第21話 悪魔現る
「わかんないのはアンタだよ……とりあえず、問題の悪魔っていうのがどこにいるのか教えて…!」
顔の火照りを何とか抑えながら、本題へと引き戻そうとする。
「そうだな、おそらく……この近くの公園だな。どういった人物に憑いているのかまではわからない。今伊織と夜空も向かわせているところだから、戦い方を見て学んでほしい」
「…ん、わかった」
そのまま、尊の案内に従い公園まで向かう。
「なんでこう知ってる場所でばっか悪魔が出てくるかなぁ……」
「ここ、知っているのか?」
「近所だから。たまに通りがかるくらいのとこだけど」
雪穂にとってはそこまで馴染みはなかったものの、用事があった時に歩いてたまに見かける程度にはよく知っている場所だった。
澤田の時といい、見慣れた場所が戦場になってしまうということに、雪穂は少し嫌気がさしていた。
公園まで近づくと、雪穂も尊もすぐに異常を理解する。
「どうして!!どうして誰も俺のことを認めないんだよ!!」
スウェットを着た、年齢は30歳を過ぎたくらいであろう口に無精ひげを生やした小汚い男が、公園の遊具を蹴ってはそうして叫んでいたのだ。
蹴られた衝撃なのかいくつか凹んだ跡のある遊具が、見ていて痛々しい。
周囲の人間は引いたのかすっかり遠目で見てはヒソヒソと何かを話していたが、それが余計に男の癇に障ったのか、時々それらを睨みつけては、「うるせぇ!俺を笑うなぁ!!」と追い出していた。
「……うわぁ」
今現在、平日の17時30分。この時間に外に出ているということは、つまりこの男は別に仕事帰りというわけでもなさそうということを、雪穂は察した。
「あまり黙って見ていると男を刺激するだけだ。早いところ近づくぞ」
「…あー、うん。そうだね」
尊が先導し、男の方へと近づいて行く。
「すまないがそこのお方、何が不満なんだ?良ければ教えてはくれないか」
「あぁん!?なんだそこの兄ちゃん!女子高生連れてお散歩とはいいご身分だなぁ!彼女かぁ?彼女ならぶっ殺すしかねぇなぁ!?わざわざモテない俺をあざ笑いに来たのかぁ!?」
「違うが」
まくしたてるように吠える男に対し、尊は真顔で否定する。
「何が違ぇってんだよ!!!」
「全部だ。まず僕がやっているのはお散歩ではないし、女子高生を連れているのはたまたまだ。あと彼女とは別に付き合っていない。それと君をあざ笑う意図はないので安心してほしい」
普段の言葉足らずはどこへやら、尊は事実のみを淡々と男に向かって語った。
「スカしやがってお前ムカつくぜえええええええ!!!」
男の脚が、尊の方へと飛んでいくのを、雪穂は見た。
「危ない!!!」
雪穂がそれに反応して叫ぶも、尊は堂々と男の蹴りを受け止めていた。
「お前には…お前にはわかんねえだろうな……俺の悲しみってやつがよぉ!!」
明らかに血走った目。本人の中では通っているようでいて、その実支離滅裂な言動。
あの時の澤田と同じだ、と雪穂は確信した。
だが、それと違う部分が一つだけある。男は、澤田以上に理性を失っているように見えたのだ。
澤田は理性を失っていたとはいえ、いったんは大人しく授業を受けて見せていたし、周囲の器物を壊したりなどはしていなかった。
だがこの男はなんだ、明らかに理性がなさすぎる。尊の話も、聞こうとする素振りすらないのだ。男の返答は、ただ自分の「悲しみ」とやらを叩きつけているだけだ。
「来い。いくらでも受け止めてやろう。お前の気持ちまではわかってやれないが、せめてお前の心を穏やかにしてやることは出来る」
「テメェ!!!」
男はそのまま、尊の顔を殴りつけようと拳を振るう。
だが、それも尊に阻まれ、男は顔を真っ赤にして尊を睨みつけることしか、出来なかった。
「すごい……これもうあたしいる必要なくない?」
あまりの尊の身体能力の高さに、雪穂は惚れ惚れするばかりだった。
同時に、悪魔と戦うということの難しさを痛感する。もし、あれが自分の方に飛んでいていたら、自分は少なからず怪我をしていただろう。
今無傷でいられるのは、あれが尊の方に飛んで来ていたからだ。もしや、尊が注意を自分に引き付けてくれていたのだろうか?
「(どうする?あたしも加勢するか?いやでも、下手に動いたらそれこそ足手まといなわけで……適当なタイミングで加勢すりゃいいか?)」
男は尊の相手をすることに集中している。その隙を見計らうことが出来れば、かなり楽だろう。
それに相手が理性を失っているということは、つまり自分の方を見る余裕もない。
雪穂はそう考え、儀式具を構えて待機する。
今すべきことは無理やり加勢して尊の足手まといになることじゃない。機を見てわずかな隙をつくことだけだ。
瞬間、公園の遊具が揺れる音がする。
男と尊のいた方向ではない、別の方向からだ。
「危ない!!!」
尊が振り返りながら、叫ぶ。雪穂はそれに半歩遅れて反応し、後ろを振り返る。
反応は間に合わなかった。
「何!?いきなりどうして……」
そのまま何メートルも先まで吹き飛ばされ、公園の滑り台へと激突した。
「……痛ったぁ……!!何すんのよ…!!!」
口の中に残る血の味に不快感を覚えながら、雪穂は目の前にいる自分にぶつかった何かを睨みつける。
その正体は自分より少し年上…おそらく二十歳くらいであろう女性だった。
やけに派手な化粧をしたその女性は、目を血走らせながら雪穂の方を見ている。
「……悪魔憑きはもう1人いたってわけね……」
身体を起き上がらせるが、そのまま少しフラついてしまう。
女はそのまま何も言わず、唸るばかりでそのままそこに立っていた。
「さっき吹っ飛ばした分、同じくらい吹っ飛んでもらおっかなぁ!!」
少し距離を取ってから、儀式具が導くままに女の方へと飛びかかる。雪穂自身も信じられないほどに強く吹き飛び、女の身体が砂場の中へと叩きこまれる。
女の姿が、舞う砂煙の中へと隠れた。
「……やっば、強くやりすぎちゃったかぁ?正当防衛成立する?」
よく目を凝らし、女の方を見ようとする。
砂煙が晴れた先には、倒れ込んだ女の姿があった。
土の色の中に、赤黒い血の色が混ざる。女は血を吐いて倒れていたのだ。
「これ、大丈夫……?」
雪穂は少し焦りを覚え始める。
そもそも、相手は悪魔が憑いているとはいえ生きた人間なのだ。それを相手にする以上、必要以上の怪我を負わせるというのはやはりよろしくない。
儀式具そのものは人間の身体には効かないとはいえ、それでもあれだけ派手に吹っ飛ばしたのだ。怪我くらいはするだろう。
「…とりあえず、動かない間にとどめを……」
女の顔を覗き込むようにして見る。顔色は化粧をしていても青白く見え、下手をすれば本当に死んでいるとも思えるような形相だ。
だが、次の瞬間。急に喉が締まり、息が上手く出来なくなる。
「……んぐっ……何……!?」
女が起き上がり、その腕が、雪穂の首元へと伸び、彼女の首を絞め始めたのだ。
「アナタ、アナタ許さナイ……」
まるで鬼のような形相で、女は雪穂の方を睨みつけていた。
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