第12話 安堵×合流
とりあえず男へと戻ってみたが、男になった途端にユキが泣きながら抱きついてきたのには本当にびっくりした。いつも中性のときには、感情が希薄になって上手く話せなくなるので、とりあえず転身してみたんだけど、こんなことなら女に転身しとけば良かったか。
「本当にだいじょうぶなの? ミコト、怪我はない?!」
ユキの声は震えていて、心から心配しているのが伝わってきた。
普段の明るくおっとりとした彼女からは想像できないような必死さだ。それが、ますます俺の胸を苦しくさせる。
「俺は大丈夫。ユキこそ、傷だらけじゃないか……。ごめん、俺を守ってくれたんだよな」
「ううん、ミコトが無事でよかった。それに、これはもう治ってるよ。〝
ユキが言っているとおり、彼女の頬にあった傷跡を拭うと、その下からは綺麗な白い肌が現れた。
「
ユキが詩うように呟くと、生み出した
傷だらけの姿や急に抱きつかれたりと大分動揺はしたが、何とか平静を装いつつ二人の無事を確かめ合っていると、
「お疲れさま」――高階さんの声が響いた。彼女は少し息を整えながら、他のみんなに目を向ける。
戻ってきた高階さんたちの話によると、無数の分体を産み出していたシャドウウルフの本体は、俺とユキが倒した一頭だけではなかったらしい。平塚さんと後に合流した高階さんが一頭、フジコとカオルも別の一頭と遭遇したようで、合計で三頭もいたそうだ。
「結局、全部で三頭か? 本当に厄介な相手だな」
平塚さんが少し呆れたように言うと、フジコも頷きながら続けた。
「そうね。でも、無事に倒せてよかった。私たちだけではどうにもならなかったから、援護に回ってくれた高階さんたちに感謝しないと」
フジコの言葉に、高階さんが軽く頷く。
「天津さんの第二魔法、というか第一魔法もだけど凄いわね。三種類の第二魔法を使い分けられるとか、初めて聞くわ」
「第一から第三まで、すべての魔法は一人一種のはずだから、便利どころじゃないよね。まあとりあえず俺の目の保養のためにも、女の子に戻って貰えると嬉しいんだけど」
「トウヤ……」
「ごめんなさい、黙ってます」
高階さんは視線を鋭くさせて平塚さんを再び強制的に黙らせたあと、そのまま眉間にしわを寄せたまま呟いた。
「今回はイレギュラーとはいえ、シャドウウルフでまだ良かったわ」
「え? な、なんでですか?」
疑問に思ったカオルが尋ねる。
「シャドウウルフは、個体の強さ自体は大したことないのよ。せいぜいがDの中ぐらいかな。ただ、実感した通り分体の多さとしつこさが厄介なの。本体を始末するまで、分体は倒しても倒しても新たな影から復活するから。分体の強さがEランク程度なのがまだ幸いだったわ」
「なるほど、分体の強さが低かったから何とかなったが、数が多かったから油断できなかったってことですか」
フジコが静かに補足した。
入学したての第一魔法しか使用できない一年生の位階は六位相当。つまり、本来なら討伐可能な魔物は同ランク帯であるEランクなのだ。
今回のシャドウウルフは第二魔法に目覚めてさえいれば、分体は元より本体すらも魔法士が二人いれば大概はなんとかなる程度の強さだった。
ああして二、三頭で群れた上に、分体を無数に召喚して数で圧してくる厄介さがCランクになっている理由のようだ。
「さて、トラブルもありましたが、なんとか全員が無事に第二魔法を使えるようにもなったことですし、そろそろ戻りましょうか」
柔和な表情に戻った高階さんが、班のみんなを見渡しながら言う。
「うん、もう疲れたよね。おつかれさま、みんな」
「そうだな、ユキもお疲れさま。今日は本当に助かったよ」
ユキが少し笑いながら言うと、私たちはお互いに頷き合って、学校へと向かうことにした。
こうして、大変だった怒涛の一日がようやく終わりを迎える。
空を覆っていた雲がゆっくりと流れ、木々の隙間から柔らかな陽光が差しこんだ。
暗闇に包まれていた迷宮に、まるで爽やかな風が吹き抜けたように感じた。
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