第14話 投槍×帰還

 探専で受ける魔法測定では、最初に第二魔法の性質を確認し、その性質に応じて強化型(正)と干渉型(従)に振り分けられる。これに基づいて、さらに五つの項目――威力、持続力、影響力、汎用力、支配力――がそれぞれ秀、優、良、並、劣の五段階で判定される。


 これらの評価をもとに、魔法の位階が決定される仕組みだ。五位から四位に分けられ、その中でもさらに上、中、下に分類される。


 例えば、正四位を称していた高階たかしなさんは正式には「正四位上」、従四位の平塚さんは「従四位中」となるらしい。


 位階の表現方法は、国内の特殊な序列に従うもので、これは二十年以上前の主要国首脳会議で議論された結果、各国での呼び名の違いはその国の事情に従うことになったという。

 しかし現在では、名乗りをあげる際に「上」「中」「下」といった細かい区分は省略されることが一般的だ。

 こうした事情は、単純に名乗りの簡素化と社会的な慣習——国際的な呼び名に準じることなどが反映されていた。



 測定において、五項目に対して一項目ごとに最大五点で二十五点満点ということになるため、最低得点の五点が五位下、五点ごとに繰り上げて満点のときに叙される最高位は四位中となる。


 毎年一年生の結果の大半が五位中。四、五人が五位上で、四位下を叙されるのは数年に一人でるかどうかだそうだ。じつは卒業生ですら四位に到達する生徒は毎年一桁ほどしかいないらしい。そのため、学校から転移できる五つの迷宮のランクは、Eが一つ、Dが三つ、Cが一つとなっている。


 CランクであるシャドウウルフがEランクの『迷いの森』に現れたことは、相当イレギュラーなことのようだった。




  魔法測定ギフトテストのため、引率の高階たかしなさんと平塚さんとともに「迷いの森」へ転移した俺たちは、転移先の広場で待っていた大道寺さんと他の二名の魔法士ギフテッド、測定を終えて見学していた数名の同級生たちと合流し、迷宮内の魔物を探して歩き始めた。


 しばらくして、一体のコボルトが現れた。


「最初は十八女さかりくんですねぇ。えーと、第二魔法ギフト名は〝昇穿侵槍グングニル〟、強化増幅型ですかぁ。元型アーキタイプは北欧神話のオーディンですねぇ。それでは早速、準備して倒しちゃってくださいな」


「あ、はい。わ、分かりました」


 大道寺さんに急かされて、慌ててカオルは第二魔法〝昇穿侵槍グングニル〟を顕現させた。槍の穂先から石突まで、彼の身長を軽く超えるほどの長さで、かなりの威圧感を感じさせる。

 カオルは、槍を軽く回転させながら、穂先をコボルトに向け、頭の横へと掲げた。


ことごく貫け、〝昇穿侵槍グングニル〟!」


 次の瞬間、カオルはまだ百メートル以上離れているコボルトに向かって槍を投げ放った。最初は軽く放り投げたかのように見えたが、長槍はすぐに加速し、あっという間にコボルトを貫通。貫かれたコボルトは、長槍の瘴気に包まれた瞬間、次の瞬間には魔石だけが残った。


「おお、必中の投槍の権能ですかぁ。元型通りの模範的な権能ですねぇ。うーん、瘴気の効果は何でしょうかぁ? 田中さん、分かりますか?」


 大道寺さんは、一緒にいた男性、田中さんに尋ねる。田中さんは少し考えてから答える。


「……はい。彼の第二魔法〝昇穿侵槍グングニル〟は、神話通りの必中の権能に加えて、魔素マナ構築体を侵食し、分解する権能も持っているようです。倒されたコボルトが瞬時に消えたのは、その権能の影響です。通常の効果としては、体内の魔素をかき乱して、体調を急激に悪化させることが可能なようです」


「なるほど、コボルトの体を構成していた魔素を分解したんですねぇ。槍が手元に戻る権能も、その分解作用と関連しているのでしょうかぁ。体調悪化という効果は、シンプルでありながら非常に強力な権能ですねぇ」


 二人の会話を聞きながら、カオルの方を見てみると、〝昇穿侵槍グングニル〟が瘴気を散らしながら、彼の右手に戻ってきていた。


 その光景を見て、残って見学をしていた同級生たちは少し驚いた様子で息を呑んでいる。その威力と精密さ、そして槍が戻るという奇妙な現象に、誰もがその魔法の強大さを実感しているようだった。


「そうですねぇ。威力秀、持続力並、影響力優、汎用力並、支配力優で、17点。正五位上ですねぇ。なかなかの好成績ですぅ」


「わあ。あ、ありがとうございます」


 大人しそうなカオルの魔法と成果に、周りの同級生たちは大分驚いているようだった。

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