【No.015】好きなもん着る同盟(加賀可惜/如月華子)
【メインCP:男9.
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郵便受けをまさぐり、真っ白な封筒を取り出す。華子は思わず「げえっ……」と口に出していた。封筒には宛名がない。
案の定と言うか、中に入っていた手紙は華子への恋慕を伝えるものだった。
「くそぉ……毎日頑張って男が寄り付かないようにメイクしてるってのに、何の意味もないわけ?」
ため息をつきながら、スマホを片手に防犯グッズを漁る。
女性でも扱える防犯グッズを調べていると、不意に検索結果に妙なものが混じった。
それはどこかの警備会社の広告だった。派遣式ボディガードをやっているらしい。
「あんまり高くないなぁ。こういうのもあるんだ」
もしかして防犯グッズを一揃えするより安いのでは? と思わされる価格帯だった。
腕組みをし、「うーん」と唸った。
「まあカカシぐらいの役には立つかもな……安いし」
そう呟いて、華子はその警備会社に電話をかけた。
「ご用命いただき誠にありがとうございます」
翌日には玄関の前に立っていたその男は、なぜか執事のような恰好をしていた。
「私めのことはセバスチャンとお呼びくださいませ。あなた様の忠実な執事でございます」
「ボディガードじゃなくて?」
「ボディガードもいたします」
「いや、“も”じゃなくてボディガード“を”してほしいんだけど」
変なの来ちゃったな、と華子は内心後悔する。あれだけ安いのには何かワケがあるだろうとは思っていたが、まさかこんなコスプレ男が来るとは。
セバスチャンと名乗る男は、家に上がってすぐ「お湯をお借りしますね」と言ってキッチンに入っていった。呆然としている華子と両親の目の前に紅茶とケーキを用意する。
「執事たるもの、まずはお茶を淹れさせていただき腕を認めていただかなくては」
「いや、あんたに期待してる“腕”ってこれじゃないんだけど」
華子は呆れながらも話を進めようとする。
「これがうちの郵便受けに入っていたの。宛先がないから、直接入れたんだと思う」
「ほう……これはこれは」
ご不安だったでしょう、と男は言った。
「ご安心ください。私めが必ずお嬢様をお守りいたします」
「お、お嬢様?」
顎に手を当てたセバスチャンは、「まずは一つ、やっておくべきことがございます」と言い出す。
「変質者に家を知られているとなれば、家の中に盗聴器や隠しカメラを仕掛けられていないか確認する必要がございます。失礼ながらお部屋を少し検めさせていただいても?」
30分ほど部屋を調べたセバスチャンが、「盗聴器の類は仕掛けられておりませんでした。安心してお休みください」と言う。華子は心の底から安堵して、つい「ありがとう、助かる」と言っていた。
「ところでお嬢様、お洋服がたくさんございますね。今お召しになっているものも大変素敵でございます」
「ああ、これはアレよ。男避け。普通のかっこしてると舐められて、よく追いかけまわされるから」
「左様でございましたか」
では、とセバスチャンが服を一着差し出してくる。
「他と毛色の違うこのお洋服こそ、お嬢様が本当の意味でお召しになりたいものなのでは?」
「ちょっ……人のもん勝手に引っ張り出すな!」
お嬢様、とセバスチャンは宥めるように言って洋服の皺を伸ばした。
「私も多少は腕に覚えがございます。私がいるうちは、お好きな格好をなさってもよいのではないでしょうか」
「……着ろってこと? その服」
「いいえ、お嬢様。お心のままになさいませ」
ムッとしながらも華子は顔を赤くし、セバスチャンから洋服を受け取った。
普段からすると“地味”とすら思える恰好をした華子に、隣に立つセバスチャンが「よくお似合いでございます、お嬢様」と日傘をさしてくれている。
「こういやこの服、高かったのよね」
「左様でございましたか」
「やーっと外で着れた」
「それはようございました」
着たいなら着ればよかったけど、やっぱりちょっと勇気が足りなかった。男に絡まれるかもしれないこともそうだし、自分自身で上書きした“わたしらしさ”に縛られていた。
華子は思わずくすっと笑って、「あんたは変だけど話しやすいね。男なのに」と軽い気持ちで言った。
すると誰かからいきなり「華子!!」と声をかけられた。
恐る恐る振り向くと、男が大股で近づいてくるところだった。その顔には見覚えがある。子供の頃はよく相手をしてもらった近所のおじさんだ。
「華子! その男はなんだ!」
「な、何って……この人、ボディガードだけど」
「ボディガードだと? そんなもの要らん! 俺がお前を守ってやる!」
「何言ってんのおじさん。ここ何年も挨拶ぐらいしかしてないのに、そんないきなり……」
ふとセバスチャンが、「あの手紙にも『お前のことは俺が守ってやる』と書かれておりましたね」と耳打ちしてくる。華子ははっとし、だが半信半疑で「まさかおじさんがあの手紙を書いたの……?」と尋ねてみた。おじさんは満足そうに「なんだちゃんと読んでいたのか。愛してるぞ、華子」と言ってきた。
「え、きも……」
「おキモくあらせられますね」
「なんだそのふざけた男は!!」
困った……。セバスチャンとか名乗っている男がふざけた男であることは否定できない……。
「その服だってなんだ! 男の趣味か?」
「はぁ?」
華子はムッとする。「あのねえ、おじさん」と言いながら段々怒りが増してきた。
「どの男の趣味でもないっつうの! 本当のわたしを何も知らないくせに、何が“愛してる”だバーカ!!」
引っ込みがつかないのか、おじさんは「うおお」と叫びながらこちらに向かってきた。やれやれという風にセバスチャンが組み伏せる。おじさんは最後には「俺の華子だったのにぃ」と泣いていた。
家から出てきた華子を見て、セバスチャンが「おや」と楽しそうな顔をした。
「本日はまた可愛らしい」
「まあ、ね」
華子はきゅるきゅるのツインテールをなびかせる。この日の格好はいわゆる地雷系というやつで、華子がいつも男避けのためにしていた格好だった。
「一周回ってこの格好もわたしだよなと思って。いつの間にか結構気に入ってたっていうか」
「お似合いでございますよ」
歩き出すと、セバスチャンはまた日傘をさしてくれた。「今日はこの前のお礼なんだから、あんたはお茶とか淹れないでよね」と華子は笑った。
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【本文の文字数:2,500字】
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