9月27日 公開分
【No.017】いざ生きめやも――作家・弱竹輝夜 愛猫週間に寄せてのインタビュー(原文)
【メインCP:男11.
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山奥までようこそのお運び、誠にありがとうございます。
本日は
ほうら、
魂なんて抜かれませんよ。
ええ、わたくしが作家になって少ししてからのお迎えですから、三年ほどのお付き合いになるでしょうか。
名前は
ほら、尾の先が二つに分かれて見えるでしょう。
古来、猫は
今は長生きの猫さんも多いですから、もう少し
この子は明治の頃から生きているそうですので、もう立派な妖怪
すこぅし、昔話をいたしましょうか。
わたくしの最も古い記憶は、今より千年ほど昔、やはり
もっとも、すべてを覚えているわけではございません。
今申しましたのも、本当にわたくし自身の記憶なのか、いずれかの人生で幼き頃に触れた
どれほど身を焦がすような恋をしても、わたくしには、その方と最後まで添い遂げることは叶わぬ
天からの罰なのでしょうか、わたくしは
ふふ、そうでしょうね。読者様から不謹慎と思われてしまいますものね。
どのみち誌面に載ることがないのでしたら、いっそうのこと赤裸々に。
わたくしが最後に死んだ時のお話をお聞かせしましょう。
その
折しも大東亜戦争の只中、文学への風当たりは強い時代でしたけれども、谷崎先生や太宰先生をはじめ多くの作家様方がそうした中でも筆を執られ、名作を生み出しておられました。
お恥ずかしながら、わたくしも洋半紙に物語など書きつけては、空想の世界に浸っておりましたが……
時勢もさることながら、なにぶん厳しい家でございましたので、女が文学などに
文壇への憧れは、胸の内に仕舞っておくしかありませんでした。
そのうちに戦局は悪化の一途を辿り、街では出征する方々を送る万歳三唱を聞かない日はなく……
戦時体制で東京府も東京都に変わり、わたくし達も授業など返上で、木刀や
そうした日々の中で、わたくしの心の友となってくれたのは、近所に住み着いていた猫さんだけでした。
竹から生まれ月に帰ったなどと自称するわたくしに、喋る猫さんを不気味がる感覚はございません。
猫さんは古今東西の文学にも明るくて、帳面に綴ったわたくしの小説に目を通すたび、戦争が終わったら作家にでもなればよいと励ましてくれました。
『この戦争が終わるということがあるでしょうか』
『日清、日露、先の大戦。終わらなかった戦争というものはない』
疎開もままならない中、学校でも防空壕を掘らされ、皆して
それでも、当時のわたくしは、どこか自分の命というものを軽く捉えていました。
なにしろ、
そんなことを
その意味では、なよ竹のかぐや姫と呼ばれた時分から、わたくしは一度も本気で生きたことがなかったのかもしれません。
人生の幕引きは呆気ないものでした。
幾度目かの東京空襲の夜、わたくしの街も遂に戦火に飲まれたのです。
崩れた柱と瓦礫に体を挟まれ、いよいよこれまでかと目を閉じかけたわたくしの前に、あの猫さんが現れました。
『お迎えですか?』
『今ほど
いいのです、それより貴方こそ逃げてください、と促すわたくしに、猫さんは天を仰いで言われました。
『世が世なら女の
口腔を
『
すると、猫さんは安堵するように笑ったのです。
『ならば、吾輩もそれまで生きていよう。幾星霜か先の未来、平和な世に君の文才が花開くのを見せておくれ』
優しい
『
『ええ。
そうして、わたくしは再び時の
思えば初めて目にする、飢えも戦乱もない平和な世界です。
幸い、世間様にも顔と名前を知って頂けるようになりました。
博識で文学好きな化猫さんの目にも留まるほどに。
それがこの
今は
わたくしは今後も、人間の殿方と恋に落ちることはないでしょう。
人間同士で連れ合いを見つけろと叱られますけども、今のわたくしには、彼と同じ時を生きられることが
この体が何歳まで生きられるものか、神ならぬわたくしには知る由もございませんが。
今度こそ、与えられたこの人生を文字通り懸命に走りきりたいと、今はそう思っているのです。
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【本文の文字数:2,500字】
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