第4章:英雄の存在証明
第117話:束の間の平穏
『なぁ逢魔! 俺達で英雄になろう!』
過去の温もりを覚えている。
俺の大切な仲間達が、差し伸べてくれた手を取ったことを忘れた事なんてない。
大切な、大切な俺の思い出で宝物。冒険するのが楽しかった、仲間と一緒に強くなるのが嬉しかった。弱い俺でも必要としてくれて、支えてくれる皆といるのが幸せだった。
『なぁ逢魔、お前はどんな英雄になりたいんだ?』
俺達のリーダーがそう聞いた。
それに対して俺は、仲間と一緒に乗り越えて誰かを助けられる英雄が良いと答えたんだ。子供の頃からずっと、俺の中にあった英雄像。どうしてかは分からないけど、漠然とそんな英雄に憧れていた。
『いいな、それ。俺も同じだよ。このイリーガルってギルドでさ皆で強くなって、いつか英雄になって――誰かを救うんだ。冒険して夢を追って、誰かのための英雄になりたい』
それが、俺とそいつの過去の夢。
十年前の幼い俺が世界はもっと単純で、乗り越えられない冒険はなくて、努力は報われて、仲間と一緒にいられると思っていた――そんな愚かで無知で馬鹿な妄想だ。
俺は知ったから、この世界は理不尽で、不条理で、どうしようもない絶望に溢れていることを。英雄なんていない、だってそんな者がいたらきっと。
『ごめんな、逢魔――頑張れよ』
俺は、一人になんてならなかったのだから。
――――――
――――
――
誰か記録を見た。
とある男の一端を知った。
多分だが、これは少し前の対抗戦で逢魔さんの原典を見た故の共鳴反応だろう。
他人の秘密を一方的に、それも見てはいけない傷だろう部分を見てしまった俺は……なんとも言えない気持ちで、目を覚ました。
「そういえば、今日の用事……なん、だっけ?」
少し寝惚けながらも、スマホのカレンダーを見て用事を確認すれば……そこにはソルと出かけるという文字が書かれていた。
……きっかけとしては命名式。
あの時にソルは彼女を喚んだ対価として、一日一緒の過ごそうという事を提案してきた。断る理由もないので予定を立てて、あの対抗戦から二日経った今日がその日というわけだ。
「とりあえず十時から都心に行くし、喚ぶかぁ……【サモン】ソル・スコル」
朝起きて顔を洗ったりした後で、俺は朝食前に彼女を喚ぶことにした。
召喚陣から出てきたのは、いつもと違う衣装のソル。
少し透けたブラウスを着た彼女は黒いスカートを穿いており俺からすると珍しい装いだ。新品同様の服ではあるが、これも多分アラクネが作ったんだろう。
「喚ぶの速くないレイマ?」
「いや、一緒に過ごすって言っただろ? 出来るだけ長い方がいいと思ってさ」
「なんでこういう時だけは気が利くんだろ~ね」
「ちゃんと礼したいし、しゃあないだろ」
「ふふレイマらしいね~」
この休日は珍しく家族がいる日なので、少し気合い入れた朝食を作ることにする。
普段は色んな冒険者の取材で写真を撮りに行ってる父さんは疲れているのかまだ寝ているし、母さんも趣味の読書でもしてることだろう。
気合い入れた朝食……の定義はあまり分からないが、こないだテレビでやっていたエッグベネディクトという名前が強そうな料理を選ぶ。
ベーコンは買ってあるし、卵もあるので丁度良いだろう。それに野菜に関してはバアルが栽培している豊穣神産のを使えば良い。
ポーチドエッグなるものを作る必要があり、少し迷ったがなんとか四人分の朝食を作り終え、二人を呼んだ後で席に座る。
「……思ったんだが、霊真の料理技術が上がってないかい?」
「仲間に料理が得意な奴いるからそれで覚えただけだよ」
「息子の成長に喜ぶべきか、遠くなるお前に驚けば良いか……どっちだろうね?」
「何言ってんだよ」
「私の立場ないものねぇ……ソルちゃんは霊真の料理は好きかしら?」
「ずっと好きだよ」
ナイフとフォークで器用に料理を食べるソル。
彼女は一度咀嚼を追えた後で、そんな事を普通に言ってきた。
「あ、照れた。レイマってやっぱりチョロいよね~」
「急にからかうな、マジでびっくりしたから」
「おもしろ~い」
ほんと変わらない……いつも通りのソルの様子に少しだが気が楽になる。
朝見てしまった逢魔さんの記録。本人に何があったか聞けるわけもないし少しモヤついていたが、今は彼女に気を回そう。
「それより、霊真は今日出かけるのよね? 何処行くの?」
「……殆ど決まってないけど、吉祥寺の方でも行こうかってぐらい? 公園でも行こうかと思ってさ。ソルは体動かすの好きだし」
「そこって広いの?」
「まあ広いよな、それに色々運動も出来るし」
「じゃあそこでいいよ~負かしてあげるから覚悟してね~」
「言ってろ、流石に負けたくねぇよ」
朝食を終えて、そのまま俺とソルは電車を使って吉祥寺の方へと向かう。
バスを使って都心に行き、電車に揺られて20分。
ルナも初めて乗る電車にそわそわしていたが、やはり姉妹なのかソルも少し落ち着いた様子ではなかった。
「これ、遅くない?」
「そこかよ……そりゃあ二人に比べたらな」
「ボクに乗れば速いのにね~」
「それこそ過剰だろ、たまにはゆっくりでよくないか?」
「それもそうだけど~」
そして吉祥寺に辿り着き、俺達はそのまま徒歩ですぐ辿り着ける公園に辿り着いたので、その日を一緒に過ごすことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます