第8話1-8 ロバート・ファーロン
白金色の朝日に目を細め、中庭を一望する。
──遠目からでも見分けられる、この世の奇跡が俺の目を奪う。強制的に視線が縛りつけられる事実にムカっ腹を覚えつつも、約束どおり、落ち合う事とする。
あたりさわりなくを心がけよう。トラブルはごめんだから。
ネイトが俺に気づき、気さくに手をあげてきた。中庭のシンボルツリーを後ろに、石造りのベンチでくつろいでいる。ネイトの隣には、これまた目立つ赤毛の男子。──こいつがロブなんだろう。
人目を引く二人が立ちあがった。俺は小走りで駆け寄る。
「やあ、おはよう。待たせちゃったかな?」とりあえず、人当たりよく接する。
昨日の帰り際に受けた、意味深な忠告がまるで無かったかのように。
「来たな、テル~」ネイトが馴れ馴れしくハイタッチを求めてきたけど、俺はスルーした。……そこまで仲良くねぇだろ。何考えてんだコイツ……。
空振りになったハイタッチに、ネイトの口元が閉まる。宙ぶらりんの手をおろし、不満げな顔の視線は俺の胸ポケットへ。〝御守り〟を透かし見ているのは、明らかだな。
ロブは丸くした目で俺を凝視している。
俺は赤髪に向き直った「初めまして。俺は輝矢、よろしく。……キミがロブ? あぁ、ロブと呼んでも構わないかな?」
「(いきなり!?)は、は、はじめ、まして」舌をつかえさせながら、ロブが声をしぼりだした。「ボ、ぼ、僕はロバート。(頑張れ! 僕!)み~、みんなはロブって呼んでる。もちろん、親しみを込めて、ね(ネイト! こんなの聞いてないよ! イヤだよ僕! こんなイケメンと初対面から同等に喋るなんて、僕にはムリ!)」
どうしてこんな喋り方をするのか、皆目見当もつかない。──緊張しているようには見えないし。
ネイトがロブの肩に腕をかけた。
「ロブのチャームポイントは、そばかすと
ああ、なるほど、そういう……。
つまり吃音は好印象な個性で、そばかすと同じくらいチャーミングだと、そう主張したいわけか、ネイトは。
まあ、会話が成立するなら何の問題もないけどさ。
俺は無難に握手を求めた。「特待生同士、仲良くしよう」
「よ、よよよ、よろしく」不器用に手を握って来る。握手に慣れていないのか?
燃えるような赤い髪に、端正な顔立ち。目立つ存在なのに、当の本人はひたすら自分の存在を空気にしようと(無意味に)
そばかすがチャームポイントだと言うわりに、それを隠す、糞ダサい〝跳ね上げ式メガネ〟。しかも
なぜコレをチョイスしたのか、ロブのセンスが疑わしい。
俺と対面してすぐ、あからさまにショックを受け、ネイトからの紹介を引き受けた自分の善意に後悔する。見事なまでにギクシャクした人間だな。いったい、なにをどうしたらこうなる?
「き、きっき、キ、キミが、と、特待生だって聞いたけど。ほ、ほんとだったんだね」ロブが俺の制服を上から下まで眺めまわす。
「あぁ、特待生の恩恵を最大限
「SAMURAIデザインだね」ロブがメガネをスチャッと掛けなおした。「日本の武将が好んで着た
よどみなくスラスラ喋りやがる。──え? 吃音は?
「ロブは歴史オタクなんだ♪」ネイトが嬉しそうに間に入った。
「ゲームも好きだけどね」ロブがつけ加える。
「それよりもテルー、御守り、なんで持ち込んだの? 昨日ちゃんと言ったよね、ボク?」
予想外の質問に、思わず息を止めた。動きもピタリと停止する。
──なんだって、どうして、人前でこの話をするんだよ!? お前は気にしないのかもしれないけど、こっちは気にするんだよ!
「お、お、御守り?」ロブが俺とネイトを交互に見る。──どうすんだよこれ。どうしたらいいんだよ! クソッ!
ネイトは軽やかに笑った。何の悪気もないように。「妙な御守りを持ち歩いてんだよ、テルーは」
「ちょっと待て……」俺はネイトをねめつけた。口が軽すぎるだろ……いくらなんでも。
「御守り……そ、それよりも、き、気になるんだけど、き、キミの瞳。シ、CDみたいだって言われない?」
「ああ、それ、ボクも気になった! ね!? CDのディスクみたいにキラキラ光ってるよね! テルーもエレメントあるから、そこも関係してると思ったんだけど、どうよっ!? 当たってる?(当たってるも何も、間違いないんだけどね~)」
「え! ──エレメント持ってるの!?」
…──? そんな、前のめりに聞かれても。「エレメントって、なに?」
「またまたそんな~」ネイトが手を振った。「とぼけたって無駄だよ? わかってるんだから」
「どんなエレメントなの? 今度見せてよ!」目を輝かせたロブの
「悪いけど、俺はエレメントなんて知らないよ」
「(う~ん)言語の違いかな……」ロブが顎に手を当てた。「日本では超能力って言う?」
俺はまた黙りこくった。
──ネイト。俺はお前と距離を置くぞ。たった今、決意した。
ロブは、俺の逆毛立つ暗い表情を見て戸惑った。「ぼ、ぼぼ僕、また変な事言っちゃった!?」
「いいや」ネイトが否定した。「変な事なんて言ってないよ」
「(どうしよう~、変なヤツって思われたかも)に、にに、日本の文化は、ま、まだ、わからない事が多いんだ」ロブが弁明する言葉を探し始めた。目を右往左往させながら。
「に、に、日本の怪しげな教育機関から『是が非でも入学してほしい』って誘われたけど、こ、こっち方面の話を始めたら言葉を濁すし……あ! けどべつに、ぼ、僕は日本が大好きだよ(入学の話は断ったけど)! ごご、誤解しないで! に、に、日本って変わってるけど、ミステリアスで魅力的だと思う!」
ネイトがフフンと笑った。「歴史好きなオカルト・オタクなんだ。──な? イカしてるだろう?」
なんでお前が得意気なんだよ。
「ぼぼ、僕はね、過去にあった魔女の大虐殺事件を調べているんだ」ロブは俺を言いくるめようと必死だな。けど……。
「魔女、ねぇ~」俺はチラリとネイトを盗み見た。
ネイトが笑いを噛み殺しながら、つけ加えた。「卒業するときに必要な論文を作ってるんだよ。だからさ、ロブはいたって正気で真面目だよ」
俺は両目の
魔女って呼ばれる者が存在したとして、それを
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