第5話 聖女様
大陸最東端にある教会総本山。
ここには、大陸唯一の大聖堂があり、そして教皇の間に教皇が鎮座している。
その教皇の間に一人の聖職者が訪れた。
聖職者である男は、キョロキョロと周囲を見回して、人がいないかを確認する。
「教皇様、聖騎士エミリーとレインが村を出立したとの報告がありました」
教皇の側近であり聖職者にして枢機卿である男は、教皇の横に立つと耳打ちして報告した。
「枢機卿、そんな耳打ちなどする必要はありませんよ。もうとっくにアレにはバレている」
目を見開き仰天する枢機卿。
「そんなバカなことがありますでしょうか。早馬の使者はまず私に報告の義務が……あっ」
「聖女にお願いされたら断れないんでしょう」
「くぅ〜、カリンめ〜!」
「まぁまぁ、カリンを怒らないでやってください。魔王軍との戦いに勝利するためにはあの子が必要ですからね」
顔を真っ赤にして怒る枢機卿をなだめるのが教皇の一つの仕事になっていた。
噂の聖女カリンは、大聖堂最上階の窓を全開にして遥か彼方をずーっと見つめている。
「早く来ないかなぁ、レイン」
まるで恋人を待つかのような乙女の顔でレインの到着を首を長くして待っているのだった。
♢場所は宿屋に移る♢
コンコン
「はい」
ドアをノックするとレインの返事はすぐに戻ってきた。
「あっ、エミリーだけど、ちょっと話せる?」
「うん、いいよ。ちょっと待って」
ガチャッとドアが開く。
「えっ? エミリーはもう寝る気なのか?」
そう言われてもしょうがないかもしれない。寝巻き、いやネグリジェを着ていたから。
「ううん。宿屋に着いてすぐ清拭したからさ、そのままこの格好に着替えちゃったよ」
「あー、そうだったな。ま、とにかくどうぞ」
「うん。お邪魔しまーす」
ドキドキする。宿屋で、それもレインが泊まっている部屋なんかに入るの初めてだもん。
「食事まで結構時間あるみたいだな。その格好で食堂は……ちゃんと着替えろよ」
「うん。も、もちろんだよ」
「この部屋ってイスないから、ベッドに座って話すことになるけど、いいか?」
ベッド……倉木鷹也とのキメセクがフラッシュバックしてくる。あんなにオナニーしてイッたのに……私の大事なところがまたジワッーと熱くなってくるのが分かった。
「う、うん。問題ないよ」
少しモジモジしながら、私はベッドに座る。
ギシッとベッドが軋む音に耳が反応すると、さらに強烈なフラッシュバックに襲われることになった。
【ほら、ここ突かれるの好きだろ? すげぇ締まるもんな。何回でもイッていいぜ? 俺がお前を何回でもイカせてやるよ。へっへっへっ】
【うん、好き! たくさん突いてイカせて!】
「いや……やめて……よ」
「ん? エミリー?」
「……っ! あ、なんでもない。なんでもないから気にしないで」
何とかフラッシュバックを頭から振り払って冷静さを取り戻す。それでも下着に少しシミができるくらいは濡れてしまっていた。
(また下着を変えなきゃダメかな。はぁー)
「それで話って何? ……じゃないよな。俺が何で教会総本山にエミリーと一緒に行くかって話だろ?」
「うん。私が聖騎士に選ばれたこともレインは知ってたし」
レインはスッとベッドから立ち上がって、私の正面に来ると床の上にあぐらをかいて座った。
「一年前、俺はスキルを覚醒したんだ」
「……えっ? レインも〈神の信託〉で?」
ブンブン頭を振り、私が言ったことを無言で否定していた。
「俺は〈聖女の託宣〉でサムライスキルってものがある人間なのが分かってさ、カリンが一度村に来て〈刀〉を渡されてスキルが覚醒した」
「……カリン?」
なんだか無性にイラつく自分がいた。
「聖女カリン。教会総本山に住んでて、教皇様の右腕とか言ってたけど、たぶん嘘だわ。あんなジャジャ馬娘が教皇様の右腕なわけないわ」
「ふーん。で?」
「でって……あとはエミリーとそんなに変わらないだろ? 選ばれたことは口外禁止だったしな。ただカリンが言ったんだよ。聖騎士が選ばれたら、その時は俺も一緒に魔王軍と戦ってもらうからって」
「で?」
「えっ? でって……いや、エミリーが聖騎士に選ばれたことを教皇様に聞いてさ、いや本当にビックリしたよ。エミリーが選ばれたなんて……それで……うん……話は終わりです」
いつの間にか私は腕を組み、足を組んでレインを見下ろすように座り、私の圧みたいなものに何かを感じたのか、レインはあぐらから正座になっていた。
「あとで、もっと詳しく話を聞くから!」
「うん。エミリーは怒ってるのかな?」
「怒ってない!!」
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