


 スキルを取られるわけにはいかない。なにせ主人公であるプレイヤーは、女性を襲うためにイマジのユニークスキルを奪うのだから。奴の行動も、そういった行為が基準となっている可能性が高いのだ。


 現実化した今、使わせてはならないだろう。ついでとばかりにスキルまで奪うだろうしな。賞金首なので誰かにサクッと討伐されて欲しい。

 悪人とはいえ、私が対人戦で暴力を振るうには──まだ覚悟が足りていない。


「徒歩では追い付けない現代の技術で移動しよう」


 素材はギルドのものを使わせてもらうか。

 私個人では所持していないからな。大手の割に管理が行き届いてないから、ほぼ全員がちょろまかしているような場所なのだし、あまり気にされないはずだ。


 良いもの作れば儲かる精神で回っているのも、拍車をかけているんだろう。

 私も姿を消す前に良いものをいくつか作っておくか。

 素材をもらうのだし、補填できるだけのアイテムは用意する。


「作業場所は──」


 この部屋か。

 イマジというキャラはここに序盤だけ存在するキャラなわけだし。必要なものは持って来てもらうか。


 キャラに合った行動をしなければ、疑問を持たれてしまう。

 傲慢キャラはなりきるのは嫌だが仕方ない。

 必要なものをメモし、部下を呼び出す。


「誰かいないか!」


「は、はいイマジさん」


「少々物入りなのだ。これを用意しろ!」


「た、ただちに」


 メモを受け取り、怯えたように出て行く生産ギルドの職員。申し訳ない気持ちになる。しかし私のキャラ設定上どうしようもない。私はすぐに消えるから数日は我慢して欲しい。


 謝罪が口から出そうになるのを抑えつつ、傲慢キャラに合った言葉で指示を出す。

 飲食する必要もあるからな。

 体形に合う大量の食べ物も注文した。


「私もストレスに耐えなければならないなあ」


 しかし私はなぜエロゲのキャラになってしまったのだろうか?

 私は記憶を辿ってみた。


 ・

 ・

 ・


 うーむ、このエロゲをプレイしていたという悲しい記憶が。

 待て待て、もっと良く思い出すんだ。


「久しぶりに最初からプレイするか」


 とか言った記憶がある。


「イマジンクラフトを奪って、まずは1戦しておこうじゃあないか」


 とか言った記憶もある……。

 その後の記憶は……な、い……な?

 つまり、私は死んだということ……か。


 まさかのセルフプレジャー死とはッ。


「ハハ、ハ」


 な、なんという情けない最後の記憶なのだろうか!?

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2024年11月30日 18:00
2024年12月1日 18:00
2024年12月2日 18:00

おっさんの私がエロゲ世界に悪役おっさん転生した場合、モテるためにはどうすればいい!? ~そんな時こそイマジンクラフトの出番だ!~ ヒコマキ @cell_makimaki

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