51.

窓の外を見ながらそう切り出すと、「そうだな」と返事がした。

このまま話が続くかと思いきや、それっきり話が返ってこない。

違う話題を振るか、それとも話をするのが面倒そうであれば、今までのように黙ってお茶を飲んでいようかと、あれこれ思考を巡らせている時。


「⋯⋯この辺りは比較的、自然に触れられる機会があるな」


思考していた頭から御月堂に意識を向ける。

遅れて、「はい、そうですね」と相槌を打った。

ここで話を終わらせてはならないと、姫宮は話を続けた。


「安野さんとの散歩の時、マンション近くの公園に行くのですが、そこも一瞬都会だと思えないほど、木々がたくさん植わっていて、癒されるんですよ」

「そうなのか」

「はい」


無視されるかとどぎまぎしていたが、ちゃんと言葉が返ってきて、ホッとした。

と、その時、内蔵を蹴られたようで、「うっ」と小さく呻いた。


「どうした」

「あ、いえ。御月堂様のお子さんが蹴られたようで、その時内蔵が当たって、声を出してしまいました。失礼しました」

「ならばいいが」


御月堂が珈琲を口付けたのを、反射で姫宮も口付ける。

姫宮がグラスを下ろしたタイミングで、彼は口を開いた。


「母胎にいても、蹴るものなのか」

「はい。寝ていることが多いのですが、寝ぼけていたり、夜が活発になるのですが、そういう時が比較的蹴ってきますね」


腹部を優しく撫でると、もぞもぞと動いているのを感じた。


「今日はもしかしたら、御月堂様の声に反応をしているのかもしれませんね。一緒にいることが増えましたから、私との声が判別出来て、お父様だと分かっているのかもしれません」


いずれの父親となる人に渡す、姫宮との別れの時。

また独りになってしまうが、この子が無事に産まれてくれるのなら、幸せに思える。


「⋯⋯話しかけてみてもいいか」


自身の感情に浸っていた時、御月堂がそう言ってきた。

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