2.



「──姫宮様、朝ですよ」


やや業務的な言葉と共にカーテンが開かれ、ちょうど日差しが顔に当たり、嫌でも起こされる形となった。


ついさっき見ていたのは、いつぞやかの現実とも悪夢であったのかと、流していた涙を拭いて、起き上がった。


どちらにせよ、悪夢を見るだなんて、依頼人の大事なお腹の子に悪影響だ。


「······おはよう、ございます」

「おはようございます。支度の手伝いをなさいますので、ベッドから下りてくださいませ」

「はい······」


ごく自然に差し出してきた手に対し、一旦引く仕草をしたものの、応じ、お腹の子を抱えながら、ゆっくりとした動作で下り、立ち上がった。

子どもを宿してから世話になっている人だけれども、未だに触れられることすら慣れないのは、この人から感じる個人的な感情からであろう。

それは、不快だという嫌な感情。


そのことは今回ばかりではない。前にも何度もあったことだ。

依頼人ですらそのような感情を向けられたこともあったが、大体が互いの身体的な理由でだとか、後継ぎを産まねばならないけれども、どうしても体を重ねたくないために仕方なしにと頼ってくる。


勝手だなと思う。


それもこれも、卑しい性であるオメガだという理由だけで差別してくるのだろう。


その第二の性というのがなければ、今頃、普通の男性として、普通の企業に入り、そこで会った人と結婚するなり子どもを授かったりするのだろうか。


「支度が整いましたよ」

「ありがとうございます」


抑揚のない礼を告げると、その人は怒りが抑えきれないといった息を吐いた。


「⋯⋯何度も言いましたが、私のような者にかしこまらなくていいと言ったはずです」

「ですが、私はただ依頼を受けただけの赤の他人ですから、砕けた言い方など大変畏れ多いことですので、どうかご容赦ください」


これこそ何度も言ってきた言葉で返すと、神経を逆撫でされたと言わんばかりに、「そうでしたね」と深いため息を吐いていた。

そのようなことしか言うことがないのなら、業務的なことをやっていればいいのにどうして突っかかってくるのか。

今回の依頼人は、姫宮に対して悪く思ってない比較的いい人だと思っていた矢先でこれだ。

こういうことでもお腹の子に影響を及ぼすかもしれないのに、穏やかに過ごさせて欲しいものだ。

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