第19話 異界の夜空
夕暮れ近く、レスティアのアドバイスで早めに野営の準備に取り掛かる事にした。街灯なんかない世界だ、日が暮れてからの用意は大変だろう。
「ここで良いか」
レスティアが選んだのは小さな雑木林の根元だ。テーブルや腰掛に使えそうな切り株もある。
「じゃあ、テントを出すぞ」
カバンから円形の容器を出す。それを地面に投げると、風船のように膨らんで三角形の定番のテントになった。一瞬で作り出す便利道具だが、まともに買うとかなりの値段だ。この性能の良さを考えれば当たり前だが。
後は薪を組んでレスティアの生活魔法で火をつける。従来の旅ならここから調理やら何やらもあるけど、私たちの場合はこれでおしまいだ。夕食をするには少し早い。
「今日も魔法の練習をしたいんだけど、良いか?」
「もちろん構わないよ」
お湯を扱う風呂があるとは分かっても、それは街にいる時の話。こうして野営をする時は絶対に必要だ。
「じゃあ、昨日のおさらいだね。まずは魔力をコントロールする所からだよ」
魔力は誰もが持つものになる。運動するのに体力が必要なように、魔法を使うには魔力がいる。しかし手足を動かすのより難しいのが、魔法と言うものだ。
生活魔法の
そこは人それぞれになるようで、私の場合は石鹸とシャンプー、シャワーのイメージになる。
「
最後にその発動のキーとなる命令を出す。成功すれば身体の不快感が消えるのだが……。
「うわッ!?」
バシャっと頭からお湯を被る。ついでに泡塗れにもなる。
「……逆に不思議なんだけど、なんで
「私が聞きたいんだが」
また同じ失敗だ。纏う魔力とイメージが強すぎるのか、シャンプーと石鹸混じりのお湯が頭から降り注いでくる。これでは綺麗になるはずがない。昨日よりは抑えたつもりなんだけどなぁ。
「アルマってよく分からないよね。右目もそうだけど、その魔力の濃さもね。一度、ギルドで測って貰ったら?」
びしょ濡れになった私にレスティアが生活魔法の乾燥(ドライ)で乾かしてくれる。乾燥した風を出し、水気を払う魔法だ。私がやったら周囲が砂漠化しそうだ。
「そうしたいよ。これじゃまともに使えるようになる気がしない」
レスティアの見立てでは、私は相当の魔力の保有量は落第だが、やけに〝濃い〟らしい。要はそれで保有量が少なくても、有り余る濃さが暴走しているから魔力の些細な変動が出来ないとか。
そうは言われても全く心当たりが無い。
何故魔力だけ? 体力その他もろもろは地球にいた時のままなのに。これもあの手紙が言う〝真実〟とやらに含まれるのだろうか?
*
結局、今日も一度も成功しなかった。
しかし昨日よりは上手くなったような気もする。
「今日のご飯はこれかな」
食材を持ち、生成する。
出てきたのはこんがりと焼けたハンバーグっぽいものと、野草、ディップするためのソース付きだ。
ナイフで切り分けると、肉汁が零れてくる。一口、それを噛み締めた。完璧な味付けと焼き加減の肉は濃厚な風味を醸し出す。
副菜の野草も新鮮で、ソースに絡めて食べればクリーミーな味わいとシャキシャキな食感を同時に楽しめた。
「これ、野営で食べられる料理じゃないよ……美味しい」
レスティアもこの時は普段のキリッとした顔つきから、年相応の笑顔で食べている。
「もし足りなかったら追加で作るよ」
「是非とも……と言いたいけど、が、我慢しておく。最近お腹がね……」
腹部をさするレスティア。
そうなのか。普通にスレンダーだと思うけどな。
夕食を終えた後は、ただ焚火を囲ってお茶を飲み、満天の星空を眺める。当たり前だけど、見知った正座は一つもない。月はあるが、地球よりも大きく見えた。クレーターまで肉眼で観測できる。
他にも土星みたいな輪っかが沢山ある星や、渦を巻く銀河まである。もし地球の天文学者がいたら卒倒するような大発見の連続かもしれない。
夜食のマッスル草を齧りながら、そんなことをぼんやりと考えていた。
「そんなに夜空が珍しい? この辺じゃ見慣れた星座しかないと思うけど」
食い入るように空を見上げる私に、レスティアは少し笑っている。
腕力強化にマッスル草を勧めたが味が苦手らしく、代わりに作ったヘルシーな果物のゼリーを齧る。
「ああ。珍しい」
「やっぱアルマって変わってるよ」
「だよな」
でも――、少しだけ地球の星空が懐かしかった。
*おまけ
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【携帯テント】 レア度:特 分類:道具
小さなケースに収納できる高価なテント。
地面に設置すると自動で膨らんで、テントを張る。
最大四人まで中で眠れる。
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