第33話 聖域化
石畳が光っている。
一番光が強い所からは、蛍のような光が石畳から発生してフワフワ飛んでいく。
異変を聞きつけ来ていた町長が怯えていた。
「ななな何なんでしょう、これ。」
エドワードは、町長を落ち着かせようと微笑んだ。
「安心して良い。
間違いない、ここはマックスが足踏みしていた所だ。」
「マックス?」
「私が連れていた象だ。
女神ミストの祝福を受けし神獣で、歩く事で地面を浄化できる。
大豆を片づける間、ここでずっと足踏みしていたから道が聖域化したんだ。」
「では、悪いものではないのですね?」
町長がホッとした顔をする。
「ああ、光っているのは神聖力だ。
あたりが暗くなると見えるようになる。
しかし、眩しくて気になってしまう場合、道の両側に壁を作るなどして対策をすると良い。
私の屋敷でも、マックスの飼育舎を黒い布で囲んで……」
「そんなもったいない!!
広く喧伝すれば、見物……いや、巡礼の民が押し寄せ……!
ああああ!王都に近すぎて通り過ぎるだけのこの町にやっと名物が……!!」
「町長?」
様子のおかしい町長にエドワードも、他の聖騎士も困惑する。
「こうしちゃいられん!!
早速屋台の準備だ!!
エドワード様この光はどのぐらい持ちますか!!」
「えっ!?
ステータスによると、一年は効果が続くと……」
「一年ですか!!
その間が勝負ですね!!
土産も用意しないと。
この石畳と光をイメージした白いビスケットやクッキーを町の御婦人方に作ってもらって……
よーし!!さっそく町に戻って作戦会議だ!!」
ドドドドド、と擬音がつきそうな勢いで馬にも乗らず走り去った町長を、ポカンと見送る聖騎士達。
エドワードがハッとした。
「あ、教会の脇の空き地も聖域化するって、まだ言ってない……」
さっき教会を出た時マックスは、ブロッサムの愛犬ポチと遊んでいた。
好奇心旺盛な彼は、今も歩き回って地面を浄化し続けているはずだ。
「まぁ、町に戻ってから言ってもいいんじゃないですかね。」
「ですね。
あの町長、喜び過ぎて倒れないといいな。」
苦笑いする聖騎士達。
「さて、誰かここで通行人に説明してくれないか。
騒ぎになっては困る。」
王都に近いだけあってこの道は、夜でもそれなりに人通りがある。
「では、私が。」
眼鏡をかけたスーツ姿の男が進み出る。
「君は町役場の職員か?」
「はい、クリフといいます。
Gランク聖騎士です。
戦えるだけの力はありませんが。」
Gランクは、神聖力が弱くて任務に就けない者も多い。
そういう者は、医者や公務員、教会の司祭になることが多い。
クリフもそうなのだろう。
「よろしく頼む。」
「町長を奇妙に思われたかもしれませんが、彼は悪い人ではないんです。
ちょっと地元愛が強くて。
長年名物の無いこの町に悩んでいたから、巡って来たチャンスにテンション上がっちゃったんです。」
「ああ、地元を愛しているのは良いことだ。」
「それにしても、こんなに簡単に聖域が作れるなんて神獣様はすごいですね。」
とても良い笑顔で言うクリフ。
マックスがモンスターだった事は言わない方が良さそうだ、と聖騎士達は思った。
エドワード達は、町に帰って休む事にした。
予想通り、マックスは初めての場所にはしゃいでいて、更にポチの聖なる鳴き声で空き地は急速な聖域化が進んでいた。
その近くでは、地元の女性達が大鍋でスープを作ったり肉を焼いたりしている。
彼女らが連れてきた子供達がマックスとポチに興味津々だ。
「リンゴをあげてみるかい?」
象使いが子供達に話しかけると、子供達は嬉しそうに寄って来た。
「ワンちゃんは何食べるの?」
ブロッサムが子供達に近づいて説明した。
「お肉が好きですわ。
人間と違って、味のついてないものが良いのですよ。」
「へぇ〜。」
(王都の外でお泊り、地元住民との触れ合い。
今まではできなかった事ができていますわ。
成長してますわ、わたくし!!)
ブロッサムはご機嫌だ。
「すごいなぁ、キラキラだぁ~。」
マックスは歩く度に、ポチは鳴く度に浄化が発動してキラキラが飛び散る。
祭りの様な夜は更け、町全体が何となく幸せな気分で眠りに就いた。
次の日、朝早く一行は旅立った。
少しでも遅れを取り戻すためだ。
ひっそりと出発するつもりが、教会の司祭、町長、その他大勢が見送りに来て賑やかになった。
「巡礼の旅が滞りなく行われますように……」
「聖域の事はお任せ下さい!!」
町長の目の下には隈がある。
だが、とても元気だ。
「……あ、ああ。
頼む。」
「出発!!」
今日は滞りなく進めるだろう。
誰もがそう思っていたのだが……
「……キャベツですね。」
「ああ、キャベツだな……。」
道に満遍なく撒かれたキャベツを眺め、一行は遠い目をした。
「コラッ、マックス!
食べるな!」
キャベツを鼻で拾ってモシャモシャしてるマックスを、象使いが叱る。
「いいんですよ~。
象さんのオヤツになるなら、キャベツも本望でしょう。」
そう言うのはキャベツを落としてしまったという御者だ。
三十代半ばのふくよかな女で、昨日の男とは同業他社らしい。
(ああ、借金返済の為とはいえ、こんな依頼は心が削られるわね。
わざと道を通れなくしろだなんて……)
実は彼女、昨日の男が勤める会社の社長と親戚である。
(それにしても何なのかしら?
ばら撒くのは馬が食べられる物にしろ、だなんて……)
女は首を傾げた。
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