第17話 ローズガーデン・フリートーク・デスマッチ・ミスマッチ②

殿下の様子を伺いながら、ロイドは私の椅子の位置取りを調整し、さらに殿下に近づけた。

 本当に何をやっているんでしょうね。

 


 ニーナは席に着くなり、私を指さした。

「なんで殿下とお話しするのに姉さまとロイド様がいるの? 席を外してください」

 ですよねー。これに関しては妹が正しいと思う。 


 ロイドが殿下に目配せする。 

「バチェラーに参加する女性が優先です。2人で話しましょう」

 殿下は微笑んだ。

 ニーナは手を組んだ。

「殿下優しい! 話がわかるー」


 私とロイドはローズガーデンの狭い通路を進む。

「アニマ様こちらです」

 ロイドは出口ではなく、バラの切れ目のすき間を指さした。

「ここの奥から声ぐらいであれば、聞くことができますが、いかがいたしますか」

「行きます」


 そこは隠し通路になっていて、先ほど話していた裏手になるのだろう。人が1人ほど立っていられるスペースが奥に続いていた。



 ――そこに先客がいた。


「まあまあ。ハーマイオニーちゃん。落ちついて。声、聞こえちゃいますよ」

 険しい顔のリンジーが言った。

「リンジーが奥に行ってよ! 狭いし、奥は声が聞こえづらいから譲ってあげる」

 ハーマイオニーとリンジーは互いに頬をくっつけあい、どっちが奥へ行くか言い争っているようだった。 


「――待って。アニマちゃんが来た」

 彼女たちは同時に私を見ると、目をそらした。


「みんな、バチェラーの行方が気になっているみたいなの。あっそうだ! アニマも一緒にどう?」

 ハーマイオニーがキザに親指を立てて、言った。


「……だから皆様は私が同席すると言っても嫌な顔をしなかったのですね」

 全員が目をそらした。


 私たちはぎゅうきゅうになり、強いバラの匂いを嗅ぎながら、ニーナと殿下のフリートークを盗み聞いた。

 ロイドは必死な私たちの姿を見て、遠慮した。




「子どもは何人ぐらい欲しいですか」

 ニーナの甘えた声が聞こえてきた。目の前にはバラしかないので、結構クリアに聞こえる。


「それは考えたこともありませんでしたね。逆に希望はありますか」

「殿下の子どもなら、何人でもほしいです!」

 リンジーがそれに対して、舌を出して、変な顔をした。ハーマイオニーが吹いて、リンジーを軽く叩いた。


「子どもといえば、ニーナ嬢はどのような子供時代だったのですか」

「子供だった時ですか。今とあまり変わらない感じだと思いますよ」


 殿下は軽快に笑った。

「つまりアニマ嬢におんぶに抱っこで、面倒を見てもらっていたということですね」

 


 狭い場所にいるので、無理をしている右足が痛くなってきた。


「違います。姉さまは面倒見がいいんです。いつも私を優先してくれます。それが嬉しいみたいです。お母さまもそう言っていました」


「本人がそう言いましたか。アニマ嬢がどんな思いで、尽くしているか考えたことはありますか。あなたがアニマ嬢の立場だったら? 一度でも考えたことはありますか」

 殿下の声は若干ふるえて、怒っていた。



 殿下は私のために怒ってくださっているのだろう。しかし、殿下はなぜ私のために怒るのかがわからない。

 それに私はニーナを勝たせないといけない。殿下が演技かなにかの理由で私を贔屓してくださるのはありがたいが、ニーナにとっては邪魔になる。ぎりぎりと歯をくいしばっていると、ハーマイオニーが笑顔、と唇をひろげた。

 

「考えたこともありませんでした。でもそれは、殿下には関係ないことですよね」

「確かに。口を出すことではなかったですね」

 長い息を、殿下は吐いた。


「もしかして、怒ってます? 私、なにかしちゃいましたか」

 ニーナが無邪気な声音で言った。


「分かりません。わざとやってることなのか、無自覚なのか。少なくともニーナ嬢は凄まじい胆力があるように見えますね」

「あはっ。褒めてもらってうれしいです」

「以上です。退席してもらって、ロイドとアニマ嬢を呼んできてもらえますか」


 その声を合図に、私たちは脱兎のごとく抜け出して、ローズガーデンの入り口まで走った。

「バラで切らないようにね」

 ハーマイオニーが皆に言った。

「えらそうに! 盗み聞きしてた人が、よく言うー」

 リンジーがすでに息を切らしながら、軽口をたたく。

 ハーマイオニーはリンジーをにらむ。

「あなたもでしょう!」


 リンジーはなにも答えない。顔が冷水をあびたように青くなっていた。足がすごく遅く、倒れそうだったので、私が引っぱっていった。



「根っからの、お姉さん、気質……なのね。しかし、悪かったわね。あたし以上のお姉さんには……させないわ……!」

 リンジーが息も絶え絶え、言った。

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