第7話

あれは、旦那様が18歳を迎えた時でした。


旦那様のご両親が不慮の事故でお亡くなりになられ、旦那様が後を継ぐことになりました。


その際国から結婚するよう通達されました。辺境は要であり、次の後継者を育てる必要もあると。


旦那様は整った容姿でしたので、惚れ込まれる方も多く、それはこの国の王女様も例外ではありませんでした。


 四番目のメリッサ王女様が旦那様にご執心で、当時の陛下が許可を出し、メリッサ様がキャンベル家に降嫁されたのです。


しかし、旦那様はメリッサ様のことが苦手なようでした。


ご夫婦の触れ合いもなく拒絶しておられました。


そんな時、メリッサ様が…


自害なさったのです」



「そんな…」


「王族の方は特別な魔法をご存知のようですな。呪術の類いを。

旦那様はメリッサ様に呪いをかけられたとおっしゃっていました。


いなくなる時に何か言われたと。


それ以来旦那様は眠れなくなりました


それだけではなく、止まったままなのです。」



「全く眠れないのですか?」


「はい。もうずっと」



あの時お会いした時は、やつれた風には見えなかった。むしろ獰猛な…


それ以上思い出すのは嫌で私は考えることを放棄した


「不眠なのに隈などないと思われたのでしょう?」


私が不思議に思っていることをマクスは察して答えてくれる


「あらゆるものが止まったままということです。メリッサ様は旦那さまの容姿を大層お気に召されていました。それで決して美貌が損なわれることがないように、止まっているのです。」


「止まっている…?」


「はい。18歳のまま。」


「もしかして不老不死…なのですか?」


そんな非現実的な魔法が存在するだろうか。



「不死…かそうかは分かりませんが、不老ではあります。エリー様、旦那様は陛下とはご学友でして同じ年なのです」


「え?陛下と…?」


正確な年齢は存じ上げないけれど、確か50代くらいではなかったかしら。


「旦那様は52歳なのです。」


「えーーーーーーーーーーーー!」


いけない。魔力が安定してから、性格も変化しつつあるような気がするわ。

 

 お淑やかな口調を気をつけなければ…


「驚かれるのも当然でしょう。

旦那様は最初こそ損なわない若さを良いことに派手に遊んでおられました。けれども、眠れないことは確実に身体に負荷を与え、多大なストレスとなり、発作のような苦痛が襲いかかるようになりました。


呪いをとく解く方法は、コレしかないと


…純潔を奪うことだと…


しかし、一向に呪いが解ける兆しがないもので、その…ついには…


オホン。



マクスは歯切れが悪くなり、口を噤む。

少しの間の後に意を決して話し出す



「古い人間でして、そういった方面の事に疎いので何と申したらよいのか…


旦那様は男性使用人を襲うようにもなりまして。」





襲うということは…一方的に…



それこそ呪いを解くために仕方ないことだと開きなおっておりまして。



魔石の鉱山も所有しておりまして、財源は潤沢ですので、後腐れないように社交の場でも…



しかし、使用人からしてはいつ自分が襲われるのか気が気じゃありません。



いくら慰謝料と称してお金をもらったとしても、決して傷は癒えないでしょう



一斉に皆仕事を放棄して逃げ出して行きました。


ここに今残っているのは、私と、厨房の料理人くらいです。




「料理人の方は襲われる心配はないのですか?」




「あぁ彼は、鍛えておりますし、旦那様が子供の頃はつまみ食いやいたずらをした時に叱っておりました


フォフォ



さすがにそういう気にはならないようでして。」




「子供の頃からということは、料理人の方もかなりの高齢になっているのでしょうね」


「実は…


使用人が一斉に辞めた時に、私共が旦那様のお部屋に向かった時でした。


旦那様のお隣の部屋、メリッサ様がお使いになられていたお部屋です。その部屋の扉から光が漏れていました。私共は、旦那様がいらっしゃると思い、とびらを開けたのです。


物凄い閃光に瞼を閉じたことまでは覚えています。


気がついたら、私達は倒れておりました。



その日以来34年経ちます。」


え?34年?もしかしてマクスも…



「私共もその日以来止まったままです。

私達は眠れますし、むしろ元気になった気がします。」


信じられない話に絶句する。


「旦那様はどうして呪いを解く方法がそういったことだと…?」


「メリッサ様から呪いについて言われたようなのですが詳しくは分かりかねます。

 旦那様は…恐らく思考もあの時に停止したままなのか、残念な方向性に考えていきまして。

きっと100番目で呪いが解けると…」


「な、何故100番目だと?」


「それは…女性に対して、このようなことを申すのは心苦しいですが、

 ただ、キリがよいからと…自慢ネタになると…


本当に申し訳ございません!!」



18歳から?


私が100番目だと言っていた…


半年ごとに花嫁を迎えたとして、単純に計算して私は68人目…


ということは、残りの人数は見境なくメイド達を襲っていたのね



非道な行いが許せない


いったいどれだけの人を傷つけてきたのか…


私は憤りを隠せなかった。


「マクス、旦那様と話たいわ!」






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