【No.047】いつか、君を守れるように
【メインCP:男29.
【サブキャラクター:男5. ブレード・グランドゥール、女6.
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「
夕陽差す体育館裏でのベタな告白模様。緊張に声を震わせながらも男らしく言い切ったのは、がっちり引き締まった体つきの長身の男子生徒。
「
かたや、表情ひとつ変えず青い瞳でクールに彼を見返すのは、すらりとしたモデル体型に金髪のお団子ヘアの美少女。逆光を背負ったその佇まいはどこか超然とした余裕を湛え、神々しささえ感じさせるものだった。
その輝きにこそ、彼は恋してしまったのだ。
「廊下で君とすれ違った瞬間、なんか分かんないけどビビっと来ちまったんだ。こ、これが一目惚れってやつなのか!?」
直後、ああ何を言ってるんだ俺は――と余計にテンパる彼だったが、美少女はむしろ今の答えに興味を持った様子で、「へえ……」と口元に指を当てて彼の瞳を見つめてくる。
「君は……いや失礼、先輩は、見えるんですね?」
「なっ、何が」
「いいですよ。お試しで良ければ付き合ってみましょう。条件は二つ。デートのたびに甘いものを一緒に食べることと――」
まさかのOKの返事に、心臓が止まらんばかりに驚く彼の前で、天下ミヤネは微かに楽しそうな笑みを浮かべて告げた。
「どうも敬語というのが面倒なので、楽に話してもいいかな?」
「……あ、ああ、本当にいいんだ!? よっしゃああ!!」
三沢
◆ ◆ ◆
話は少し前に遡る。
ある日突然魔法の才能に開花したことで、晴太の人生は一変した。高校に通いながら、社会から秘匿された魔法訓練校で正義の魔法使いを目指して修練に励む――そんな二足の
高校の下級生の天下ミヤネ。文武両道のクールビューティで、高嶺の花すぎて多くの生徒が告白にも踏み切れないとか。そんな噂を知る頃には、もう彼の意識は寝ても覚めても彼女で一杯だった。
晴太とて決してモテない訳ではない。大会で結果を出すたび、名前も知らない後輩から告白されることも珍しくなかったが――
それでも、自分のようなゴリラ男に、あんな美少女が興味を持ってくれるはずがない。そう思いながらも諦めきれない気持ちを抱え続けた、そんな矢先だった。
『ブレードさんは凄いっすね、俺と歳は変わらないのに』
訓練校の客員教官を務める異世界の騎士に剣の稽古を付けてもらった後、タオル片手にスポーツドリンクを飲み干しながら、何気ない身の上話に興じていた時である。
『いやいや、俺からすると、魔法を使える君達の方が凄いと思うぞ。俺は魔法が当たり前にある世界に居ながら、そっちの方面はからっきしだったからな』
『そんな、俺のは急に使えるようになっただけっすから……。早く一人前の魔法使いになって、
憧れの
『ハレタには恋人は居るのか?』
『っ!? いないっすよ、そんな! 何スか、いきなり』
ドリンクを吹き出しそうになりながら晴太が否定すると、ブレードは真面目な表情を保ったまま続ける。
『いや……俺にも最近、守りたい人が出来たからな。君にもそういう相手が出来れば、男として一段強くなれると思ってな』
『そういうもんっすか』
『気になる相手くらいは居そうな顔だな?』
『なんっすか、グイグイ来ますね! ……まあ、そうっすね、居ないこともないって言うか』
凛とした花のような彼女の佇まいを思い出し、頬を紅潮させる晴太の肩に、ブレードが力強く片手を載せてくる。
『まずは男らしく告白だな。戦士たるもの、攻めの姿勢が大事だぞ』
『……っす』
この人、自分が付き合い始めたのを
そんな薫陶を経ての、天下ミヤネへの一世一代の告白であった。
◆ ◆ ◆
そうして今、関係の成立から一時間足らずで、ミヤネの行きつけのフルーツパーラーで早速の初デートと相成った二人である。
「うぅん、染み渡る甘味……。まさに
「ああ、そ、そうだね……」
二人席で憧れの天使と向き合っている夢のような状況に、味など微塵も入ってこない。これならプレーンシュガーのドーナツくらいの方が良かったな……などと思う晴太と対照的に、ミヤネは具材たっぷりのパフェに舌鼓を打ちつつ、マイペースに言葉を並べてくる。
「そういえば、これからは何と呼んだらいいかな。やっぱり体育会系としては『先輩』呼びは外せない? 僕、いや私はね、この世に生まれ落ちる一年か二年かの僅かな誤差で、先輩やら敬語やらの
「ああ、なら、『さん』でも『くん』でも……好きに呼んでくれたら」
「じゃあ、晴太君」
「いきなり!?」
「念願のデートだよ。肩肘張らずに楽しみなよ」
そう言ってスプーンを口に運び、「うぅん美味しい」と笑みを零すミヤネ。その眩しいばかりの可憐さに、晴太がいっそう体を硬直させた、その時。
――突如、外で凄まじい爆発音と共に、人々の悲鳴が沸き起こった。
「!?」
「おや、何かあったかな」
鷹揚に振り向くミヤネと対照的に、晴太は居ても立っても居られず席を立ち、音のした方へ人波と逆に駆け出す。
ビル街から立ち上る炎と煙、夕暮れの空を覆う不気味な暗雲。
そして彼は見た。宙空に開いた暗黒の渦から、蛸を思わせる異形の魔物が無数の触手を伸ばし、地上の人々を捕らえて闇に引き込もうとする様を。
「あれはっ!?」
目を見張る彼の肩を、いつの間にか追いついていたミヤネが軽く小突いてきた。
「正義感に駆られて飛び出すのはいいけど、会計を忘れてもらったら困るよ。次回は君が奢ってね」
「わ、悪いっ……! それより、あれ……!」
ぎこちなく彼女を庇いながら、晴太は天上の魔物を見上げる。
触手に捕らわれ飲み込まれる人々の叫声、彼方から反響する無数のサイレン音。
「み、ミヤネさんは逃げてくれっ」
「君はどうするの?」
こんな時にも動じる様子を見せないミヤネに、晴太は「俺はっ……!」と言い淀む。
訓練生が独断で実戦に参加なんかしたら大目玉だ。それでも、街の人々を、それに大事な彼女を守るためなら――
彼が拳を握り締め、覚悟を決めようとしたとき、
「マリアンスマイル!
弾むような詠唱に乗せて天上に
「藤ヶ谷先輩!」
「へぇ、魔法少女か」
黒とピンクの衣装を纏った現役魔法少女が、紫電の速さで暗雲の下を飛び回り、触手に捕らわれた人々を救出していく。だが。
「……危ない」
ミヤネが呟いた瞬間、魔法少女の背後から回り込んだ敵の触手が、瞬く間にその四肢を縛り上げ、宙空に
「先輩っ!」
囚われの魔法少女は、晴太達を一瞥するや声を張る。
「三沢君! 何してんの、
「俺も戦います! 先輩の、街の皆のピンチを黙って見てられねえ!」
数多の特撮ヒーロー達の勇姿を思い返し、後先など考えず飛び出そうとする彼だったが。
すっと腕を伸ばして止めてきたのは、誰あろうミヤネだった。
「やめなよ、君の魔力じゃまだ早い」
「っ!?」
魔法のことは彼女に話していない筈なのに、どうして――
「三沢君っ、その子、なに!?」
先輩の目が驚きに見開かれる頃には、ミヤネの背後から、天にも届かんばかりの勢いで噴き上がるオーラの波が晴太にもはっきりと見えた。
「き、君は!?」
「やれやれ、こうなったら手を貸さない訳にもいかないか。人間界は人間の手で守るべきだと思うけど……僕も今はこの世界の住人だからね」
ふっとクールな微笑を浮かべた次の瞬間、その姿はもう彼の眼前になかった。
黄金の髪が解け、天使の翼を思わせる残影を引く。つられて見上げた視界の先に映るのは、どこからともなく出現した大槍を目にも止まらぬ速さで振るい、迎撃の触手を切り払っていく彼女の姿。
【キサマァ、何者ダ!?】
「
恐ろしいほどゾクリとくる笑みと共に、鋭い眼光が魔物を
【馬鹿ナ、天界ノ守護天使ガ何故下界ニ――】
「だから
そして、天地を染め上げる光の
「
「冴島先輩……すみません、情けないとこ見せちゃって」
駆けつけた元魔法少女が現役を介抱するのを横目に、晴太も当惑と混乱を必死に飲み込んで、まずは街の人々の救護に走ろうとしたが、
「いいから。君は彼女の話を聞いてあげるべきだわ」
穏やかな口調で彼を押し留めたのは、キャリアウーマン然としたスーツ姿の女性だった。
彼女は地上に降り立ったミヤネに目を向けると、胸の前で小さく手を合わせる。
「ごめんなさいね、ウチの同胞の残滓が悪さをしたようで……貴女にも面倒をかけてしまったわね」
「謝ることないよ。貴女が暴れたわけじゃないだろう」
「それもそうね。……人間との恋は楽しいわよ。貴女も満喫なさってね」
にこやかに笑い手を振って去っていく女性に、小さく頷くミヤネ。
何が何だか分からないことの連続だったが、それでも晴太はミヤネと向き合った。
「驚いたろう? 今のが僕、いや私の正体さ。君は魔法に目覚めたことで、この現世受肉体を通して天使の力の片鱗を見た――だから私に興味を示してくれたんだろうね」
「そうじゃない! 一目惚れでも何でも、俺は君自身を好きになったんだ……そう信じたい」
「そう言う割には、自信が揺らいでそうに見えるけど」
心の奥まで見透かしてくるような彼女の視線に、晴太は図星を突かれたようでドキリとした。
無理もない。一人前の魔法使いになれたとしても。たった今目の当たりにした彼女の真の姿は、到底、自分が守るなどという次元では――
「……それでも、俺は」
それでも。彼女の美しい瞳から、目を逸らしたくはなかった。
「君を守れる自分に、いつかなりたい」
割れそうに高鳴る心臓を押さえて言い切った彼の言葉に、ミヤネは口元を
「頑張ってみたら。君が死ぬまでくらいなら付き合ってあげるから」
超然とした、しかし彼の心意気をまっすぐ受け止めたような答えに続いて、そっと手を差し出してきたのだった。
ちなみに、その後の会話。
「2000歳!? じゃあ、君、いや、天下さんの方が歳上じゃないっすか!」
「いや、この体が受肉したのは君の誕生より後だから……」
「先輩と呼ばせてもらっても!?」
「そういうノリ馴染めないって言っただろ!? タメ口じゃないと付き合ってあげないよ」
喜びと決意を噛み締めながら、晴太は「はい!」と言いかけて、慌てて「うん」と頷き直した。
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【本文の文字数:4,500字】
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