第2話 邂逅(かいこう)

 外からの陽ざしがカーテン越しに届く。

「うーん……。良く寝た」

 私はベッドの中でのびをした。


 昨日は食事をして、後は眠っていた。それから夕方にお医者さんが来て、私の体調を確認し「もう大丈夫でしょう」と言って帰って行った。


 ドアがノックされた。

「どうぞ、入ってください」

「失礼いたします」

 メイドのアンナがおそるおそると言った様子で部屋に入ってきた。

「リーズ様、ごかげんはいかがですか?」


「だいぶ良くなったわ。ありがとう、アンナ」

 私が微笑んでから答えると、アンナは不安そうな表情を浮かべている。

「朝食をお持ちしてもよろしいでしょうか?」

「お願いします」

「……はい」


 アンナはまだ私の様子に不安げな表情をしている。

「やっぱり、熱のせいでおかしくなってしまわれたのかしら……」

 アンナのつぶやきを聞いて、私は「しまった」と思った。


 だって『ユニコーンの乙女』のリーズは、高慢でわがまま。私みたいなしゃべり方はしないはず。でも、今さらキャラを作るのも疲れるし、ぼろが出るのも困る。もうここは高熱の影響で性格が変わったということにして、このまま素の私でふるまおうと決めた。


 朝食を終え、ぼんやりしているとまたドアがノックされた。

「はい?」

「パール様とクライブ様がお見舞いにいらっしゃいました。お通ししてもよろしいでしょうか?」

「え!? は……はい!! はい!! どうぞ!!」


 まさか、パールたんがお見舞いに来てくれるなんて! さすが天使!

 私はだらしなく緩む表情筋を押さえつけながら、すました顔をしようと努力した。にやけた顔を見せて、パールたんに引かれたら嫌すぎる。


 ドアがノックされ、私より少し年上の青年が部屋に入ってきた。

「失礼する。具合は大丈夫か?」

「誰?」

「クライブ・ブレイクだ。まさか、記憶を失ったのか?」

「ああ。いたわね、そんな名前のキャラ」


「キャラ?」

 訝し気に眉を顰めるクライブに私はしれっと挨拶をし直した。

「いえ、失礼いたしました。クライブ様、お見舞いありがとうございます」


 クライブの後ろからぴょこんと顔を出したのは……。

「パールたん!! 本物っ!! ……っいえ、パール様! 来てくださったのですか!? 私なんかのために!!」


 ベッドから飛び降りようとする私をあわててアンナが制止する。

「リーズ様、お体にさわります。落ち着いてください」

「だって、だって、パール様が……」


「あの、私、心配で来てしまったのですけれども……かえって良くなかったでしょうか?」

 不安そうに眉を落とすパールたんに慌てて弁解する。

「違います! 来てくださって本当に嬉しくて、天にも昇りそうな気持で!」

 あ、ちょっと私きもかった? と少し冷静になって、深呼吸をしてから、もう一度パールたんに話しかけた。



「パール様がお見舞いに来て下さるとは思いませんでした。ありがとうございます」

 私はパールたんを舐めまわすように見た。透明感のある白い肌、柔らかそうな金色の髪、サファイアのような青い瞳……本物はゲームよりもさらに美しくて可愛らしい。興奮しすぎて心臓が止まりそう。


「リーズ、顔が赤いがまた熱が出てきたのではないか?」

 そう言ってクライブは私の額に手を当てた。その時パールたんの表情が切なく曇った。

「大丈夫です!」

 私はクライブの手を払い、パールたんに微笑みかける。パールたんは切ない目でクライブを見ている。あ、そういうことなの? と私は思ってクライブに言った。


「パール様と仲がよろしいのですね、クライブ様」

「いや、そういうわけではない」

 クライブはパールたんから一歩離れると私の手を取った。

「私の心をとらえているのは……」


 パールたんの顔から血の気が引いている。

「パール様がいらっしゃるのに?」

 私はクライブの手をもう一度払いのけ、冷ややかな目でクライブを見た。

「やっぱり、私、お邪魔だったようですね」

 パールたんが涙をこらえて微笑んでいる。


 ああああああっ! 可愛いっ! でも傷つけたくない!!


「お話していたら、疲れてしまったわ。今日は来てくださってありがとうございました。パール様、クライブ様、またお会いしましょう」

 私は部屋のドアを手で指し示した。


「お大事に、リーズ」

「リーズ様、お邪魔いたしました」

 二人が部屋を出て行き、足音が遠ざかったのを確認してから、私はベッドに顔をうずめて叫んだ。


「ああああああ!!!! パールたん!!!! まじ天使すぎる!!!」

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