第14話 裏切りの闇

 アリスの前に現れたのは、闇の”ナイト”であり、魔王軍幹部のゼルファス。

 ゼルファスの姿にガイスが目を見開く。

『ゼルファス……! 貴様、裏切るつもりか?』

「俺は、俺がやるべき事をやる。その一つがアリスを守る事。それだけだ」

 ガイスが翼を大きく広げる。

『神子を守る……? それが裏切りなのだ、ゼルファス!』

 翼を羽ばたかせ、竜巻を起こす。ゼルファスは剣に闇の力を集めて振り払った。

 持っていた盾に変化させていたソフィーを元の姿に戻す。

「ソフィー、アリス……神子を頼む」

「……一人で戦う気か、ゼルファス?」

「安心しろ。奴に負ける気はない」

 心配するソフィーに答える。そう聞いたソフィーは黙って頷き、アリスの元へ駆け寄った。

 ソフィーがアリスを二人から遠ざける。それを確認したゼルファスがガイスを睨む。

「いくぞ、ガイス」

『幹部ごときが私を倒せるとでも?』

「倒せるさ。俺の強さなら」

 ゼルファスが剣を振るい、ガイスの腕に切り傷をつける。

『デス・スネイク』

 漆黒の蛇が地を裂き、空気を焼き尽くすように襲いかかる。しかし、ゼルファスの影から伸びた刃が一閃、闇と闇がぶつかり合い大地が震える。

『守りが愚かだぞ、ゼルファス。デスブレイド』

 ガイスが漆黒の剣を無数に生成し、ゼルファスではなくアリスへと放つ。

「……!」

「信じろ、俺がやる」

「……分かった」

 ソフィーが剣を構えるが、ゼルファスの言葉で下げる。

「ダーク・エッジ」

 アリスの影が、まるでアリスを守るように浮かび上がり、無数の刃を放つ。ぶつかる無数の剣と刃が互いに砕け散っていく。

『何……!?』

「アリスを守るのが目的だからな。お前の手など簡単に読める」

 目を見開くガイス。ゼルファスが不敵に笑う。

「言ったはずだ。俺は、お前達六魔将が相手でも倒せると」

『ふざ……けるなぁ!』

 ガイスが怒りをあらわにしていく。




 ゼルファスとガイス。二人の戦う姿を見たアルト達は疑問だった。

 同じ魔族であるはずのゼルファスがアリスを守る為、”ナイト”として戦っている。

「……奴は、腐っても”ナイト”だと言うのか……」

 魔族に加担する敵の”ナイト”ではなく、自分達と同じように救世の姫を守る”ナイト”。マキが軽く笑う。

「味方なら、心強いのだが……」

「……同じ”ナイト”なのに、どうして……?」

 ルイが思う。自分達では全く歯が立たなかった相手に引けを取らず互角に戦うゼルファスを見て。

 ゼウルとゼルファスが戦った時もそうだ。ゼルファスの強さは計り知れない。

「……”ナイト”としての差か……何が違うと言うんだ」

「ゼウルとはまた違った強さ。ゼウルが更なる力を求めた結果の強さなら、あれは極めた強さなのかも」

 マキが言う。精霊統べし者との契約による強さと違い、精霊の力を知り、それを極めた事による強さ。それがゼルファスなのかもしれない。

「何をどうやれば極めたと言うんだ……格が違いすぎる」

「それは私に言われても……少なくとも、私達が極めたと思った強さは、まだ途中だと言うことだ」

 そう話しつつ、ゼルファスの強さを改めて思い知るアルト達だった。




 ゼルファスの強さに押されるガイス。

『くっ……幹部ごときが……!』

 ガイスの手に漆黒が集まる。

『消えてなくなれ、ゼルファス! デスボム!』

小さな漆黒の球体が放たれ、徐々に大きさを増しながらゼルファスへと迫る。

「――――」

 ゼルファスが誰にも聞こえないくらいの声で何かを唱える。

 幾つもの光が集まり、迫る漆黒の球体からゼルファスを守った。

 デスボムを無力化されたガイスの目が大きく見開かされる。

『何……!?』

「お前の負けだ」

 接近し、ゼルファスの剣がガイスの腹部を突き刺した。

『な……!?』

 剣をそのまま横へと振り切り、ガイスの腹部を切り裂く。

『馬鹿な……ゼルファス、貴様ごときに……!』

「これで終わりだ」

 ゼルファスが剣に闇の精霊を集める。ガイスが後退した。

 重傷を負い、口から血を吐き出すガイス。ゼルファスを睨みつける。

『……このまま貴様に倒される気はない……! ゼルファス……、裏切りの罪は重いぞ……!』

「…………」

『今は退いてやる……だが、貴様だけは必ず、この私が……! そして神子の命は必ず……!』

 ガイスが姿を消す。ゼルファスはアリスの方を見た。

 ゼウルの死を悲しむアリス。

(……アリス、ゼウルがいなくなった今、お前は俺が……!)

 拳を強く握る。そして、傷ついたアルト達に向けて闇の力を放った。

 ゼルファスの放った闇により、アルト達の傷が癒えていく。

「……傷が……!?」

「回復させたと言うのか……?」

 マキとルイが驚愕の声を漏らす。だがゼルファスは感情を示さない。

「これで立てるはずだ」

「……ゼルファス、お前達は味方だと思って良いのか?」

 アルトが訊く。ゼルファスは「違うな」と答えた。

「今回は、アリスを守るのが目的だった。それだけだ」

「……ならば、お前は敵か?」

「俺がお前達の仲間になるかどうか、それはお前達次第だ」

「私達次第?」

「そうだ。お前達がこれからもソフィー達と戦うのなら、俺は敵になる」

 首を傾げるエミ。ゼルファスが答えると、アルトが剣を突きつけた。

「貴様……やはり、魔族に加担すると言うのか!?」

「彼ら全てが敵だと言うのなら、俺はお前達の敵として戦う」

「ゼルファス!」

 アルトが剣を振り上げる。ゼルファスが闇の力でアルトの影をぐにゃりと歪ませ、そこから伸びた黒い鎖を使い、蛇のようにアルトの全身に絡みつかせる。

「ぐっ……!?」

「安心しろ、攻撃はしない」

 ゼルファスが言う。

「お前達は弱すぎる。”ナイト”の――――精霊の力を半分も引き出せていない」

 ゼルファスの言葉に、アルトとマキが驚く。

「何……!?」

「……半分も引き出せていない……!?」

「そうだ。”ナイト”の本当の強さをお前達は知らない。だから、足手まといだ」

 冷たい声に、皆が息を呑む。そして、「ソフィー」と呼び、アリスの近くにいたソフィーがゼルファスの側に寄った。

「……良いのか、ゼルファス? 彼らと共に行動しなくて……」

「良い。俺の目的を果たせれば問題はない」

 ゼルファスの言葉に、ソフィーがゆっくり頷く。そして、アルト達にゼルファスが再び言う。

「六魔将や幹部と戦わず、大人しくしていろ。椎名アリスを守るのであればな」

 闇に姿を消す。そんな二人の姿を見つつ、アルト達は愕然としていた。

「……何なの、あいつ……! アリスを守ったり、私達を回復させたりしておいて、味方じゃないとか私達次第で敵になるとか……」

 ルイがやや腹を立てる。動きを封じられていたアルトはその拳を強く握った。

「”ナイト”の本当の強さ……だと……!」

「やはり、それはゼウルのように精霊統べし者と契約し、その力を借りる……と言うことか?」

 マキが首を傾げる。ならば、ゼルファスもまた精霊統べし者と契約し、強大な力を隠していると言うことだ。アルトもまた悔やむ。

「知らない事が多い……それが俺達の弱さか」

「……そう言えば、ゼウル!」

 ルイが辺りを見渡す。ゼウルの姿は無く、涙を流し続けるアリスの姿だけだった。

 アリスの元に近寄ると、泣きながらルイに抱きつくアリス。

「ゼウルさんが……私のせいで、ゼウルさんが……!」

「アリス……」

「ごめんなさい……ルイちゃん、ごめんなさい……」

「何で私に謝ってんのよ……アリスのせいじゃないから」

 アリスの頭を撫でるルイ。すると、今まで大人しかったエミがアリスを抱き締めた。

「大丈夫だよ、アリス。ゼウルの事だもん、きっと生きてるって」

「……お前、それは流石に無責任過ぎるだろ」

 エミの言葉にアルトが呆れる。口を尖らせながら、エミは言った。

「そんなの分からないじゃん。本当に無事かもだよ? あの爆発で吹っ飛んだだけかもだし」

「その可能性は低いだろ」

「否定しないでよ! それで、これからどうするの?」

 訊かれる。アルトは小さく頷いた。

「賢者に会う。少なくとも、賢者ならこれからどうすれば良いか知っているはずだ」

「ああ。ルイ、エミ、アリスの様子は二人に任せるよ。私とアルトで馬車を動かす」

 マキの言葉に二人が頷く。アリスの涙は止まらなかった。

 ルイが抱き締める。

「アリス、行こう。大丈夫、私達がいるから」

「ルイちゃん……」

「ゼウルの事、気にしないでって言えないけど、世界を救う為にしっかりしなさい。それが、ゼウルの願いなんだから」

「ゼウルさんの……」

 アリスが涙を流しながらも、ゆっくり立ち上がりルイに頷く。

「……うん、うんっ……」

 世界を救う為、ゼウルの願いを叶える為、アリスは涙を拭うのだった。

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