【No.038】I (don't) kill you baby 絹傘秋水×酒々井綾乃

【メインCP:男16. 絹傘きぬがさ 秋水しゅうすい、女19. 酒々井しすい 綾乃あやの

【サブキャラクター:男9. 加賀かが 可惜あたら

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 ある日綾乃がお紅茶を嗜んでいると、使用人の一人が「お嬢様、文が届いております」と手紙を持ってきた。どれどれと開けてみると、手紙には一言『殺します』と書かれていた。





「あなたがお父様の呼んだボディガード?」

「セバスチャンとお呼びくださいませ」

 にっこり笑ったボディガードは執事服を着ている。

「いいわね、その恰好。木を隠すなら森にと言いますし、他の使用人と混ざっても違和感がありませんわ」

「? 私は執事でございますが」

「すでに意気込みは十分のようね」

 早速綾乃は届いた手紙を見せる。セバスチャンは「ふむふむ」とそれを見て首をかしげた。

「なんというか、アレでございますね」

「そうよね、アホよね」

 ため息をつきながら綾乃は「悪戯でしょうけれど、しばらくは護衛をお願いしますわ」と頼む。セバスチャンは「もちろんでございます」と恭しく頭を下げた。





 そして現在、車から降りたところでセバスチャンに頭を押さえつけられ、陰に逃げ込んだところだった。

「お嬢様、狙撃されております」

「もっと緊張感を出してくださる?」

 セバスチャンは懐から黒光りする銃を出して構えた。


「……あなた、公的機関とかじゃなくて民間のボディガードでしたわよね? どうして銃を?」

「執事ですので」

「私、庶民の方よりは執事というものを知っているつもりでしたけど、執事であれば銃の携帯を認められるという法律は存じ上げなくてよ」

「? 仰っている意味がよく……」

「わたくしがおかしい? もしかして」


 セバスチャンは車体から顔を出して平然と撃ち合い始めた。その横で膝を抱えながら、綾乃は虚無を感じる。

 やがて真上から何か大きな音が聞こえ、車の上から人が飛び降りてきた。


「埒が明かないから来ました。いいボディガードを雇ってますね」

「あ……あなたが手紙を寄越してきた犯人!?」

「……すみません、手紙とかは知らないです」

「嘘おっしゃい!」


 青年は「いや本当に知らないです。普通これから殺す相手にコンタクトとらないですよね、警戒されるだけだし」と至極真っ当なことを言ってのけた。

「ああでも、俺の依頼人かもしれないです。なんか、『直々に挨拶してやるぜ』みたいなこと言ってたので」

「そうだとしたらそんなアホの依頼受けるのやめたら?」

 そんなことを話していると、セバスチャンが「せっかくですが生憎の雨でございます。このままではお嬢様が風邪をひいてしまわれますし、本日はこれにて」と言いながら綾乃を抱えたまま、車に乗りこむ。

 それからすぐセバスチャンはシフトレバーをバックギアに入れ、アクセルを踏んだ。ハッとした青年が思わず避ける。「ちょっと、怪我させたらどうするんですの」と綾乃は憤慨した。


 青年はそれ以上追いかけては来ない。

 そのまま全速力で屋敷に逆戻りだ。






 学校に通うのはしばらく難しいと思っていたが、そんな思いとは裏腹に青年は一向に現れない。不思議に思いながらも、綾乃は普段通りの生活を送っていた。


 あれ以降危険なことはないし、綾乃はなんだかすっかり気が抜けてしまって鼻歌まじりにシャワーを浴びていた。

 その日は、数日ぶりの雨が降っていた。


 ふと、顔を上げる。

 立ち込めるミストでよく見えないが、何か黒い影が見えた。じっと見つめると、そこには例の青年が立っていた。


「…………ねえ、それはちょっとレギュレーション違反じゃなくて? 乙女が全裸の時に現れるのは」

「そんなこと恥じらうくらいなら、こんな外から丸見えの風呂に入らないでしょ」

「オーシャンビューなだけで丸見えてませんけど?? 一体どこから入ってらしたの」

「通気口的なとこから」

「大変なお仕事ですわねえ」


 ため息をつきながら綾乃は「全裸で死にたくないんですの。せめて服を着るまで待ってくださる?」とダメ元で訴えてみる。意外にも青年は「……いいですよ」と言った。

 綾乃は堂々と青年の前を横切り、脱衣所でタオルを手に取る。

 青年は銃を向けながらも綾乃から視線を外していた。じっと外を見て顔をしかめている。


「あなた、もしかして雨が嫌いなんですの?」

「……どうしてですか」

「前に現れた時も、雨の日だったし」

「それなら普通、『雨が好きなの?』って訊くと思うんですけど」

「じゃあ、好きなの?」


 青年は黙り込む。

 服を着終えた綾乃は、新しいタオルを手に取って青年の頭に被せた。青年が「っ、ふざけたことを……」と払いのけようとするのを宥めるように囁く。


「あなたの雨も、いつか止むといいですわね」


 青年は一瞬だけぼうっとした様子だったが、すぐに銃を構え直した。

「他に言い残すことはないですか?」

「こんなとこで死ぬなんて……トホホですわ……」

 しばらく、沈黙が辺りを包んだ。青年はじっと綾乃を見つめ、何か葛藤している様子で引き金に指をかけている。


 不意に浴室のドアが開いた。


「お嬢様! 何かございましたでしょうか!」

「セバスチャンっ!」


 舌打ちした青年がガラスを蹴破って逃げていく。綾乃は思わず「そんなとこから出ていかなくたって帰るだけなら玄関を使えばいいのに!」と言いながらそれを見送った。


「ははーん……もしかして私、お邪魔でございましたか?」

「何言ってんですの。あとちょっとで殺されるところでしたわよ」


 そう言いながらも綾乃は、「あの方、落ちて怪我なんかしてないでしょうね?」と割れた窓から下を覗き込んだ。





 殺し屋の青年こと秋水は、屋根の上でため息をつく。「タオル持ってきちゃったな」と目線を落とした。

 それからぎゅっとタオルを握りしめ、

「……さよなら、変なお嬢様」と呟いた。





 しかしその数日後、秋水は銃を片手に綾乃を庇いながら見えない敵相手に応戦していた。

「あーもう、君と関わらないようにしようって決めたのになんでまた君は狙われてるんですか?」

「んなこと私が聞きたいですわ〜!! というかなんで助けてくださってるのかしら」

「報酬を横取りされたくないからですよ。これが終わったら殺します、君を」

「どちらにしても死ぬんですの!!」

 綾乃はそう嘆きながら「でも今死なないことが大事ですわ。よろしくお願いしますわね」と秋水の腕を掴んでくる。したたかなお嬢様だな、と思いながら秋水は肩を竦めた。



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【本文の文字数:2,487字】

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