第26話 神獣

(一瞬でやらなければなりませんわ。

強くイメージして……)


 ブロッサムは、マックスに右手を向けた。

 赤い結界がほんの少し大きくなり、移動し始めた。

 マックスの足が持ち上げられ、バランスを取るために一歩後ずさりした。

 その一瞬で、結界の性質が変わった。

 外からの侵入を拒んでいた結界が、通過可能になった。

 マックスがそれを理解できない内に、彼をすっぽり包んでしまう。

 ブロッサムとミモザが結界から出るまで移動した結界は、また性質を変えた。


 パオオオオン!!


 自身を包む結界を攻撃するマックス。

 だが、金属音を響かせるだけで出られない。

 中からの脱出を拒むように、結界が変わっていた。


「術者が中心じゃない!?

なんだあれは!?」


 周りがざわつくが、ブロッサムはそれどころではない。

 続けて治癒結界を展開。

 いつもの、術者中心の虹色結界だ。

 赤い結界ごとマックスを包む。


「アクア!!

あなたも結界を!!」


 アクアは、ハッとしてブロッサムの側に駆け寄り浄化結界を展開。


「カイ!!

マックスに光の矢を放ちなさい!!」


 カイは、弓矢を手に取って神聖力を込めて放つ。

 赤い結界の中、矢は眩しく輝いた。

 続けて、二射、三射と打ち続ける。


「あたくしもやりますわ!!」


 いつの間にかソフィアが近くに来ていて、浄化結界を展開した。


「なんだあれは!?

だが、面白い!!」


 エドワードが、カイの真似をして矢を放つ。

 驚いた事に一度で成功した。


「エドワード様!!

ミモザ様!!」


 マーガレットが、走って来た。

 今日は別の用事で来られないと、ブロッサムは聞いていたのだが。


「マーガレット、君も結界を!!」


 エドワードもマーガレットも、自分の状況説明はしなかった。

 マーガレットは言われた通り結界を展開する。

 彼女の結界は、アクアやソフィアよりも強い輝きを放つ。

 

(さすがAランクですわ。

それに、お二人とも信頼し合ってるみたい……)


「聖女は結界を!!

聖騎士は矢を!!」


 エドワードの言葉に、参加者達が集まってきた。

 幾重にも重ねがけされる結界。

 カイとエドワード以外で光の矢を打てたのは、残念ながらエドワードと親しげにしていた若者だけだった。

 結界の中に神聖力が貯まっていく。


 カッ!!


 強い光を放ったかと思うと、赤い結界は消えた。

 キラキラと浄化の光が宙に舞う。

 中から出てきたのは、モンスターでも、普通の象でもなかった。

 暴れた時に足や鼻についた傷は、すっかり癒えていた。

 全身から放たれる、明るく清々しい気配。

 一歩歩く度に、足元から浄化の光が出る。


「マックス……

マックスなのか……?」


 普通の象だった頃の、どこか寂しげな雰囲気が消えている。

 そう、エドワードは思った。

 母を殺され見知らぬ土地に連れてこられた悲哀みたいなものと、エドワードが感じたあの雰囲気が。

 マックスはエドワードに鼻を近づけ、匂いを嗅ぐと安心したように鼻を擦りつけた。


「少し変わったけど、マックスだ。

間違いない。」


「鑑定します。

エドワード様、許可を。」


 声をかけたのはエドワードと同じ学年の男子だった。


「許可する。」


「種族が……神獣!?

スキル……聖なる行進……歩いた場所を浄化!!?」


「なんだこれ?

見た事の無いスキルだ。」


「いや、動物が浄化を使えるなんておかしいだろ!!」


(あら?

ポチって、実はすごい子なのかしら……?)


 ブロッサムは、余計な事は言わないでおこう、と思った。


「緊急事態だって聞いて来たんだが、何やら面白い事になってるな!!」


 聞き覚えのある野太い声に、ブロッサムが振り返ると大剣を携えたアーサーがいた。

 少し後ろには、グレイス。

 そしてなぜかブロッサムの治癒を最初に受けた男、ケインがいた。


「アーサー。

先ずは、ミモザとブロッサムを休ませないと。」

 

 グレイスの言葉に、エドワードがハッとする。


「二人共、怪我は無いかい?」


「……」


 ミモザは質問には答えず、何か言いたげに兄を見る。

 

「ミモザ、どこか痛い所は無い?」


 マーガレットがミモザの側にしゃがむと、ミモザは小さな両手を口の脇に持ってきた。

 内緒話が、あるらしい。

 マーガレットは、ミモザに耳を向けた。

 

「マーガレット姉様、あのね……」


 それを聞いたマーガレットは、エドワードにジャケットを借りた。

 それをミモザを包む様に着せる。

 侍女が、ミモザを抱き抱えて連れて行く。 

 何を言ったかブロッサムには分かる。

 だって、ブロッサムも同じだから。


「ブロッサム様、お怪我は?」


 アクアが訊いてくる。

 ブロッサムは、チラッとカイのジャケットを見た。


「無いわ。

でも困ったことになったわ。

カイ、あなたの上着を貸してくれる?」


 コソコソと小声で理由を説明する、ブロッサム。


(お小水でスカートが濡れているの、バレないですわよね?

ロングジャケットが流行りで良かったですわ。

カイには、新しいのを買って返さなきゃね。)


 至近距離で象の攻撃を見続けたのだから、無理も無い。

 カイは、すぐにジャケットを脱ぐとブロッサムに着せた。

 この屋敷のメイドに案内されて、ブロッサム達は客室へと向かった。

 残されたエドワードに、アーサーが声をかけた。


「エドワード、マックスを飼育舎に戻せ。

教会から鑑定持ちや獣医が派遣されて来るはずだ。

問題無しと判定されるまで、移動させるなよ。」


「分かりました。

しかし、叔父上と叔母上は何故ここに?

叔母上はマーガレットと、王族女性の集まりに行っていたのでしょう?」


 これには、グレイスが答えた。


「パーティーにブロッサムが来ていると聞いて、ちょっと顔を出しに来たのよ。

ケインも会いたいと言っていたし。」


「ケイン?」


 ケインがペコリと頭を下げた。


「彼は、ブロッサムの最初の患者よ。

面白い事ができるから、後で見せるわ。」


 うふふふ、とグレイスはいたずらっぽく笑った。

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