第7話 光と闇の激突
ゼウルの前に現れた闇の”ナイト”ゼルファス。
立ち上がりゼウルの元へ駆け寄るマキ、アルト、ルイの三人。
『闇の精霊よ』
ゼルファスが低く呟いた瞬間、ゼウルの背後に控えていたマキ、アルト、ルイの影がぐにゃりと歪んだ。そこから伸びた黒い鎖が、まるで蛇のように三人の身体に絡みつく。
「これは……!?」
『悪いが邪魔をされたくないからな。動きは封じさせてもらう』
目を見開くアルトの叫びが響くも、体はまるで鉛のように動かない。ゼルファスは淡々と剣をゼウルに向けながら、冷ややかに告げた。
『ゼウル=アシュベイン、その力を見せてもらう』
「……なぜ?」
『”ナイト”の力を越えた力。その力に興味がある』
「断る……と言ったら?」
『そうすれば、彼女の命は無いと思うがいい』
ゼルファスの隣から漆黒の騎士が姿を現す。その姿を見たゼウルが目を見開いた。
「アリス……!?」
漆黒の騎士に捕まり、喉元に剣を突きつけられたアリスの姿がそこにあった。
恐怖で目に涙が浮かぶアリス。
「ごめんなさい……」と謝る姿を見つつ、ゼルファスが言葉を続ける。
『俺と戦え、ゼウル=アシュベイン。彼女を守りたいのなら』
「くっ……!」
歯を噛み締め、ゼルファスを睨むゼウル。そして、瞬時に駆けた。ゼルファスが反応し、ゼウルが振るう爪を剣で受け止める。
『そうだ、その力を見せろ。ゼウル!』
ゼルファスが剣を振るい、ゼウルに襲い掛かる。
「オォォォォォォッ!」
ゼウルが繰り出される爪の連撃を確実に剣で受け止めるゼルファス。
二人の姿がまるで消えたかのように高速で繰り返される激突。
「なんだ……この戦いは……!」
身動きを封じられた三人のうち、アルトが目を見開く。否、それはマキ、ルイも同じだった。
「ゼウルのあの姿といい、あの”ナイト”の強さといい、これは……」
「あれが、”ナイト”……? 本当の意味の”ナイト”って事?」
二人の戦いは、もはや次元が違う。
「くっ……この鎖が無ければ……!」
「いや、援護も無駄だろう」
「違う、アリスだ。この鎖をどうにかして彼女を助ける……!」
アルトが力を入れる。が、巻きつく鎖はさらに強い力となって締め付けられた。
「ぐっ!?」
「そう簡単にいかないみたいだね」
「……マキ、冷静過ぎない?」
ルイが訊く。マキは首を横に振った。
「アルトが意外と直情だからだよ。ね、アルト?」
その言葉に、アルトは目を反らした。
アリスの目に浮かぶ涙が流れた。
何もできず、ただ捕まり迷惑を掛けてしまう。そう、二人の戦いを見ながら思うアリスに、漆黒の騎士が言った。
『心配しなくて良い』
「え……?」
『光の”ナイト”の強さを知りたいだけ。あなたを殺すと言ったのは、どうしても戦わせる為』
そう言いながら、漆黒の騎士が剣を少しだけ下げる。アリスは不思議に思った。
「どうしてこんな事を……」
『それが彼――――ゼルファスの望みだから』
漆黒の騎士が微笑みながら言った。そう、アリスは感じた。
「望み……?」
『そう、彼の望み。これ以上は教えるわけにはいかない』
「…………」
アリスはふと思った。この騎士にとって、ゼルファスと言う闇の”ナイト”は特別なのだと。
二人の戦いは激しさを増すどころか、ゼウルの動きに鈍さが出てきた。
「ぐっ……!」
『どうした、ゼウル=アシュベイン? その程度だと言うのか?』
ゼルファスの剣を受け止めつつ、ゼウルが歯を噛み締める。ゼルファスは分析していた。
(その力は長く持たないようだな)
ドライゴルとの戦いから、今までを見て長時間戦うには厳しいだろう。
ゼルファスがゼウルに接近し、耳打ちして距離を取る。
『このままでは、彼女は死ぬ』
「……! ウォォォォォォッ!」
ゼウルが吼える。そして、剣を手にした。
光が集まり、その刀身が伸びる。ゼルファスが仮面の下で笑みを浮かべた。
『ソフィー、力を借りるぞ』
『彼女はどうする?』
『解放して良い。目的はそっちじゃないからな』
そう言われ、ソフィーと呼ばれた漆黒の騎士が喉元に突きつけていた剣を下げ、アリスに言う。
『こんな真似をしてすまなかった』
漆黒の騎士が微笑みながら言った。そう、アリスは感じた。
「いえ……あ、あの……!」
『離れて。ここは危ないから』
アリスが頷き、後ろに下がる。それを見たゼルファスが何かを唱えた。
『闇の精霊よ、ソフィーに力を与え、盾となれ』
闇がソフィーの身体を包み込み、小さくなってゼルファスの手に宿る。
漆黒に輝く、騎士の鎧をそのまま盾に変えたような、やや大きめの盾へと変化し、ゼルファスがさらに闇を集中させる。
「ルミナス・ブレイカァァァァァァッ!」
『ダーク・ブレイク・エンド!』
二人が同時に放つ。光の刃による一閃と盾に集められた闇による波動。
激突する力と力。その時、眩い光が彼らを包み込んだ。
眩い光の中、ゼウルの意識が一瞬、別の世界へと引き込まれた。
(これ……は……!?)
見えるのは、幼く小さな少年。その姿は幼い頃の自分と重なった。
(あれは僕……? いや……)
違う。見たこともない服、見たこともない場所だ。
そんな少年の前に、白髪の老人が立ち、頭に手を置いて撫でる。
「大丈夫。お前はお前だ。だから、もう泣くんじゃない」
優しい言葉。少年が顔を上げ――――
光が消える。気づけば、二人は互いに距離を取り、膠着状態にあった。
「今のは……」
光によって意識が飛んでしまった為に見た夢だったのだろうか、とゼウルが思う。
「……ゼルファスは!?」
見る。ゼルファスもまた、ゼウルと同じだったのか、動こうとしなかった。
『…………』
『ゼルファス……』
『……! ソフィー……!?』
ゼルファスが盾を見る。わずかな亀裂が入っていた。
仮面の下で目を見開くゼルファス。ゼウルを一瞬だけ見た後、唱える。
『闇の精霊よ、頼む』
闇がゼルファスを覆い、そのまま消える。その様子にゼウルは驚いた。
「撤退した……なぜ……? ……ぐっ!?」
鎧が解かれ、ゼウルがその場に倒れる。それを見たアリス達が叫んだ。
「ゼウルさんっ!」
「ゼウル!」
駆け寄るアリスとルイ。アルトとマキもゆっくりと歩み寄り、ゼウルの肩を掴む。
「まずは病院へ運ぶ。マキ、手伝え」
「ああ。ゼウル、しっかり……!」
街から遠く離れた場所に、ゼルファスが姿を現す。
『ソフィー、すぐに回復を……!』
盾から元に戻った漆黒の騎士――――ソフィーに光を集中させる。ソフィーの傷ついた鎧が修復された。
『すまない、ゼルファス……』
『謝るのは俺の方だ。大丈夫か?』
『ああ……』
ソフィーの言葉を聞いて、ゼルファスが安堵の息を吐く。
『予想よりも強かった。ゼウルの強さなら、他の幹部達にも通用する』
『そう……』
『ソフィー、どうする?』
ゼルファスが訊く。
『幹部であるお前にとって、俺の目的は……』
『何度も言わせないで。私はあなたにどんな事だろうと協力する。そう言っただろう』
『しかし……』
『私は、あなたに惚れ込んだのだ。だから、あなたの目的は私の目的でもある』
そう言って、ゼルファスの胸元に抱きつくソフィー。
『たとえ、この想いが実らなくても、私はあなたと共に戦う』
『……ありがとう、ソフィー』
『それで、何があった?』
ソフィーが訊く。
『あの一瞬、あなたの意識はあの場に無かった。何があった?』
『…………』
大丈夫。お前はお前だ。だから、もう泣くんじゃない。
思い出される言葉。ゼルファスは黙ったまま拳を握った。
ゼウルとの戦いで見たあの光景。なぜ、あれが見えたのかは定かではない。
いや、”ゼウルと戦ったからこそ”見えたのだ。
ゼウルとは戦ってはいけない。そう、何者かに言われているように。
『”今の”ゼウルとは、俺は一緒にいてはいけないと言うことか』
『ゼルファス?』
『……いや、何でもない』
『そう? それで、これからどうする気だ?』
ゼルファスから離れるソフィー。ゼルファスが闇を出しながら答えた。
『鍵を集める。それが今の俺がやるべき事だ』
そして、闇に覆われて消える。
「ゼウルは?」
「今、アリスとルイが看ている。まだ、目を覚ましていない」
ゼウルを病院に運んで三日ほど経ち、様子を訊くアルトとそれに答えるマキ。
「アルト、二人の強さを見て、正直どう思った?」
「……自分はまだまだだと、痛感した。同じ”ナイト”として、な」
「そうだね。私もだ」
二人の強さは、同じ”ナイト”とは思えなかった。
病室の扉が開き、アリスが顔を出す。
「ゼウルさん、目を覚ましました」
「……! そうか、分かった」
二人が病室に入る。目を覚ましたゼウルに、ルイが怒っていた。
「この馬鹿! いつまで寝てるのよ!」
「いや、まさかそんなに寝てるとは思ってなくて……」
「思ってなくて!? 三日も寝てたのよ!?」
「ごめん。だから、そんなに怒らなくても……」
「だ、だだ誰が怒ってなんか……! 私は……私はただ心配で……心配で……」
ルイの目から涙が零れる。
「目を覚まして良かった……本当に……」
「ルイ……」
「……もう良いか?」
「いや、もう少し見ていたい。二人の夫婦ぶりを』
一部始終を見ていたアルトとマキの言葉に、ルイが顔を真っ赤にして声を上げる。
「だ、だだだだだた誰が夫婦よ!?」
「ルイ、あまり大声を出すと病院に迷惑だよ」
「マキ、あんた……!」
からかわれるルイを見て、アリスも思わず笑ってしまう。どうにか堪えようと口元を手で押さえるアリスに、ルイの顔がさらに赤くなった。
やれやれと呆れながら、アルトが淡々と話し始める。
「ゼウル、もう大丈夫と思って良いのか?」
「ある程度は大丈夫だと思う。街の方は?」
「流石に問題無い、とは言えない。騎士団を派遣させるが、復旧には時間が掛かる」
「そうか……」
「それで」
アルトが訊く。
「あれは何だ? 何を隠していた?」
「あれって?」
惚ける。アルトが睨んでいるのが分かり、冗談だとゼウルは謝った。
「……あれはレグルス。光の精霊を統べし者から授かった力」
「光の精霊を統べし者、だと……!?」
アルトが驚く。ルイが首を傾げた。
「光の精霊を統べし者って、何?」
「精霊には、それぞれに王のような存在がいる。それが精霊を統べし者」
その存在自体が精霊を生み出し、そして統括すると言われる存在。どのような姿で、どこにいるかも分からない存在。それが精霊を統べし者。
ゼウルの説明に、マキが疑問に思う。
「ゼウル、君はどうやって光の精霊を統べし者を?」
「ティアのお陰だよ」
「ティアの?」
「ティアが昔詩っていたんだ。『光は太陽の調べ、獅子は天に近き場所でそれを望む』って」
ティアはよく不思議な詩を詠っていた。そう、ゼウルが答え、アルトが気づく。
「光と獅子はともかく、まさか天に近き場所と言うのは……」
「そう、グランドクラウン」
その名前を聞いて、アルトが呆れたかのように驚く。
「ゼウル、まさかグランドクラウンに登ったのか……」
「うん。半年くらい掛かった」
誰も登った事がない山、グランドクラウン。
その高さは天にまで昇るとされ、頂上は空より遥か上と言われる。
さらには、樹海と化した麓は迷路のようになっており、一度足を踏み入れた者は二度と出られないと言われる。
「道は光の精霊が教えてくれたから迷うことはなかったけど、あの高さは心が折れそうだった」
「ティアの詩だけで、あそこに行くとか馬鹿なのか、お前は……」
「まあ、山の近くまで言ったらレグルスの声がしたし、間違いではなかったけど」
苦笑するゼウル。アルトはもはや何も言えなかった。ルイが訊く。
「ティアの詩って、他にあったわよね? もしかして、ティアは全部知ってた?」
「多分。ティアは救世の姫としてなのか、世界の事を何でも知っていたんだ」
「しかし、なぜ光の精霊を統べし者と契約したのに、今まで隠していたのかい?」
マキが訊く。ゼウルは頷いた。
「精霊を統べし者は言わば神のような存在。そう、レグルスは言っていた。だから、この力を使うと言う事は、神の力を使う事になる。神の力は、僕達が使うには強大過ぎて、力の消耗も激しいし、制御も難しいんだ」
短時間しか使えない上に、力を制御しないと暴走する力。
「できれば、あまり使いたくはないかな。魔王軍幹部とか出てきて、そうも言えないけれど」
「強くなる手段として、それぞれの精霊を統べし者を探す、と言う考えはやめた方が良いみたいだな」
アルトの言葉に、ゼウルが頷く。
「それに、あのゼルファスって闇の”ナイト”の強さからして、まだ僕達は強くなれるはず。それに、”彼女”も探さないと」
「”彼女”ね。でも、情報はあまりなかったわよ?」
「どちらかと言えば、山賊が出没しているくらいか」
溜め息をつく。”彼女”の情報はなかなか見つからない。
「あの……」
今までの話について来れず、黙っていたアリスが口を開いた。
「ゼルファスさんについて、なんですが……」
「次現れた時は容赦はしない」
アルトが言い放つ。
「いえ、あの……」
「俺とマキはもう少し情報がないか手掛かりを探す。ルイ、妻としてゼウルを看ておけ」
「だ、誰が妻よ!?」
「あ、あの、アルトさん……!」
「アリス、君もマキと一緒に頼む」
「あ、は、はい……!」
アルトに言われ、マキと共に病室を出る。
アリスはなかなか言い出せなかった。
(ゼルファスさん、それにソフィーさん……あの人達は悪い人のようには……)
胸の奥がざわついていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます