第14話 幼馴染は俺に大きなお願いをする
「次はね……もっと大きなお願いするかも」
玲奈のその言葉が、俺の中でぐるぐると回っていた。俺が「お手柔らかに頼むよ」と返しても、玲奈はいつもの勝ち誇った笑顔を浮かべたままだった。これ以上の「お願い」って、一体何を仕掛けてくるつもりなんだ?それが気になりつつも、俺は彼女のペースに逆らえないことを改めて実感していた。
数日後、放課後の教室で玲奈がまた近づいてきた。机に座っていた俺の横に立つと、彼女は何やら嬉しそうな顔をして、俺に向かって小声で言った。
「ねぇ、今日もお願いがあるんだけど、いい?」
その言葉を聞いて、俺は一瞬身構えた。「次は大きなお願い」と言っていた玲奈が、何を企んでいるのかさっぱりわからなかったからだ。
「ま、またかよ……何だよ今度は」
俺はできるだけ警戒しながら、玲奈の顔を見上げる。すると、彼女はにやりと笑いながらこう言った。
「実はね、今度のお願いはちょっとスペシャルなんだよね。『夜の帝王』のセリフをクラスのみんなに披露されるか、それとも私に付き合って、今日一緒にある場所に行くか、どっちか選んで?」
「ちょ、ちょっと待て!『夜の帝王』ってまたそれかよ!」
俺は即座に抗議したが、玲奈は構わず続けた。
「どっちがいい?クラスのみんなにあの伝説のセリフを聞かせる?それとも私に付き合って、今日だけで済む『お願い』を聞く?」
玲奈は俺を挑発するように、軽く眉を上げた。もちろん、俺に選択肢なんてあるわけがない。クラスのみんなにあの黒歴史を披露されるわけにはいかないし、玲奈に付き合う方がまだマシだ。
「……わかったよ、付き合う。で、どこに行くんだ?」
玲奈は満足そうに笑みを浮かべ、俺の腕を引っ張って立たせた。
「今日はね、私の家に来てほしいの。ちょっと大事な話があるから」
「お前の家?」
一瞬、俺は驚いた。玲奈の家には何度か遊びに行ったことはあるけれど、最近は全然そんな機会がなかった。玲奈がわざわざ「大事な話がある」と言って誘ってくるのも、なんだか妙に感じられた。
「そう。大事な話だから、しっかり付き合ってよ」
玲奈の目は真剣で、からかうような軽い調子はなかった。俺は少し不安を感じながらも、仕方なく頷いた。
玲奈の家に着くと、彼女はリビングに俺を案内した。彼女の家はいつも綺麗に整頓されていて、どこか落ち着く雰囲気があった。だが、今日はなんだか緊張感が漂っているように感じる。
「ここ座ってて。飲み物持ってくるから」
玲奈はそう言って、俺にソファに座るよう促し、キッチンへと向かった。俺は言われるままにソファに座り、周りを見渡す。久しぶりに来た玲奈の家だけど、昔から変わらない雰囲気だ。ただ、今日は妙に静かだ。
しばらくして、玲奈が飲み物を持って戻ってきた。俺にコップを渡すと、彼女は向かいの椅子に腰を下ろした。
「ねぇ、拓」
「なんだよ?」
俺が緊張しながら返事をすると、玲奈は少し真剣な表情で俺を見つめた。
「実はさ、前からずっと言いたかったことがあるんだ」
俺はドキリとした。玲奈がこういう真剣な顔をすることは、そう多くない。彼女は普段、冗談半分で俺をからかったり振り回したりしているが、こうやって静かに話し出すときは、何か大事なことがあるに違いない。
「……何?」
俺が尋ねると、玲奈は少し間を置いてから続けた。
「前に言ったでしょ?私、ずっと拓のことが好きだって。でも、あれだけじゃ足りないと思ってる」
玲奈の言葉に、俺は言葉を失った。彼女が以前、俺に告白してくれたことを思い出す。だけど、今回はそれ以上の重みがある言葉のように聞こえた。
「実は、今日家に来てほしかったのは、もう一度ちゃんと私の気持ちを伝えたいと思ったからなの」
玲奈は深呼吸をし、俺の目をまっすぐに見つめてきた。
「私は、拓がただの幼なじみとして私を見てるんじゃなくて、一人の女の子として見てくれるようになってほしいって思ってる。だから、私、もっと積極的に拓にアプローチしていくつもりなんだ」
その言葉に、俺は心臓が大きく跳ねた。玲奈が本気で俺との関係を進めたいと思っていることは、前にも感じていた。でも、ここまでしっかりとした言葉で伝えてくれると、やっぱり改めて驚くし、戸惑いも大きい。
「俺……」
なんて答えればいいのか、すぐにはわからなかった。玲奈がこうやって本気で俺に気持ちをぶつけてくれるのは嬉しい。だけど、俺はまだ自分の気持ちを整理しきれていない。
「わかってるよ、急に答えを求めてるわけじゃない。拓も私に対して、どう思ってるかまだわからないのかもしれない。でもね……私、待つつもりはないんだ」
玲奈はにっこり笑いながら、少し挑戦的な口調で言った。
「これからもずっと、こうやって拓の弱みを握って攻めていくから。それで、拓が私を意識しちゃうようにしてあげる」
そう言って、玲奈は俺をからかうような笑みを浮かべた。それを聞いて、俺は一瞬ため息をつきそうになったが、同時に少しだけ笑ってしまった。玲奈は、本当に攻めてくるのが上手い。
「それで、今日は何をするんだよ?また何か企んでるんだろ?」
俺がそう言うと、玲奈は満足そうに笑って、「よくわかってるじゃん」と言った。そして、彼女はスマホを取り出し、またおなじみの中学時代のセリフを読み上げた。
「――『夜の帝王の前では、すべてが無に帰す』」
「お前、それはやめろって!」
俺は慌てて止めようとしたが、玲奈は笑いを堪えながら続きを言った。
こいつ俺の小説のセリフをメモしてやがる……!?
「そうやって拓が慌てるのを見るの、楽しいんだもん」
俺は再び彼女に振り回されていることを感じながら、これからもこの調子で攻められ続けるのだろうと思った。だけど、そんな玲奈の強引さが、どこか心地よくも感じている自分がいるのも確かだった。
「まあ……今日はお前のペースに付き合ってやるよ」
俺がそう言うと、玲奈は嬉しそうに目を輝かせた。
「ありがと、拓。でもね……次はもっと大きなお願いだから、覚悟しておいてね!」
玲奈のその言葉に、俺は軽く肩をすくめながら「はいはい」と答えた。彼女が俺に仕掛けてくる次の「大きなお願い」はなんだろうか、不思議とそれを考えると嫌な気持ちはしなかった。
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