第21話 クローシス・フルフェイス。又の名を

【悠雅視点】


 ……は、はっ?!


 気がつくと俺はベンチで寝転んでいた。

 既に夕方に差し掛かっているのだろうか、やけに眩しい太陽が目をぐさぐさと刺してくる。


「───え、えっと俺は何をして…………うへぇ?やべぇ!! 2人からめっちゃ電話とメールきてんじゃん!」


 50件を超えるメールと、60回以上を不在着信を見て俺は若干ビビりながらメールを返す。


 まぁ勿論LINEスタンプなどで謝れるとは思っていないので、一旦電話をかけようとしたところで……ふと、ここで自分が何をしていたのかをあやふやながら思い出し始めたのだった。


「……えっと、確か……検査を受けて……それでSランク……だっけ?……あれ?Bランクの試験に変わってる? え? 誰かと会って────ぅぅ?分からねぇ」


 何となく誰かと会って話をした記憶がうっすらと朧気によみがえっては来るのだが、そこまでなのだ。


 どうにも思い出せない。

 否───思い出そうとすればするほど、誰と話をしていたのかを忘れそうになってくる。


 ────まぁ、そこまで思い出せないなら大した事じゃないだろう。

 そう思いながら俺は欠伸をしながら二人が待つ家に向かってかけだすのであった。


 ***

【???視点】


 1人の男が駆け出していく様子を、仮面をつけた男が向かいのビルの一室から双眼鏡で眺めていた。


「────ふ。 やはりそこに居たのですね。 無名。 だがまだその力は覚醒には程遠いと。 ───好都合ですねぇ、……おや?」


 ノックの音が響く。


 男は静かに双眼鏡を外すと、机に腰掛けて入っても良いと告げる。


「失礼します。 クローシス・フルフェイス様。 おや、本日は少しだけ楽しそうですね。 何かありましたか?」


【クローシス・フルフェイス視点】


「────何も無いさ。 ただ、久しぶりに人間に出くわしてね。 君ならわかるだろう? 私がどれだけ心躍らせたのかを」


「知りません。 そもそも私にの話をしても無駄だとあなたは知っているはずでしょう?」


 秘書のような女性は、まるで感情が抜け落ちたかのように淡々と答える。


「ハハハ、さすがにつれないなぁ。 いや、様は」


 無情、そう呼ばれた秘書はかけていた眼鏡を外しながらフルフェイスを睨みつける。


「……無心の話はしないでください。 の馬鹿がポエムを掲示板に打つために私の2つ名を利用したとか聞かされたんですから。 あんの馬鹿野郎!! フルフェイス、あなたもあとであの馬鹿をボコボコにするのを手伝ってくださいね?」


 そう言いながら、無情は去っていった。


 **


「ハハハ、さて。 ランクの検査によって、この国の───いや。 この世界の総合戦闘力と個人情報がしっかりと私の元に届いている。 実に素晴らしい。 ────ふふふ、もう少しだ。 もう少しでこの世界は……を迎えるのだから!!」


 フルフェイスは、静かにヘルメットを取って笑顔を見せた。

 だがソレはまるで誰の顔なのか、さっぱり分からないと言わざるを得ないものであった。


 クローシス・フルフェイス。

 又の名を無面フェイスレス


 彼の目的はただ一つ、この世界の凝り固まった価値観の破壊と────である。



「浮かれているがいいさ。 人間風情が。 魔物をただ狩るべき対象として、下に見て、自分たちが上だと過信する愚かな人間ども。 貴様らには絶望が足りない。 貴様らには恐怖が足りない。 だから───ぁぁ、楽しませてくれよ?」


 悪魔のような笑みを浮かべ、無面は沈みゆく夕日を見つめるのであった。



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