本当はあなたを愛してました

涙乃(るの)

第1話 誤解

「別れよう。リナ」


特別に話し合いの為に使用を許可された応接室で、私はルーカスとソファーに座り向き合っている。


「どうして…?」



私は何も悪いことをしていないのに、突然別れを切り出されるという現実が信じられないでいる。

 ルーカスは何か誤解しているだけ。

だから謝ったらきっと許してもらえるはず。また元通り、私達は恋人に…



「リナ、君を信じられないんだ…

僕は、浮気は許せないんだ。もう無理だよ。」



ルーカスは私と一切目を合わすことはなかった。いつもの柔らかい雰囲気のルーカスはそこにはいない。私を軽蔑視したまるで汚いものでも見るように、嫌悪感を剥き出しにしていた。




「ルーカス…私は浮気なんてしてないわ。私はルーカスのことが…」



「止めてくれ!もう僕の名前を呼ばないでくれ。浮気してない?

じゃあ昨日の昼は誰と一緒にいた?

3日前は?エミリオと一緒にいただろ、違うのか?」



「一緒に…いたわ。でもそれはただ食事をしたりしてただけよ。浮気なんて誤解だわ」



ルーカスに問われたその日は私はたしかにエミリオと一緒にいた。でもそれはルーカスの思っているような関係じゃない、ただの誤解なのに



「僕の気持ちが分かる?

リナが…エミリオと楽しそうにいる所を何度も見かけたよ。

これからはただの従業員同士として、やっていこう」


「待ってルーカス」


ルーカスは最後まで目を合わすことはなかった。振り向きもせずに言いたい事だけ言うと、去って行った。



私達の関係はこんな事で壊れる関係だったの…?


今までずっと一緒にどんな時も乗り越えてきたじゃない。楽しいことも辛いことも一番にお互いに話してた。これからもずっとずっと続くものだと思ってたのに。




私とルーカスは家が近いこともあり、小さい頃から何かと一緒にいることが多かった。

ルーカスの父は、男爵家が経営する街で大きな商会の支店の運営を任されており、ルーカスは父の手伝いをしている。

 私の父はその商会の従業員だ。小さい頃から父にお昼ご飯を届けたり、忘れ物を届けたりしていたので、従業員の方とは小さい頃から顔見知りだ。

 

ルーカスと私は学園も同じで、卒業してからはルーカスは父の後継者としての勉強の為に、私は慣れ親しんだ所で働きたかったので、従業員として働かせていただいている。


私とルーカスは明確に婚約はしていないが、いずれは結婚するだろうとお互いに思っていた。

今までは…



私達のことはあっという間に広まっていた。皆が知っている公認の仲であったことが災いした。ギクシャクした雰囲気から

もしかして別れたのかと詮索する者がいたり、噂好きの女性から問いかけられたり。


ルーカスは平民だが容姿が整っていたので、私を疎む者がこれ幸いと噂を流したのだと思う。


私を取り巻く環境は一変した。浮気をした者として孤立していった。

突然父は地方の支店へと異動が決まった。どんなに孤立していても、何も聞かずに守ってくれた父の存在が救いだった。だがもう父もいない。出発する直前まで父はずっと私の事を気にかけていた。


辞めることも考えたけど、私は商会と終身雇用契約を結んでおり、違約金が払えない為辞めることもできない。

そもそも、なぜ終身雇用契約など結んだのかというと、そちらの方が待遇が良かったのと、ルーカスといずれは一緒になると思っていたから。



今更後悔しても遅いけど。


それでも心を無にして過ごすしかないと思っていた。


サラお嬢様がくるまでは。

そうこの商会はゴーデル男爵家が経営している一部だ。ルーカスの父は男爵家から運営を任されている。サラお嬢様は視察と称して商会に滞在することが増えていった。


誰の目から見ても明らかにルーカスに会いに来るために。

ルーカスは優しい。そう誰に対しても…

私は毎日ルーカスとサラお嬢様が一緒にいる所を見るはめになった。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る