第23話 光の矢
この国の貴族の屋敷には、武術の稽古をするための道場がある。
聖騎士である男性が主に使うが、弓術は女性も嗜んでいる。
魔王以前から、国の安寧を祈る際に弓の名人が鏑矢を射る伝統があるからだ。
聖女、聖騎士の学校でも弓術は必修科目。
ブロッサムも、弓ならば扱えた。
ブロッサムは聖女服に着替えてから、道場に来た。
カイにも着替えてもらった。
この国は、いろいろな所に日本との共通性を感じる文化がある。
聖女服が和服なように、弓も和弓に近かった。
カイが身に着けている稽古着も前世の弓道着みたいだ。
(前世の彼女は、武術なんて縁の無い人生だったから、弓道着もよく知らないのですけど……)
弓道場には、先客が居た。
緑の短髪の少年、学年も同じで関わる事の多い相手。
聖騎士のアンドリューだ。
カイが休みの時にブロッサムの護衛をしてくれる人物で、カイやアクアとは別の伯爵家の子息。
ブロッサムにとっては、二番目に親しい男の子だ。
カイとはタイプの違うイケメン。
(非番のはずですけど、パーティーには行かずに稽古とは熱心ですわね。
それにしても、やっぱり戦隊ブラックみたいなお顔をしていますわ。)
前世の彼女が好きだった子供向け特撮番組を、思い出す。
「ブロッサム様!?
何故こちらに?」
「稽古の邪魔をしてしまいましたね。
隣、使ってよろしいかしら?」
「もちろんです!」
(ブロッサム様、相変わらずお美しい……)
ブロッサムは全く気づいていないが、彼はブロッサムに憧れていた。
(フローラ様もお美しいが、やっぱりブロッサム様のふんわりとした雰囲気がいいよなあ。)
「先ずは、わたくしが弓を射ますわ。
よく、ご覧になってね。」
ブロッサムは愛用の弓矢を持ち、深呼吸。
(弓矢を、自分の体の延長だと思うのですわ。)
神聖力は女神の力、自分はそれを受け取るアンテナ。
自分も弓矢もこの惑星の一部、神の力が宿らぬわけがない。
足の下の惑星ミストを感じ、自分を通って矢に流れる力を思い描く。
流れ込んで、矢に留まる。
矢の先が、光輝く。
ヒュッ!!
放たれた矢は、的の中心に吸い込まれる様に刺さった。
的に神聖力が注ぎ込まれ、光輝く。
道場に、清々しい気配が満ちた。
「こんな感じに神聖力を込めたら、モンスターにも通用するのではないかと……」
カイもアンドリューも、ポカンとしてブロッサムを見ていた。
「……あ、あら?
分からなかったかしら?
じゃあ、もう一度……」
「いやいやいや!!
何ですか今の!!
どういう理屈で矢に神聖力がっ!!」
次の矢に手をかけようとするブロッサムに、アンドリューのツッコミが入る。
当然だ、この世界の常識をひっくり返したのだ。
「始まりの聖女様の時代には、この様な事ができる人がたくさん居たと伝わっています。
いつの間にか人々が、『できない』と思い込んでしまったのです。」
「あ、あれは、後世の人が大げさに伝えたのでは……」
「でも、わたくしが『できる』と思いましたら、できましたわよ?」
コテンと可愛らしく小首を傾げるブロッサム。
彼女に可愛い自覚は全く無いが、アンドリューには効果覿面だった。
顔を赤くし、ブロッサムに見惚れるアンドリュー。
そこへカイが割り込んできた。
「やってみます。
私にコツを教えて下さい。」
「要はイメージ、想像力が大事なのです。
自分も弓矢もこの惑星の一部、女神様の祝福を受けて存在している。
そんな風に信じるのです。」
ヒュッ
矢は真っ直ぐ的に吸い込まれたが、神聖力は伴わなかった。
「わたくしが補助いたしましょう。」
ブロッサムは、カイの後ろから手を回して弓に触れようとするが……
(あら?
届きませんわー!?)
うんしょ、うんしょ、と手を伸ばすブロッサム。
だが腕の長さが足りてない。
当たり前だ、カイとの身長差は二十センチ近くある。
「……ブロッサム様、逆の方が良いのでは?」
「逆?」
カイはブロッサムの手を引いて、前に誘導する。
ブロッサムを後ろからハグするみたいに、二人で弓を持つ。
「ああ!
この方が楽ですわね。」
(カイの野郎!!
婚約者だからって、イチャイチャしやがってえええー!!)
アンドリューは、脳内で地団駄を踏んで悔しがった。
(まだ婚約だけで結婚じゃないんだからな!!
いい気になるんじゃねぇ!!)
ブロッサムは、カイと自分の神聖力を同調させる。
初めての事だが、イメージさえできればやれる事を知っていた。
ヒュッ!
トスッ!
今度は神聖力を帯びたまま的に刺さる。
的が光り輝いた。
「……できた、信じられない。」
「次は、アンドリューがやってみて下さる?」
トテテッ、とアンドリューの側にくるブロッサム。
「え?」
「さあ、さあ、先ずは一人でやってみて下さいな。」
グイグイと、的の方を向かせようとするブロッサム。
「分かりました。
ちょっと離れていて下さい。」
アンドリューの放った矢は、神聖力を伴わなかった。
「では、わたくしがサポートを。」
「お待ち下さい、ブロッサム様。」
アンドリューの前に立とうとしたブロッサムの肩に手を置き、カイが止める。
「ここは、私にお任せ下さい。
コツは、もう掴みました。」
有無を言わせずブロッサムと交代。
「さあ、やってみようか。」
「いや、俺はブロッサム様が……」
「何度もブロッサム様の手を煩わせなくても、よいだろう?」
(カイめ〜!!
余計な事をー!!)
もう少しでブロッサムの手に触れられたのに、とアンドリューは思う。
(お前がブロッサム様をどう思ってるか、丸わかりなんだよ!!)
自分が婚約者である以上、必要以上に近づく事は許さない、とカイは思う。
二人は、ニコニコと笑い表向き仲良く牽制し合う。
その様子にブロッサムは閃いた。
(一つの弓を二人のイケメンが引く……
これはもしや……腐った乙女垂涎のシチュエーション!?
ちょっとだけ、ワクワクしますわー!)
先ほどまで自分がアンドリューの位置にいたのに、そこにはときめかないブロッサム。
これも前世の悪影響だった。
残念!
それは置いておいて、アンドリューも神聖力込みの矢を射る事ができた。
(これで聖騎士の死亡率を下げる事ができるかしら?)
いつの間にか道場に入り込んでいたポチが、ブロッサムの足元にやって来た。
「キャン!」
破邪の声が発動して、キラキラと光が舞う。
「まあ!
お祝いしてくれるの?
ありがとう!」
ポチを抱き上げ撫でる。
すぅっと体が軽くなってブロッサムは、自分が力を使いすぎていた事に気がついた。
(今日は、治癒を行っていないのに……
一昨日の疲れが、残っているのかしら?)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます