お隣の女医さんの家に一生療養して、付きっ切りで看病されたいですか

@beru1898

第1話 お隣のお姉さんは白衣の天使だった

今日もこんな時間に……はあ……」




 時計の針を見たら、もう日付が変わっており、これでは今日もロクに寝れそうになかった。


 大学を卒業した後、都内の会社に就職して営業をしているのだが、毎日毎日残業でとにかく辛い。




 仕事自体は面白いと思ったのだが、元々朝起きるのが苦手な上に、こんな残業ばかりでは体がもたない。


 実家に相談しても、まだ一年しか勤めてないんだから、この位で辞めるなとか言われるし、俺が過労死しても構わないってかよ?




「ああ、もうやってられない。明日、本当にサボっちゃおうかな……ん?」


 と自暴自棄になりながら、自宅のマンションの玄関まで行くと、一人の女性とエレベーターの前でバッタリ会う。


 お隣の確か……宇田島さんだったかな?




「こんばんは」


「え?あ、こんばんは」




 何気なく挨拶すると、宇田島さんもちょっとビックリしたような顔をして、挨拶を返す。


 長くキレイな黒髪に、細身でスーツをビシっと着こなし、知的でキャリアウーマンといった美人で、正直同じエレベーターに二人きりというだけでもドキドキしてしまう。




(宇田島さんもこんな時間まで仕事か……大変だなあ)


 何の仕事をしているんだろう?


 たまに顔を合わせれば挨拶をする程度で話を殆どした事がないから、彼女の事は何もわからない。


 男でも大変なのに、女性でこんな時間まで仕事では余計に大変だろうな。




 ドスンっ!


「え?」




 エレベーターに乗って間もなく、急に鈍い音がして、エレベーターが止まってしまった。




「えー、故障かな……すみません、エレベーター止まっちゃったんですけど」


 こんな所で故障とは付いてないと思いつつ、




「う……」


「どうしました?」


 エレベーターの中で、急に気分が悪くなってしまい、ちょっと立ち眩みを起こしそうになる。


 やべ、何だこれは……気分が悪くて、眩暈がする……まさか……。


(こんな所でパニック発作が!?)




 最近、電車に乗っていたりすると、急に気分が悪くなって吐きそうになる事があるのだが、まさか、こんな所でも発作が出るとは……。


 調べると、どうやらパニック障害と言われる奴で、一応、心療内科とかにも行ったのだが、どうにも治らず、よりにもよってこんな所で発作が出るなんて……。



「だ、大丈夫ですか!?」


「い、いえ、平気……」



 な、何とかエレベーターが動いてくれれば……くそ、どうにかならないのか?



「凄い汗じゃないですか! きゅ、救急車呼びましょうか?」


「へ、平気です……すぐ治ると……」




 宇田島さんは突然、俺の顔色が悪くなったので、相当焦っているみたいだが、救急車を呼ぼうとしたが、この発作はすぐに収まるので、そこまでする必要はない。


 しかし、吐きそうだ……一応、エチケット袋は用意しているけど、宇田島さんの前で吐くのは何か気が引けるというか……ついでに、トイレにも行きたくなってしまった。



「へ、平気って、明らかに辛そうじゃないですか! 何か持病とかあるんですか?」


「じ、持病というか……」


「とにかく深呼吸をして、気分を落ち着けてください! ここにもたれて、楽な姿勢を取って!」


「は、はい……すーーー……はあ……」


 宇田島さんに言われた通り、深呼吸を繰り返して、気分を落ち着ける。


 彼女に介抱されたおかげで、ようやく少し気分が落ち着いてきたが、まだ不安が拭えなかった。


 ここで吐いたりしたら、彼女の服が汚れ……いや、エチケット袋は常備しているから大丈夫なはずだ。


 電車の中でこういう発作がたまにあるんだが、



 ガタンっ!ブオオーーーンっ!


「あ、エレベーターが……」


 そう考えている間にやっとエレベーターが動いてくれたので、一先ずホッとする。



 よかった……吐いてしまったら、どうしようかと思ったわ。


「歩けますか?」


「はい。すみません、心配をかけてしまって」


 エレベーターの扉が開いたことで、ようやく気分が楽になり、宇田島さんに寄り添いながら、自室まで何とか歩いていく。


 優しいなあ、宇田島さん……たまに挨拶をすると、人当たりの良さそうな人ではあると思ったけど、彼女が一緒に居るなら、



「あの、ここで大丈夫なので」


「本当ですか? 辛くなったら、いつでも言ってくださいね。私、一応、医者なので、お力になれる事はあると思います」


「え? 宇田島さん、お医者さんだったんですか?」


「はい」



 何と、知的な雰囲気の漂う美人だとは思っていたが、医者だったとは……思っていた以上に凄い人じゃないか。


「あの、よく気分が悪くなったりするんですか?」


「えっと……はい、たまに……」


「あ、ここでは言いにくい事なんですね。じゃあ、ちょっと私の部屋に来てください」


「え? は、はい……」


 病状をここで聞くのはまずいと思ったのか、宇田島さんは俺を隣にある自分の部屋へと連れて行く。



 お医者さんだから、あんな急に気分が悪くなった患者さんを見過ごせないって事か……まあ、折角だし、ちょっと相談はしてみるか。



「なるほど、話を聞いた限りでは、恐らくパニック障害ですね」


「パニック障害……」


 何か聞いた事はあるが、どんな病気だったかな。



「はい。電車の中とかさっきみたいな密室に長時間居ると、急に不安な気分になって、気分が悪くなる発作の事です。前にもこんな症状ありましたか?」


「ああ、はい……電車の中でたまに……」


 急行電車とか乗ると、ああいう発作がたまに起きたりする。


 なるほど、これがパニック障害の症状なのか。


「そうですか。私は産婦人科の医者なので、専門外ではありますけど、通院する時は心療内科を紹介しますよ」


 産婦人科の医者だったとは……確か凄い大変って聞いたけど、凄い人だったんだな。




「宇田島さんが診て欲しいですけど、無理ですか?」


「ええ? えっと、出来ない事もないですけど、私は産婦人科なので、男性の患者を病院で診るのはちょっと……」


「ですよね、はは。忘れてください。今夜はありがとうございました! もう楽になったので、大丈夫です! それではまた!」


「あ、でもどうしてもというなら……あ、紀藤さん!」


 どうせなら宇田島さんが担当医になって欲しかったが、案の定、駄目そうだったので、居辛くなってしまい、すぐに部屋を出て、隣の俺の部屋に逃げ込む。


 トホホ……どうして、あんな馬鹿な事を……自分の浅はかさに嫌気がさしてしまい、恥ずかしくなってしまった。




 しかし、この提案がのちにとんでもない事態を招くことになったのであった。

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