第24話 試練とは即ち

 朝、俺は一人のんびりと早起きしてご飯を食べていた。

 女子二人はどうやら夜遅くまでくっちゃべっていたらしく、まだ眠っている。


 良い事だ。


 だから僕は一人なのだ。ご飯はちなみに俺が作っている。

 まぁ炒飯だ。簡単だぞ?

 油を引いた鉄鍋に卵を落としてご飯と混ぜて、そこに野菜をぶち込んで炒めるだけ。

 実に複雑な作業も必要無い、シンプルな料理だ。


 まぁ実際極めようとするなら、家庭用コンロでは無理があるので、そこにはちょっと手が及ばないのだけれど。


「ん〜、味付けどうすっか。 焦がしラー油ってのはありだな。 じゃあニンニク……はやめておこう。 さすがに女子二人いる家でニンニクの香りはあまりに風情がないもんな」


 *


 作った炒飯を温かいお茶と共に胃の中に詰め込んだ俺は、SNSを適当に覗く。


 トレンドには見慣れた冒険者の名前や、Sランクの冒険者に関する事が山ほど書かれていた。


 そしてその中でも目を引いたのが……。


「うん? Sランク試験を放送する番組?あ〜動画サイトでやるのか。 で、しかもチャレンジするのはマジか……」


 あまりにも名の知れたSランク冒険者達と、Aランクより上の冒険者が山ほど名を連ねていた。


 そういえば昨日、俺にも招待が来たけど……まぁこんなメンツと勝負してSランクの資格を得るのとか無理だったから、断って正解だったな。


 俺は生放送を見る為にコーヒーを入れて、のんびりと窓際の席に座りながら眺めることにした。


「視聴者数は……まじかよ、朝だぞ? 朝なのに200万人ってアホだろ」


 実に2054521人の視聴者がいた。

 朝の、それも平日の朝早くなのにこんだけの人間が視聴しているのもある意味すごい。


 コメントにも、・学生だけど来ちゃった!・授業までの時間でみます・仕事休んだ!・学校サボってみます!みたいなのが多く散見される。


 いや、学校は行けよ。


 まぁそれにしてもSランクってのはそれだけ凄いって話なのでもあるのだろうけどね。


 ***


「レティースアンドジェントルメン!! Sランク冒険者の試験にようこそ!彼らは実に様々な視点から、優れた冒険者と判断された素晴らしいチャレンジャーだ!! 」


 ライブ配信はヌルッと始まった。


「​───────そして彼らは、でもある。 それは私、クローシス・フルフェイスが約束しよう!!」


 どうやらクローシスさんもこの状況にテンションが上がっているのかもしれない。

 声が若干楽しそうだ。


「それでは、最初の試練だ。 を攻略しろ。 あぁ、あれだ」


 魔王城?

 するとすぐにクローシスさんの後ろに、現れた。

 大きさはかなりのものだ。


 当然コメントも


 ・うぉぉぉ!、でけぇぇぇぇ!!

 ・待ってなにあれ!

 ・いややば

 ・あれCGじゃないよね?マジモンってこと?

 ・金かけすぎだろ

 ・流石は冒険者協会のCEO。金があるんだろうなぁ

 ・ってか魔王城ってなんやねん。魔王でもおるんか?

 ・魔王城、いい響きだ

 ・凄いなぁ……Sランクってあんなのに挑めるんだ


 みたいなものが見受けられた。


 だが、俺はその城を見た瞬間に嫌な予感がして背筋がゾッとしたのだ。


 何故だか分からないが、あれはダメだ。

 魔王城などと言われていたが、アレは決して触れてはならない何か。そんな予感がする。


 俺の眼前に映っていたのは巨大な正方形の何か。

 コメントにちらほら出てくる、巨大なお城というものは何一つ見当たらない。


 無機質なそれは、まるでSF映画に出てくるエイリアンの侵略要塞のようにすら思えた。


 そしてその真ん中が開き、そこから一筋の光がSランク冒険者達になる予定の彼らを包んだ。


「彼らは、この魔王城を攻略してもらいます。 当然これの中には各地で集めた様々な魔物が山ほど入っており、それを全て倒して最奥の魔王を倒した人間、もしくはそこまでのスコアが優れていた人間がSランクになるのです」


 ・つまりスコアアタックって事か!

 ・うぉぉぉお!!!こりゃぁ見逃せねぇぜ

 ・頑張って恭弥様!!

 ・負けるんじゃねぇぞ

 ・こんないかにも魔王城って所どうやって作ったんだ?

 ・金かけてんなぁ


 コメントも大盛り上がり。

 ただ一人、俺を覗いて。


「さぁ! Sランクの期待を背負った皆様、ぜひ頑張ってください!!詳しい概要は中に入ってからお伝えします。 それではSランク冒険者試練、開幕っっ!!」


 そういった瞬間、俺は何かを幻視した。


 そこには、魔王城が山ほど空を埋めつくし、それにより人々が死んでいく様があった。


「……な、なんだっこの嫌な予感はっ!……くそっ、何かがやばい気がする!」


「うるさいです、悠雅さん。 おはようございます?」

「ほんとですよ先輩」


 どうやら叫び声がうるさかったらしい。二人に文句を言われてしまった。


 俺は二人に謝りつつ、画面に何が表示されているのかを尋ねた。

 どうにもコメント欄と俺の見ているものが異なる可能性があったからだ。


 しかしそれを見た二人の反応は……。


?」


 俺と同じだった。

 ?余計に訳が分からなくなってきたのだが。







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