第20話
次の日、宿が用意する朝食が部屋に運ばれてきて食べながら今日の予定をレイと立てていく。
家を借りる前にトリシアさんと話し合ってくるとのことで、家探しは昼過ぎにすることになった。
それまで私はこの部屋で黙々とポーション作りをすることにした。
朝食を済ませるとレイは訪問があっても絶対出ないようにと言ってトリシアさんの部屋へ向かった。
待ってる間早速ポーション作り。
アーリトンには二十日滞在する予定だから、この二十日滞在費用と出た後の旅費を稼ぐ必要があるから特級ポーションを二本くらい売る必要がありそう。
他少し高くなる中級ポーションを中心に売り稼ぐ予定。
特級ポーションは薄めるだけの簡単な作業だからすぐ終わって中級ポーション作りにひたすら集中した。
集中してると時間が経つのは早いもので、お昼過ぎレイが戻ってきた。
「おかえりなさい。トリシアさんは納得してくれた?」
「どうだろうな……ただ明日には護衛の依頼をするかどこかのパーティーに臨時加入させてもらうかで帰るようだ」
「そう」
「色々悪かった」
「レイが謝ることじゃないでしょ」
正直もう二度と会いたくないまであるけどレイにとっては大切な仲間だから心の奥にしまっておこう。
さて家探しをするために作ったポーションをアイテムボックスに入れて準備をしていると扉をノックする音がした。
レイと無言で見合わせ扉を見る。
トリシアさんはさすがにもう来ないだろうし、そうなるとこの宿の人以外訪問は無いはず。
「俺の後ろから離れるな」
「……分かった」
レイの後ろに着いてゆっくり扉に近づきレイは剣に手を添える。
「誰だ?」
「俺だよレイ~久しぶり!」
「……」
明るい男性の声が聞こえてきた。
その声色を聞いたレイは顔をこわばらせて緊張した面持ちになり、レイがこんな緊張するのは初めて見る。
「開けてくれないかな~?」
「……なぜここに?」
「あ、やっぱりいた!
早く開けてくれないか?俺がここにいるの他のお客さんにバレたら困るのはレイだよ?」
「……少しお待ちください」
レイが敬語使ってる!
え、ということは今部屋の外にいるのは凄い人?
レイは一旦私を部屋の一番奥にいるように伝えて絶対動くなよと言われ頷き奥に待機。
「いいか、今から入ってくる奴に何か聞かれても答えるな。全て俺が答える」
「わ、分かった……」
レイはゆっくり扉を開くと勢いよく入ってきた人物により抱きしめられて少しよろけた。
「久しぶりレイ!」
「……お久しぶりですライト殿下」
思わず変な声が出そうになった。
今殿下って言わなかった?殿下ってあれだよね、殿下だよね。
つまり王族ってことだよね?いやいやさすがに聞き間違いでしょう。
だってなんでここに王族がいるのって話なのよ。
「元気そうでなによりだよ。
あっ、君がレイを護衛として雇った子だね」
抱きついたままレイの肩越しから顔を出して私に話しかけてきた殿下。
顔しか見えてないけど眩しくて目が消し飛ぶかと思った。
眩いほど綺麗な金髪に青色の瞳、整った顔。
完全に王子様だ。殿下と言われて納得できるほど眩しい王子様がいた。
あまりに眩しくてあの黙ってれば眩しいでお馴染みのシャリオンさんレベルの顔面の強さに思わず目が眩しくて細くなってしまう。
「……なぜ殿下がそれをしっているんです?」
「俺の情報網を舐めてもらっちゃ困るよ。
レイがあの街を出るって聞いたからね」
「……はぁ……とりあえず離れてください」
レイは大きくため息をつくと抱きついたままの殿下の肩に手を置いて引き剥がす。
そして私から離れた所に椅子を置いて座るように促すと殿下はご機嫌な表情で椅子に座ると足を組んだ。
王族だ。服装も漫画とかで見る作り込まれた白い服装だ。凄い。足も長くて顔も小さくて何より眩しい。
王子様なんて初めて見た。漫画とかで美しすぎて倒れる表現が使われることがあるけど今気持ちが分かった。
本当に美しくて今倒れそう。
「それで、あなたがなぜここへ?護衛はどうされたんですか」
「外に待機してるから問題ないよ。何かあったらレイがいるしね」
「理由をお話しください」
「うん、ちょっとそこの雇い主に用があって」
「……は?」
眉をひそめるレイと同時に私も思わずは?と言いそうになったのをなんとか堪えた。
私を見ながら言ったよね。
「レイは外で待機してて」
「……無理です。俺は護衛なので」
「うん、でも俺が外にいてって言ってる意味がわかるね?」
「……」
私に話があるからレイに部屋を出ろって言ってる殿下の圧が強い。
ずっとニコニコしてるのに有無言わさずな圧が。
これが王族。
「ほら、早く」
「……できません」
「ふーん……じゃあレイをこのまま捕まえちゃおうかな?俺に対する不敬罪とかで」
「……」
「誘拐罪でもいいね。俺は普段こういう場所に来ないから誘拐されたって言えばこの子と共に捕まえられるね。
そうしたらレイは元勇者パーティーだから軽く済むけどこの子は犯奴隷になっちゃうかも」
ニコニコしてるのに言ってることが恐ろしすぎる。
不敬罪も誘拐罪も冤罪なのに確実にそれで裁かれるという確信を持てるほど。
初めて会った殿下がなぜ私と二人で話したいと言ってきたのか。
どうしよう、でもレイは何も話すなと言っていたからここで私が勝手に何か言えば不利になりかねない。
「できません」
「へぇ?俺に逆らうの?」
「……いくら殿下でも平民と二人きりにはできません。
どんな事情があろうと、俺は今彼女の護衛です。
王族と二人にされた平民を黙って見てるわけにはいきません」
「外で待機してるんだから問題ないだろう?」
「問題あります。話があるのなら俺がいる場でお願いします」
王族相手でも毅然とした態度見せるレイに殿下のニコニコが消え真顔になった。
その表情に思わず全身に鳥肌が立ち産毛が逆立つ。
怖い。心臓がうるさく鳴り冷や汗がこめかみを流れる。
「……レイは俺を敵に回してもいいんだ?」
「主人を守るのが俺の仕事です。王族だからと差し出しては俺は仕事をしていないことになる」
「……」
「……」
目を逸らすことなく殿下を見るレイ。
時間にして数秒の無言。なのに長く感じるほど空気は重く、尋常じゃないほどの冷や汗が背中にも伝い身体が震える。
その時殿下が急に声を上げて笑いはじめた。
「……さすがレイだよ~!!たとえ相手が王族だろうと主人を守るところ!」
「……」
「俺はそんなレイが好きなんだよなぁ!」
急に笑い出すものだから私もレイも何も言えずにいる中殿下は「ごめんごめん」と組んでいた足を崩した。
「まぁ、できれば内密にしたくてレイに席を外してほしいのは本音だけど仕方ないか」
「彼女は王族とは無縁なんです。立場をお考えください」
「そうだね。君名前は?」
「……」
答えていいのか分からずレイを見ると頷いてくれたので「ミヤコと申します」と名前を伝えた。
「ミヤコね。
さて、私はアーネスト•ライト。
この国の王太子だ」
「あっ、えっと……」
「ああ、いいよ。ここで貴族の礼儀を求めるつもりはないからそのままで」
「実はミヤコにはとある依頼があってね。
これは父上も知らない重要な依頼なんだ」
礼儀作法が分からず慌てる私を手で制するとライト殿下。
依頼ってまさかポーション?どこで知ったのか。
「ライト殿下、王族が平民に重要な依頼をするなど聞いたことがありません」
「でも彼女は普通の平民じゃない」
「平民です」
「いいや、特級ポーションが作れる平民だろ?」
「……」
なぜそのことを知っているのか。
まさかギルドマスター達が殿下に逆らえず情報を漏らしたのか。
いやでも誓いの契約をしたはずだから私の情報は漏らさないはず。とはいえ、特級ポーションは私以外でも少ないかもしれないけど作れる人はいるはず。
鉱石で有名なアーリトンなら絶対常駐してる人がいるはずで、特級ポーションが作れるくらいで王族が平民に会いにくるのはおかしい。
「特級ポーションが作れる者はアーリトンにもいるはずでは?」
「うん、でも俺が作ってほしいのはちょっと特殊な特級ポーションなんだ」
「……」
「残念ながら我が国にいる賢者では作れなくてね。
だからミヤコに依頼しようと思ってね」
「お断りします。特殊な特級ポーションが作れるわけない」
「作ってもないのに?
彼女の登録されてる魔力も確認したし、現に君の街で特級ポーションを売っただろう?」
「……どこまで調べたんですか?」
「それ以上のことは調べてないよ。
特級ポーションが作れるという情報さえ手に入れば良かったからね」
確かに私の魔力を書き換えるとは言ってたし特級ポーションが作れるということは後々色々大変だということは聞いていた。
だけどまさか王族が直接来るとは思わないじゃん。
「勿論報酬は用意するよ。
悪い話じゃないだろう?」
「悪すぎるんですよ。その特級ポーションが作れなかった場合は?
失敗した場合俺もミヤコも処刑される内容ですよ」
「大袈裟だなぁ。失敗しなきゃいいんだよ」
いやそれかなり危険じゃん。
王族の依頼なんてどう考えても難易度高くて失敗=死なのは間違いない。
険悪な空気も気にした様子を見せない殿下とあのレイですら冷や汗が顔に伝ってる。
それだけで相手が王族でヤバいということがわかる。下手に何か言ったら危険だからレイから許可が出るまでは絶対黙ってないと。
「安心してよ。別にミヤコだからってわけじゃなくてね、ここら辺で特級ポーションが持ち込まれたら全員調べていてね。
そしたらミヤコが特級ポーションを売ったからこうして来たわけだよ」
「……特殊な特級ポーションなんて聖女クラスですよ。勇者で作るのが可能になるかです」
思わず変な悲鳴が出そうになった。
聖女クラス、勇者クラスってもうこの世のトップクラスじゃん。というか聖女もいるんだ。
「別に聖女や勇者だから作れるわけじゃなく、それクラスの魔力量が必要って話だ。
つまり、単純に考えたらこの広い世界にはそれくらいの魔力を秘めた人間が生まれないとは言い切れないだろう?」
「それを作れると触れ回ってるわけじゃない平民に作れと依頼するのはあまりに横暴じゃないですか?」
「うーん、けどわざと隠してる可能性も考えると果たして横暴なのかな?」
まさに今ああ言えばこう言う状態でレイが言い負かされてる。
強すぎる王族って。
ただ分かるのは依頼を受けると言うまで殿下はここを絶対動かないってこと。
困った……。
「仕方ない。じゃあ先に依頼する事情を話すよ。
聞いてから受けるか決めてくれたらいい」
「冗談を。聞いたら最後、王族の情報を知った俺達を野放しにするわけがないでしょう」
「さすが元勇者のパーティーにいただけあるね。
もう諦めなレイ。王族に目をつけられるっていうのはこういうことだよ。
特級ポーションが作れるほどの魔力量そもそも他の国ならもっと酷い脅しをしてくる」
「……」
「ところが俺は特級ポーションさえ作ってくれればそれでいいと言ってるんだ。良心的だろう?」
多分鑑定見る限り材料さえあれば作れる。
聖女クラスで作れる特殊な特級ポーションってだけで貴重なのは分かるし危険度増すのもわかる。
この世界については無知だけど人間関係はさすがに前の世界で仕事してたから空気くらいは察する。
今安易に口出しすることも、特級ポーション作りますと伝えるのも絶対しては駄目。
漫画の展開だとここで作りますよみたいになるだろうけど、私はそんな展開より自分の命が大事だから絶対口出しはしない。
「ねぇレイ。君は俺のこの依頼を受けるべきだよ。
だって勇者がいれば平民に依頼しなくていいことを……勇者が行方不明なのは誰の責任だ?」
「っ……ライト……殿下」
「君は勇者が行方不明になった直接的な原因。
勇者がいないことで困る国は沢山あるわけだ」
「……」
「ねぇ、レイ。その責任は君が取るべきだよ」
殿下は椅子から腰を上げると冷や汗を流すレイまで近寄り肩に手を乗せた。
「勇者を置き去りにして逃げた君は責任を取らないとね?」
「……」
「や、やります!!!」
詳細はわからないけど今レイがかなり追い詰められてるのが空気と表情見れば分かる。
そう思ったらたまらず声を上げてしまった。
レイが目を見開き驚いてるけど、もう黙ってるわけにはいかなかった。
「作れるかは分かりません、けどやりますから!」
「おいミヤコ」
「それは良かった!レイ、ミヤコはなかなかの度胸ある話のわかる女の子だね」
レイの肩から手を離し振り向く殿下は満面の笑み。
それが凄く怖くて手が震えるのをなんとか握りしめて抑える。
「さて、じゃあ詳しい話をしようか」
「……殿下、なぜそこまで」
「悪いね、俺もなりふり構ってられる状況じゃないんだ。
レイを追い詰めてでもこの依頼を成功させなくてはいけない理由がある」
「……」
「っと、そうだ。今日はこの後父上との会議があったんだ。
想定より時間かかってしまったからまた明日にしよう」
「……家を借りる予定なので、借りた家に来てください」
「分かった、そうするよ。安心して、逃げないよう影はつけるけど盗聴はしないよう命令しておくから」
じゃあ、また明日と殿下は部屋を出ていった。
黙ってるレイと全身の強張りが取れ腰を抜かし床に崩れ落ちた。
王族思ってた以上に怖すぎる。
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