第18話 修道院へ
澤田が起こした事件の後、学校は全校集会を行い、午後からの授業は中止となった。
杉本と風子は病院に向かうことになり、雪穂も付き添いに向かったが、命に別状はなく、後遺症も残らなさそうだった。
「…そうだ雪穂」
病院からの帰り道、風子が小さな声で呟き、雪穂の方を見る。
「どしたの?」
「さっき、あたしのこと守ってくれてたんでしょ?」
「…えっ」
もしや自分が悪魔祓いであるということが、風子にバレそうになっているのだろうか。もう冬の足音も近づいているだろうに、雪穂の背中には汗が浮かんでいた。
「どしたの?」
「いやぁ、なんでもないよ。風子こそそういうこと素直に言うなんて、珍しいな~って思って」
少々マズいことになった気がする。
「あたしの親友、傷付けるなんて許さないから!だっけ?カッコ良かったな~~。何であんなことになってるかはわかんないし詮索もしないけどさ」
「……聞かれてんのハズいんですけど」
「なんでよ」
「色々…あたしにも色々あるんだよ!!!」
これ以上のごまかしはダメだ。いや、もういっそ全部言ってしまおうか。しかし、悪魔祓いがどうとか言ってしまったら、それこそ別方向の心配がかからないだろうか。
「まーその…ありがとね。親友って言ってくれたの、めっちゃ嬉しい」
「そ、そう…どういたしまして」
いずれ、自分の秘密は風子に知れ渡ってしまうだろうか。不安を抱えながら、雪穂は風子と別れ、帰路に就くことになった。
時刻は過ぎ夕方。本来学校を出て家に着くであろう時間に雪穂は、部屋のベッドの上に寝そべりながら、思わぬ所に出来た怠惰な休日を過ごしていた。
「こんな風に誰かに戦わされるっていうのが、まず信じられないもんなぁ…」
誰かにこれをやれと言われたらノーを突きつけたくなる反抗期真っただ中の性分である雪穂には、自分が戦いに向かう姿が想像できなかった。
ふと、明日からのクラスの事を考える。
澤田がどうなるかはまだわからないが、おそらくは停学処分になるだろうと言っていた。悪魔の仕業だとはいえ、元々澤田にもこういう事をするような暴力性はあり、完全に彼だけの問題ではなかったのだろう。
それ以上に問題は、あの戦いがどういう形で処理されたのかだ。目撃者は伊織と、意識が朦朧としていた風子だけだ。
澤田と自分が戦ったことが明るみに出てしまえば、自分の処遇も危ないだろう。
そう考えると冷や汗が出てくる雪穂だったが、正直今気にすることでもないし、面倒なので昼寝でもしようかと事を考えていると、スマホにメッセージが来た。
「ん……誰よ」
伊織からだ。
『午後5時から修道院の方に来い』
「……事情くらいわかりやすく説明してから人呼べ!!」
思わぬメッセージに昼寝を邪魔された雪穂は、床に向かってスマホを叩きつけ……は流石にせず、叩きつける仕草だけをすることにした。
「マジで物々しいっていうか、迫力あるっていうか……」
改めて修道院の前まで来てみれば、自分など小さく見えてしまうような大きさだ。おそらく伊織たちの居住空間もここにはあるのだろう。
家であり仕事場であり、そして修道院でもあり。
こんな大きな建物に住めるのは、ちょっとだけ羨ましいと思ってしまった。
ドアを開けば、ドアはギィという音を立てる。建付けが悪いのか、開けるには少々時間がかかってしまった。
そして雪穂が歩を進めると、同時にドアが閉まる。
「ごめんくださーい」
雪穂がそのだだっ広い空間に向かて挨拶をすると、
「こんにちはー。あれ?知らない子がいるな」
「はろはろ~~!何々~?この子もしかして新入り~?」
すると、雪穂よりは少し年上だろう2人の男女が、彼女に向けて挨拶を返してきた。
男性の方は少し疲れた顔で、やや姿勢を傾けているがかなり背が高く、
女性の方は耳にピアスの穴を開け、髪を金髪に染めている。
「…こんにちは。いや、こういう時はおはようだったか?」
すぐ近くには、何やら佇みながら本を読んでいる尊の姿もあった。
「仕事場じゃないんだから適当にこんにちはでいーんだよみこっちゃん。そうだ、そういえば今日お客さん来るって聞いてたけどまさかこの子?」
首を傾げる女性に対し、尊が一瞬雪穂の方へと目線を移すと。
「言われての通り、新入りだ。名前を……なんて言ったか?」
「えっ尊さん覚えてないの!?八坂雪穂。ちなみに今年で16になる高校1年生」
「16ってことは高校生?オレは天道雄介。大学通いながら悪魔祓いしてる。半分アルバイトだからここに来ることは少ないかもしれないけど、もし仕事で一緒になった時はよろしくね」
雪穂の方が名乗ると、男女の方も続けて名乗り始める。
「アタシ?アタシは四ノ宮一華。にしても可愛い子が入ってきて華が増えたなぁ~!同じく、もしお仕事一緒になったらよろしくね。先輩が手取り足取り教えてあげるから」
「よ…よろしく」
雄介の方のいやに爽やかな笑顔もそうだが、一華の方が自分をずっと見て来ているのが、雪穂にとってはなんだか居心地の悪さを感じた。そんなに新入りのことが気になっているのだろうか?
「どうした?なんだか少し居心地が悪そうに見えるが」
「ごめん…伊織くんと尊さん以外に人いるって聞いてなくってさ。それに…この人ちょっとあんまり……」
「ま、一華は誰に対してでも距離近いからな。君、ちょっと人見知りっぽいし、もしかして怖がらせちゃったかもな」
「えっ、アタシに怖いとことかある~?酷いじゃん雄介」
怖いというよりは距離感がいまいち図れないという方が雪穂にとっては正確な表現なのだが、初対面相手にそこまでズバズバと言う程、雪穂は物おじしない人間でもなかった。
「怖いっていうより、何だろうな。ま、あんまりキツくは言わないよ」
「ちょっと!?」
「尊さん、なんか…ここの人って全体的になんていうかその……」
変な人が多い、とまで言いかけて、流石にそれは失礼だろうと言葉を引っ込めて。
「個性的な人が多いね?」
何とか言葉を濁したが、言った後にこれは濁しきれてないなと後悔する。
「僕は個性を出そうとしているつもりはないんだが」
「……いやもうその言動が癖しかないんだけど」
相変わらずのよくわからない反応に、雪穂は首を傾げるしかなかった。
「そういえば伊織くんはどこ?あたし今日あいつに呼ばれてきたんだけど……」
「多分今部屋にいるんじゃないかな~?集合時間より早い時間だし。アタシが呼んでこよっか?」
「あー、お願いしますー」
妙に近い距離で話してくる一華には少し困惑しながらも、雪穂はそのまま、伊織の到着を待つことにした。
まだまだ自分には平穏と退屈は訪れないだろうと、この物々しい建物の中で、雪穂はすっかり臨戦態勢のようになっていた。
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