14.


それから、発情期ヒートが来る頃合いに、改めて御月堂の依頼を受けた。


依頼夫妻の受精卵を姫宮の子宮に入れる手術が無事に終わり、病室のベッドでまだ膨らんでいないお腹をさすっていると、声が降りかかった。

見上げると、御月堂がいた。


「ご苦労だった。明日以降は私が用意したマンションの一室に滞在してもらう。何かあれば、身の回りを世話をする者達に頼るといい」

「はい。ありがとうございます」

「では、明日からよろしく頼む」


「私は仕事に戻らないといけない」と言い残し、去るのを、姫宮はゆっくりと頭を下げて見送った。

御月堂の姿が見えなくなると、再び自身の腹部を見つめた。


『体調は大丈夫か。子どもは順調か』


腹の上に置こうとした手が止まった。

初めて妊娠した時、食べたくても戻してしまうつわりの症状に悩まされていた。

そのことを伝えると、心配する声が返ってきた。

その声に当時の自分はその言葉に酷く安心して、涙が溢れた。

そんな姫宮に対して、一瞬戸惑いを見せたものの、お腹の子と共に優しく抱きしめてくれた。

そんなささいなことさえ、幸せに感じられた。


「······」


夢物語を終わらせるように、瞼を閉じた。

今は御月堂様この子のために、仕事を遂行せねば。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る