第76話

顔を伏せたまま、目を閉じると、カツカツとしたペンの音だけが聞こえる世界。



その音が止まったかと思うと。




「橋本さん、」



「え、は、はい?」



「何でそんな挙動不審なの?」



「何でもない!」




何のきっかけもなく突然話し掛けられて、挙動不審な言動を取ってしまった。



振り向いた呉月くんの表情は、日の当たり具合によって陰があって。



なんだか凄く、艶っぽい。


艶っぽくて、綺麗で。




「ありがと。」



「え…?」



「俺があの人たちにかち合わないように、誘ってくれたんでしょ?」



「………、」



「まあ、ちょっと無理矢理だったけど。」



「…それ、言っちゃう?」




ちょっと馬鹿にしたような口調で、苦笑を浮かべられた。

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